執行
「――いよいよ、か」
「――隊長、あいつは俺らの仲間を殺した極悪人だ。早々に殺しちまった方が身のためかと思うがね」
「そうしたいが、生憎と願いの日の最終日だ。それを叶えた後だからな、下手をすれば日を跨ぐ寸前になるやもしれん」
「ま、ンな予感はしてますがね。しかしまあそれよりもー」
「なんだ」
私に質問してきたのは、二人いる副部隊長の一人、『
「ほんとにこんな幼気な
親指で後ろを指す。その先には新米の人級術師――テル・アステマがいる。
指された彼女は珍妙な声を上げたが、すぐに「あ、すみません」と消え入るような声色でいった。
「あたしが希望したんです。せめて最後くらいは、刀剣魔術師として、大罪人の生の終わりを、この目で見届けたいって」
「ほーん、仕事熱心なこって。もう一人入ってきた新人君にも見習ってほしいもんよの」
「エイシャ、あなた本当に新人術師に対する気遣いがなってないわね」
「はっ、それがあっし流の気のかけ方ってもんや。理解されようとは思わんがな」
「――そろそろ着くぞ」
私の言葉に、後ろにいる部下たちの気が一気に引き締まる気配がした。
テル・アステマは――ん?
後ろを振り返るも、そこには見当たらなかった。
「テル・アステマ。いるなら返事を「あ、はい!」
声が、私の背後――つまり、これから進むべき先の道から聞こえた。
「あ、ごめんなさい! ついずんずん進んじゃって!」
歩くスピード早いんですよね、あたし、そういう彼女だが、私を含めたその場にいた術師は驚いた。
「詛力の揺らぎが全く見えねえ……おめぇ、本当に新入りか?」
「そ、そうですよっ! 家庭の事情で刀剣魔術に触れる機会が多っかっただけです」
その言葉に、私を含めほとんどの隊員が納得したような顔をした。
「あー、ひょっとしてあんた、シェイ・アステマの娘かい? 王都随一の術印師の」
そう、彼女の家系は刀剣魔術の手入れを代々になってきた術印師の家系。術式や詛力の扱いに関しては私たちよりも理解が進んでいるのだろう。
「ほーん、さてはあんた、あっしらにこれを見せびらかすためにこうやって来たんですかい? また打算家なこって」
「ちがいますよ! 本当にこの目で見届けなきゃって……そう思ってるだけです」
その言葉に、わいていた隊員は押し黙る。それもそうだ。
今、この場にいる13人、そのテル以外の、私を含めた12人は、奴に――トクリュイエに仲間を半分、殺されている。
「――見届ける価値なんて、あんな奴にはねよ」
エイシャが、絞り出した風につぶやいた。
「あいつは……あっしらの――仲間を、奪いやがったんだ」
「エイシャ、気持ちはわかるが、落ち着け。そのままでは奴にその隙を付け込まれる可能性があるぞ」
「――わかってんよ、隊長」
ふーっ、と長い息を吐き、落ち着いたのか、怒気は収まっていた。
テルを見ると、顔が多少青ざめていた。
「テル・アステマ?」
「――……そ、んな。じゃあ――――は、本――、あの――」
「おい? しっかりしろ」
肩を軽く揺らすと、我に返ったかのように瞳孔が開いた。
「あ、なたーじゃ、さん……」
「――テル・アステマ。ここまでだ。ここでそこまで気分が悪化したのなら、君にこれ以上の接近は許せない」
「っ! でも!
「だめだ」
「――っ」
有無を言わせないよう、かなり圧を込めた。実際、もう付いて行こうとする気力が萎えたのか、ぽつりと、「わかりました」とうなずいた。
「じゃあ、せめて、ここで待たせてください」
「――それなら、いいだろう」
ここで送り返すこともできるだろう。だが、それでは彼女の意思を潰すことになる。それではだめだ。
「テル・アステマ。おそらく、魔術の衝撃はここまで余波が来るだろう。それが奴の最期の断末魔だと、思っておけ」
「……はい」
その言葉にうなずき、彼女は頭を下げた。
「――ナタージャさん、お気をつけて」
テル・アステマと別れ、もうしばらく進む。
複雑に入り組んだ地下牢は、やけに金臭い。
「胸焼けするような金属臭だな、なぜここまで」
「まあ、ここら辺の地下牢の鉄が古いもんですからねぇ。それが原因じゃないんでは?」
「確かにねぇ。確かこのお城って、かれこれ850年はあるんでしょう? そう考えると壮観よねぇ」
通路の壁代わりになっている牢には、白骨がなかなかの数、転がっている。
妻や子供に見せたら、大ごとになるだろうな。
そして――
「ついたか」
人が一人通るくらいの大きさの、鉄門。その中に、奴はいる。
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