急襲と一端

 授業終了後、僕と般代さんは家のリビングで二人して突っ伏していた。

「つっかれたー、、、」

「お疲れさま、ティム君、、、」

 机の上には般代さんが突っ伏して、床の上で僕が寝そべっている。

「術式って、あんな感じで練られてるのねー……」

「僕も初耳なこと多かったし、さすが専門の場所って感じだったなー……」

 二人してボケーっとして中空を眺めていると、「そういえばさ」と彼女が語り掛けた。

「ティム君って、王都について詳しい?」

「んー? まー、友達と遊んでたから、それなりには……って、まさか案内しろって「してくれるよね? 私、なーんにも知らないんだから」

「いやいや! 嘘つくにしてもまともな嘘にしてよ! 般代さんは大体わかるでしょ!?」

 僕のその言葉に、んー、と手を顎に当てて思案する彼女。その顔にはニマニマとした笑い顔が見える。

「いやね、確かに王都に侵入してたけどさ、その時って復讐にしか目が言ってなかったからさ。正直言って遊び場とか、全く分かんないのよ。だから今から行こっ!」

「いやちょっとねぇ!?」

 僕の手を引っ張って外に連れ出す般代さん。その顔には目一杯の笑みが浮かんでいた。


 僕の家から少し離れたところにある、王都の商店街通り。般代さんに連れられた僕が、真っ先に紹介するべき場所と言われれば、ここについて話す。

「おお……おおおー!」

「ここが市場。学生の遊び場的な場所だよ、って言っても売られてるのは、ほとんどが食べ物とかだけど」

 僕は一応、母親と共に何回か来たことがあるんだけど、この国で一番賑わっているところと言ってもいい。

「へー! 本当に2021年とは思えない街並みね! まるで中世ヨーロッパみたいな石畳! レンガでできた家! 木製のテント! 本当に時代が戻ったみたい!」

「……え?」

「あ、何でもないからキニシナイデー」

 ふいっとそっぽを向いて答える般代さん。そのせいでどんな顔をしてるのかがわからない。

 だから、彼女の顔を見ようと回り込んだその時には

「――そーれじゃ、エスコートよろしくね!」

「騙された?!」

 すでにニンマリと笑みを携えた般代さんが僕の肩を掴んでいた。


 王都の中で焼き肉を買い食いしたり、衣服を見たりして、そして今。

「ふー、おいしい」

「えー? 少し苦くない? 僕は大人しく砂糖入れよ」

 王都に多くあるコーヒーハウスで2人でのんびりしてた。

 ここは僕の行きつけで、個室で分けられてる珍しいタイプだから、般代さんも安心して素をだせる。

「しっかしまぁ、いいとか色々知ってるねー、さすがナタージャさんの息子にして私の旦那様!」

「だからいつまでそれ引っ張り出すのねぇ!?」

「まー、実現するまで?」

 あはー、とあっけらかんとしている般代さんだけど、不意に顔を赤らめて「ちょっと、、、」と言って席を立った。何の用かは個室を出るまでの速さで察した。……まあ、彼女も女の子だし、っていうかは人だしね。

 そこで、ふと思った。そういえば、般代さんがトクリュイエとして大虐殺してた時って、そんなに強かったのかな? 少なくとも、今見た感じはそんな感じは――?

「……なんか、外が騒がしい?」

個室にわかられてるにも関わらず、その声は聞こえてきた。

「――お客様! お代がまだです! お支払いを「黙れアバズレがぁ!」

 同時、木製の何かが壊れる音が木霊した。

「おいこらクソアマ、俺がなんなのか知ってんのか? 泣く子も黙る刀剣魔術師様だぞ? テメェら庶民のために骨身削って働いてる俺に、その上金まで巻き上げようってか? 守られてる立場のお前らがか?!」

 ……どうやら、横暴な術師がお店にいたみたい。

「そ、そのことについては本当に感謝してますが」

「だったら飲み代くらいは目ぇ潰れよ! じゃねえとテメェをこうしてやんぞ!」

 その音と同時、またもや木の折れる音が響く、ただし、さっきのよりも、大きなものが折れたような音だった。

「お客様! どうかそれ以上は……!」

「わかったらさっさと――ごはっ!?」

 きゅうに術師の声が消えた、と思うと同時、少し間を置いて床に叩きつけられる音が聞こえた。

 「あー、だいじ――――お礼? それ、ティム――――はい、けが、ない――よかった、です」

 そして、聞こえてきた辿々しいヴェルグリッド語、ってまさか……?

 少しして。

「やーほー、ごめんごめんただいまー……って、どしたの?」

「――あー、やー、なんでもない」

聞きたいことはごまんとあったけど、それはまた父さんも踏まえて話せばいっか。というか、じゃないと混乱する気がする。


 コーヒーを飲み終わり、お代を払おうとした時に「あ、お題は結構です! ありがとうございました!」って、なんにこやかにお礼を言われてる時だった。

「すみませーん、ここでうちのバカが暴れたって報告を受けてきたんです……が――?!」

 その声に。

 般代さんは懐かしむような表情に。

 僕は顔を顰めた。

 般代さんは知らないけど、何故ならその人は僕にとっては結構長い付き合いな人――

 現在三人しかいない、天級術師の一人――

「ティム君に――まさか、横にいるのは、トクちゃん!?」

 『人体遷移パーツフレックス』、テル・アステマ。

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