51.いってきます!
やや眠い目を擦りながら、欠伸をする。僕を抱き上げたパパが、目元にキスをしてくれた。腫れた感じの目が楽になる。パパのキスはお薬みたい!
「楽になったか?」
「うん、ありがとう。パパのキス好き」
「そうか」
「あ、パパはもっと好き」
なんだかがっかりした気がして、僕は付け足した。パパのキスが好きだけど、それはパパがしてくれるからだよ。僕の言葉でパパが嬉しそうにしてると、僕はすごく幸せになる。たくさん嬉しいや楽しいを貰ってるね。
「街に出るが、店の中以外はこのままだ」
後ろからアガレスが説明してくれた。僕はまだ小さいから、人の間に入ると見えなくなっちゃう。誰かが間違えて連れて行ったり、可愛いから攫うこともあるんだって。僕は可愛いの? こてりと首を傾げたら、パパが頬擦りした。
「これ以上可愛い子を、俺は知らないぞ」
「パパも可愛いし綺麗」
なぜかアガレスが口元を押さえて苦しそう。具合が悪いのかな。パパはいつも綺麗で、優しくて、僕を大事にする。それに可愛いんだよ。僕が昨日寝れなくてぬいぐるみの狼の耳を弄ってたら、僕を抱っこして動かなくなったの。あれ、僕をぬいぐるみと間違えたんだと思う。
「それは……ちょっと違うが、まあいいか」
もごもごとパパが何か言いながら、階段を降りた。まだ街じゃないけど、僕はパパに抱っこされてる。すたすたと階段を降りていく途中で、マルバスを見かけた。手を振って、返されて……外に出たらアモンが銀の棒をぶんぶん振り回してる。
「あれ、何?」
「戦うための道具だ。アモンは強いからカリスを守れる」
「うん。パパとどっちが強い?」
「それは陛下ですね」
さらりとアガレスが答えた。今日のお仕事はアガレスがマルバスと片づけるんだよ。僕とパパがいないけど、護衛という守る人はいらないと聞いた。パパがすごく強いから? アモンはお仕事みたい。
「今日のお姿も愛らしいですね。陛下の手を離さないようにしてください」
アガレスが「いってらっしゃいませ」と手を振った。足を止めたのは門のところ。僕は「いってきます」と返した。初めて使った言葉だよ。前に奥様のお屋敷の人が使ってたけど、僕は初めてなの。どきどきした。あとは帰ってきた時に「おかえりなさい」と言われたら「ただいま帰りました」を使う。忘れないようにしなくちゃ。
「パパに僕は、いってきますをしなくていいの?」
「俺はカリスと一緒だから、カリスには言わないな」
そうだね、パパは一緒だから。今度お部屋を出るときに使ってみよう。いつも一緒だから、何の時がいいかな。わくわくしながら、パパに言われて目を閉じる。ぱちんと音がして、促されるまま目を開けた。人がいっぱいいる場所の中に立ってる。
パパと同じくらい背の高い人がいっぱいで、両側にいろんな色の物が並んでた。その間をたくさんの人が行ったり来たりしてる。
「うわぁあ!」
「まずは色鉛筆を探そう」
色を塗る道具は色鉛筆という名前だった。売ってるお店まで歩くパパの腕の中から、きょろきょろと両側を覗く。甘い匂いがするお店もあるし、お肉を焼いてるお店もあった。他にお洋服が並んでる場所もある。
すごい、こんな場所初めて! お屋敷から出たことがなかった僕の目に映るお店は、どれもキラキラしていた。
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