50.皆の絵を描いたら喜んでくれた
髪を切ってくれたマルバス、お洋服を作るアモン、ご飯を用意したセーレ。順番に似顔絵を描く。色の棒がだいぶ減ってきたけど、最後までちゃんと色を塗った。
名前はまだ書けないから、後で。一枚仕上がるごとに、パパが描いた人の名を呼ぶ。すぐに来てくれて、受け取ってお礼を言った。皆、パパの声が聞こえるのかな。不思議に思っていたら「召喚という魔法があるんだ」と教えてくれた。魔族は使える人がいるんだって。
アガレスが名前について説明してくれた。
「魔族にとって名前は、本人を表す大切な響きです。そこに魔力を乗せて魔法を使うと、遠くにいても聞こえるのですよ。呼んでいる人が誰かも分かります。マルバスやアモンは空間移動が出来るので、遠くから駆けつけました」
セーレはお城の下にいたから、階段を登ってきたの。マルバスやアモンはお外にいたけど、聞こえて飛んできた。すぐに渡せてよかった。喜んで飾ると言ってたし、今度書けるようになったら名前も足していい約束をした。
「カリスは本当に偉い。頑張ったな、皆も喜んでいたぞ」
パパがお膝に乗せて、僕にプリンをあーんする。ぱくりと食べて、右手のスプーンを振った。美味しい! すごく美味しい!!
セーレが作ってくれたプリンは、大きくて僕の顔が入りそうな入れ物にいっぱい! だからパパがお皿に掬ってから、スプーンで差し出す。顔を突っ込んで食べたら、残りが明日食べられないと聞いて我慢した。本当はちょっと、やってみたかったけど。パパがアガレスに叱られるから、やめておくね。
「何度も申し上げてきましたが、カリス様の教育上、陛下の言動は問題があります」
「仕方あるまい、誇る育ちではないのだ」
「幾度も聞いた言い訳ですが、同じ反論をさせていただきます。あなた様が誇らずして、誰が誇れる育ちなのですか! 本当に……」
ぶつぶつと口の中でまだ文句を言ってるアガレスに、僕はプリンの乗ったお皿を押した。
「アガレス、美味しいから食べて」
「……っ、ありがとうございます」
多分ね、お腹が空いてるから文句言っちゃうの。美味しくて甘いものを食べたら幸せになるから、ムカムカする気分も飛んでっちゃうよ。にこにこしながら、僕もプリンを頬張る。口の中で潰れるプリンの柔らかさに、自然と口が緩んじゃう。
「パパ、美味しいね」
「ああ。幸せだな」
パパが幸せだって。僕も幸せだと思う。うんとたくさん嬉しくて楽しいと、幸せという言葉になるんだよ。覚えたばかりの言葉だけど、僕は幸せが好き。パパと幸せをいくつも感じて、もっと幸せになりたいな。
「カリス様、お絵描きの道具を追加しましょうね」
「うん、ありがとう」
新しいお絵描きの棒は、パパとお城の外へ買いにいくの。アガレスも行って来ていいと許してくれた。楽しみだな。お城の外の街には、もっとたくさんの道具や知らない食べ物があるんだよ。パパから聞いて楽しみで、夜はなかなか眠れなかった。
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