104.嫌いっ! 来ないで
パパとお庭を散歩した。広がる砂のお庭に、茶色い丸い箱がある。その上に花が咲いていた。
「あれは鉢だ。カリスの好きそうな花を植えさせた」
四角くて大きな鉢もあった。ここはお砂ばかりで、花が育たないんだって。前に行った公園の土を入れた鉢を並べて、そこで花は育ち開く。綺麗だけど、お花は寂しくないのかな。家族と離れちゃうよ。
「カリスらしい考えだ。なるほど、家族ごと引っ越すようにするか」
「うん。寂しいと思うの」
僕がパパと離されたら寂しいし、悲しい。だからお花も一緒だよね。鉢をいくつも並べて、家族が同じ場所にいたら寂しくないよ。お花をそっと撫でる。強く触ると折れちゃったり、花びらが取れちゃうんだ。前にアガレスが教えてくれた。
僕の絵本には、アガレスと一緒に作った押し花が挟んである。悲しいけど、折れたら押し花にするしかないんだよ。手を繋いで歩いていた僕を、パパが抱き寄せる。不機嫌そうな顔のパパが見ているのは空で、僕も同じように見上げた。
翼のある人だ。あれは……どっちだろう。天使? 悪魔? 僕に痛いことする人かな。
「またお前達か」
パパが急いで僕を抱き上げた。ぎゅっと首に手を回す。こうしてたら離されちゃう心配がないの。僕はパパと一緒がいいんだもん。パパの顔に頬を寄せて、すりすりと動かした。
「嫌な顔しないでください。僕だって、好きで熾天使なんて地位に就いたわけじゃないんですから」
天使、だ。白い羽があって、僕に鎖をつけようとした!
「嫌いっ! 来ないで」
足につけられた輪は痛くて、ピリピリした。それに僕をパパから離そうとしたよ。白い翼はパパも同じだけど、怖い。銀の剣で僕を叩こうとした。パパの首に顔を埋めてそっぽを向く。
「……嫌われちゃったか」
「仕方ないよ、あいつらの所為だけど、天使が悪かったのは間違いない」
二人いる天使はぼそぼそと話している。その声がしょんぼりしてるから、隙間からちらっと見た。金色の髪で、青い目の人と緑の目の人だ。白い翼がいっぱい生えてて、わさわさしてた。
「好かれる理由があるまい。カリスが怖がるから帰れ」
「じゃあ、これだけ渡してくれる? 美味しいお菓子なんです」
「目の前で毒見したら食べてくれるかも。この絵の具も渡して。それと人間の子どもに人気の絵本もある」
パパが僕の様子を見る。目がばっちり合っちゃった。どうする? そんな顔で僕の目を覗き込んだ。恐る恐る振り向くと、二人ともパパの足下にしゃがんでた。何かを置いてるみたい。今話していた絵本や絵の具なの? お菓子もあるの?
「カリス、少しだけ顔を見せてやれ。お前にプレゼントを持ってきてくれたぞ。お礼は言えるか?」
「うん……あり、がと」
ぱっと二人の天使は明るい顔になって笑った。きらきらしてる。プレゼントを見たら、いっぱいあった。僕の分だけじゃないみたい。
「天使は怖いんだろう? すぐに帰るからね」
手を振る二人にすごく悪いことを言った。天使だから全部悪いわけじゃないのに。悪魔もパパやアガレス達みたいに優しい人と、僕を攫った悪い人がいる。それなのに、天使だからって嫌うのはいけないよね。
パパの顔を見ると、頷いた。やっぱり、僕が間違ってた!
「あのっ!」
飛び去ろうとする二人を呼び止め、でもどうしたらいいか分からない。困ってきゅっと唇を尖らせた。口元に寄せた指を噛む。
なんて言えばいいの? 謝りたいけど、いきなり謝るのは変かな。どうしよう。困り顔の僕を見る天使達は、なぜか顔を見合わせて笑った。
「ゆっくりでいいよ、僕らは時間あるから待てる」
そう言ってくれてほっとした。
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