8.食べるのも一緒は初めて

 バエルがぱちんと指を鳴らすと、いろんな耳と尻尾の人がたくさん入ってきた。湯気の出るいい匂いの餌を運んでくるの。机の上に並べられたそれを見て、お膝から降りようとしたら捕まった。


「なぜ降りる?」


 餌を恵んでもらうのに、お膝にいたらお願いが出来ない。きょとんとした僕に、バエルがゆっくり話しかけた。


「よいか、そなたは我が契約者だ」


 そなたじゃなくて名前がいいな。唇が少し尖ったら、笑いながら指で突かれた。


「カリスは我の主人だ」


 主人って偉い人? 僕は違う。首を横に振ったら、考え込んでしまった。少しして、バエルはまた話し始める。


「契約云々は成長してからにするが、今のカリスは我が息子だ。わかるか? 我が子として愛しんでやろう」


 息子? きょとんとした僕を横向きに抱っこし直して、机の上の餌に手を伸ばす。とろんとした温かいのを見つけて、僕はじっと見つめた。あれ、うまい。


「スープからか」


 僕が見ていることに気づいたバエルが、とろんを掬って運ぶ。これはスープというの? 覚えておこう。昨日と同じ銀の道具で僕の唇を突いた。開けると、温かいのが入ってくる。


 とろりと流れて、味がいっぱいして、飲み込むとお腹の奥まで届くの。体がぽかぽかするよ。昨日のと味が違った。でもうまい。ごくりと飲み込んだら、次のが来た。また口に入れてもらい、ゆっくり飲む。僕がぐずぐずしてても、バエルは怒らない。


「次は野菜だ」


 温かくて、赤や黄色、緑がいっぱい。白いのもある。これが野菜? 種類がいっぱいあるね。赤いのはほわっとしてて、白いのはぎゅっとしてる。黄色いのは噛むとしゃくっと音がした。味が全部違うんだよ。緑のも好き。


 昨日のと似た塊が口に入ったけど、これはほろりと崩れた。びっくりする。口に入った塊が、閉じた口の中でバラバラになった。いっぱい混じった味が広がって、頬が緩んじゃう。両手で押さえないと落ちちゃうよ。包んだ頬が空になると、また同じのをくれた。


「バエルは食べないの?」


「食べているぞ」


 残り物じゃなくて、一緒に食べていた。ずっと一緒の約束をしたから? 僕の口に入れた後、バエルも同じものを食べる。僕と同じ物を食べてくれる人は、初めてだった。


「うまい」


 覚えた言葉で笑うと、バエルは綺麗な顔で笑う。昨日と違う青くて足のある虫みたいなのが並んでいた。


「海老は食えるか?」


「知らない、です」


 この青いの、食べられるの? バエルに言われるまま服にしがみつくと、お皿が近くまで飛んでくる。両手で半分くらいに割って、上のツノが生えたところは置いた。足が生えてる部分から、中身だけ出す。あっという間に、白い体が出てきた。


「まずは一口だ」


 汚れた手を拭いたバエルが、銀の棒みたいなのに刺した。小さく切ってあって、僕の口にも簡単に入る。ぱくりと中に入れて、舌で押したけど崩れない。怖いからしばらく転がしていたら、ふわっといい匂いがした。歯を立てて噛むと、もっと匂いがする。何度も噛んだら、じわりと味が出てきた。


 これ、うまい! 噛んで食べるとうまいよ。興奮して身振り手振りで伝えた僕に笑い、バエルも口に入れた。一緒に食べてる。すごい、僕、こんなの初めてだよ。うまいね。


 なんだか胸がじんとして鼻が詰まるの。心配になって胸を押さえた。僕、病気かな。

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