慣習

「――おい、起きろクソ殺人鬼」

「……んえぇ?」

 とげとげしく、私を呼ぶ声。閉じていた瞼を開けると天級刀剣魔術師クズのいりぐちどもが、私を睨み上げていた。

 全員殺し尽くせる、そう思っていたのに、最後の最後であんな反則な術師の一団にぶつかった。その一団の、半分ほどの命は刈れたけど、それでも半分ほどは殺しきれなかった。目の前にいるのは、そのうちの一人。

「あぁ、やっほぉ。なにかよおぉ? ひょっとしてぇ、もうぅ、ころされるぅ?」

 挑発的に問いかけると、常人の眼ではとらえられないだろうスピードで、首筋にサーベルが当てられる。

 血液から、熱を奪われるような嫌な感覚が、鳥肌を立たせる。

 けど、そこから先に切っ先が動く気配がない。

「――? なにぃ、してるのぉ?」

「本当なら、俺もテメエを殺してえよ、今すぐにな。けど、それはだめなんだ」

 なぜかそう言う彼に、私は首を曲げる。

「なんでぇ? あぁ、ひょっとしてぇ、こうかいぃ、しょけいぃ?」

「いや、それもしねえ。なぜか知らねえけど、王がそれを望んでねえ。お前は秘匿処刑、誰に知られるでもなく殺されるんだよ」

「えぇ? じゃあぁ、なんでぇ、いまぁ、ころさないのぉ?」

 私がそう訊ねると、目の前の術師くずはため息を吐いた。

「――テメエ、この国に古くから伝わる風習で、『願いの日』ってのを知ってるか?」

 願いの日――聞いたことが無い。

「ないけどぉ、それがぁ、なにぃ?」

「『願いの日』って言うのはな、死刑囚に9日間の執行猶予、そしてその間に3回、3日目、6日目、そして、最終日の9日目に与えられる日だ。その日には、死刑囚の願いを、ある程度叶えてやるっていう変な風習があるんだよ。そして、それがテメエにも適用されてるってわけだ。言ってる意味わかるか?」

「わかるぅ。けどぉ、ひごおりてきぃ」

「俺だってそう思うさ、けどな、そうやってやることで、この世界での未練をなくして、向こうに行かせてやるために必要なんだとよ」

 ふうん、そんなのあったんだ。

 そして、私は頭をフル回転させる。

 私の心残りは、三階級ある刀剣術師のうち、せめて上二つの階級の全滅。けど、それは諦めた方がいいかもしれない。私を捕らえた彼の、あの術式は、正直言って勝てる気がしない。けど、何か方法があるんじゃないかな。

 例えば、あの刀を奪って、術式を使えなくするとか――!

 名案が閃き、私は、術師に尋ねる。

「ねえぇ、ねがいごとってぇ、なにがぁ、ひとつぅ?」

「一動作で一つ。たとえば、ここに何かを持ってくるので一つだな。持ってこれるのは一度に二つまで。持ってくる役割は俺たちだ」

「ふぅんぅ」

 それだけ聞ければ、十分だ。後は、私の記憶を三日かけて思い出せばいいだけだ。

 術師を殺してきた、この一年間を。

「じゃあぁ、ひとつめはぁ――」


 トクリュイエ、一つ目の願い――彼女を捕まえた師団による、処刑。

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