中編

飛び丸だ。その後の織田家の行動を説明しよう。明智光秀を討伐した後、織田信忠は信長のやり残した天下統一の事業を推し進めた。まず秀吉が勝手に毛利と講和したことが問題になった。秀吉は信長の死が毛利に漏れる事を恐れたことを理由に勝手に毛利と和議を結んだことを謝罪し、もう一度毛利攻めをさせてほしいと信忠に懇願した。信忠は次からは徹底的にやれと言われ、秀吉は再び毛利を攻めた。秀吉が攻めてきたことに毛利はすぐに兵を差し向け、ついに両軍は激突した


「此度の戦いは羽柴の名誉挽回の戦いじゃ!」


「天下一の大嘘つき、秀吉を討て!」


両軍は武力と知略を尽くして戦い、互いに多くの犠牲を出した。天が微笑んだのは羽柴軍だった。後方から織田の援軍が駆け付けたのである


「皆の者、援軍じゃ!」


「「「「「オオオオオオオオオ!」」」」」


援軍が来たことで味方の士気が上がり、反撃を開始した。毛利は織田の援軍が来ると知り、一旦退却しようと考えたが、羽柴軍の勢いに押され、退却をすれば、間違いなく総崩れとなることを恐れたが・・・・


「味方に当たっても構わぬ。鉄砲隊・弓隊、放てええええええ!」


鉄砲と矢の雨が羽柴・毛利両軍に降り注いだ。羽柴軍もだが味方である毛利軍もまさか味方から攻撃されるとは思ってもいなかったため、攻撃を中断してしまった。羽柴軍もまさか味方も攻撃する毛利のやり方に出鼻をくじかれ、体制を整えるために一旦、退却した。毛利側も負傷した前線を見捨て、退却を開始した。負傷した前線の毛利勢は味方の突然の裏切りに怒り、織田に降伏するのである


「こりゃあ、手酷くやられたわ。」


「およそ2000もの兵を死なせてしまいました」


羽柴軍は死者2000人という犠牲を出してしまった。羽柴20000人、宇喜多10000人、計30000人の軍勢のうち、2000人という大きな犠牲を出したのである。羽柴軍にとっては大いなる痛手である


一方、毛利も約3000人の死者を出してしまった。何より味方ごと攻撃したことで、味方から非難が続出し、とても戦える状態ではなかった


「叔父貴、これは不味いんじゃないか。」


「ああ、味方を攻撃したのは、さすがに不味かったな。」


毛利輝元と小早川隆景は自軍の犠牲の多さもさることながら、味方を攻撃した事で、自分達を支持する国人衆たちが、敵に寝返ることを恐れた。最初、吉川元春は徹底抗戦を主張したが、国人衆から激しく抵抗され、さすがの吉川元春も口を出せずにいた


「降伏しよう、叔父貴。」


「・・・・羽柴殿に頼んでみるか。」


その頃、羽柴軍は援軍を入れて約50000の増大したが、先の戦での味方をも犠牲にする毛利の采配や犠牲の多さもあってか、慎重になっていた


「殿、国人衆を調略し、こちら側へ引き付けましょう。毛利の味方に行った行為で、向こうも浮き足立っているはず・・・・」


「そうだな。今にして思えば、毛利も愚かな事をしたものよ。」


秀吉たちは早速、毛利方の国人衆の調略を行おうとした矢先、安国寺恵瓊が羽柴の陣営に訪れた


「これは恵瓊殿、一体何用で参られた?」


「我等、毛利は織田家に降伏をいたします。」


「ほぉ~、降伏とな。」


「はい、我等の所領は安芸・周防・長門のみを残し、他は献上いたします。」


「それは我等の独断では決められぬ。上様に御報告を申し上げる、それまでは停戦ということでよろしいか?」


「分かりました。」


秀吉は早速、京にいる信忠に急使を派遣した。その間は小競り合いがあった程度で、特に動きはなかった。そして信忠からの使者が到着し、降伏する代わりに九州への先陣を毛利にさせることにした。手柄次第で安芸・周防・長門の3カ国を安堵する書状を安国寺恵瓊に渡し、毛利は正式に織田家に降伏した。そして毛利を先鋒に、九州に進出した


「大友宗麟、織田家に臣従したす。」


「島津義久、織田家に臣従いたす。」


「織田の子倅ごときワシの敵ではないわ!」


大友宗麟は戦わずに臣従し、島津義久も兼ねてより織田と親交があったため、薩摩・大隅・日向の3カ国は安堵された。龍造寺隆信は鍋島信生(後の鍋島直茂)の降伏論を退け、幽閉し毛利軍と激突したが、数の上で毛利の方が勝っているため、竜造寺隆信は退却し、居城である佐賀城へ退いたが、息子の竜造寺政家と鍋島信生らによって占拠され、既に織田方に降伏したのである


「おのれえええええ、恩知らずどもが!」


息子と家臣の裏切りに龍造寺隆信は激怒したが、後方から毛利の追手がやってきて、再び激突したが、多勢に無勢、龍造寺隆信は討ち取られたのである。その後、九州の国人衆は降伏し、九州統一がなったのである


「織田の子倅如きに降伏すれば末代までの恥じゃ!」


次に四国では長曾我部元親以外の大名は信長に降伏、長曾我部元親は抵抗したが、陸海から攻めてくる織田軍を前に孤立した。長曾我部元親は最後まで徹底抗戦を唱えたが、家臣たちの必死の説得に元親は降伏し、【土佐国】のみを安堵された


「くっ、ワシも運がないわ。」


元親は悔し涙を流し、土佐の海を眺めるのであった。次に北陸の上杉景勝は柴田勝家ら北陸軍に苦戦し、越中を取られてしまう。内側では新発田重家ら反上杉国人衆が反乱を起こし、外も内もガタガタの状態だった。上杉景勝は直江兼続と相談の上、降伏を決意、使者を送った


「で、上杉殿は何と?」


「はい、我が主は越後を安堵してくだされば、喜んで降伏すると申しております。」


それを聞いた勝家はいぶかしんだ。実は新発田重家とは兼ねてより上杉相手に共闘しており、ここで越後の安堵を認めれば、重家らを裏切ることになる。それに信忠の許しもなく勝手に降伏を認めるわけにもいかなかった


「すまぬが我等の独断で降伏を認めるわけにはいかぬ。一度、上様にご報告するゆえ待ってもらえないか。」


「・・・・分かりました。」


上杉の使者はこれ以上は無理と判断し、春日山城へと帰っていた。そこへ前田利家と佐々成政が尋ねてきた


「親父殿、上杉の降伏、受け入れるのですか?」


「降伏は認めぬ。降伏を認めれば、我等に協力した反上杉の国人衆を裏切ることになる。」


「親父殿、此度はのらりくらりと上杉の要求を跳ね除けましょうぞ。」


「そうだな、成政の言う通りだ。信濃にいる森長可に使者を送れ。越後に侵入しろとな。」


「御意!」


早速、信濃にいる森長可に使者を送った。勝家からの伝言を受け取った長可が早速、越後に侵入し、上杉領内を荒らしまわった。春日山城では突然の森長可の襲来に、景勝は兵を派遣したが、森長可の猛攻を防ぎきれず、蹴散らしたのである。そして森長可の軍は春日山城城下に入り、城下町を焼き払った。それと同時に柴田勝家ら北陸軍は越後に侵入し、森長可らと合流し、春日山城を包囲、後から新発田重家ら反上杉の国人衆と合流した。景勝は眼前にいる織田と反上杉国人衆に覚悟を決めた


「兼続、越後の安堵は諦めねばなるまい。」


「ははっ。」


上杉景勝は改めて降伏の使者を発した。自分の命と引き換えに城兵の命を安堵してほしいという内容だった。勝家らは降伏を認め、上杉景勝は腹を切り、この世を去った。上杉氏は滅亡し、残った城兵らは織田に取り込まれた。新発田重家らの所領は安堵され、東北征伐の先鋒を命じられたのである


関東では信長が本能寺で死んだと聞いた北条氏政は最初、上野国を狙っていたが、後に信忠が明智を滅ぼした事をしるや、上野攻略を中止し、臣従の構えを見せた。北条は伊豆・相模・武蔵の3カ国の安堵を条件に織田家に臣従した。北条が降伏したと知らせを聞いた関東の諸大名は、北条同様、織田家に臣従し、関東は織田家の支配下に入ったのである


最後に東北では蘆名家を継いだ蘆名盛隆は織田と敵対し、圧倒的な武力を持つ織田家に惨敗し、降伏しようとしたが許されず、最期は家臣たちの裏切りに遭い、死去した。蘆名家は当主不在ということで、滅亡した。次に伊達輝宗は以前から織田信長の時代より交流を深めており、3郡【置賜・信夫・伊達】の安堵を条件に織田家に臣従した。次に最上義光は信長に謁見し【最上出羽守】に任命されるよう働きかけていたが、信長が横死したため断念し、2郡【最上・村山】の安堵を条件に臣従した。次に大崎義隆は、織田に敵対したが、家臣たちの統率が取れず、身動きが取れなかったところを攻撃され、義隆は自害し、滅亡した

次に葛西晴信は以前から信長に謁見しており、5郡【江刺・気仙・胆沢・磐井・牡鹿】&2保【興田・黄海】の安堵を条件に、織田家に臣従した。次に南部信直は、先代の南部春政の養継嗣となった。織田家に臣従しようとしたが、安東愛季・九戸政実・津軽為信等が反乱を起こし、信直はそれを抑えることができず、織田家から安東家・九戸家・津軽家の独立を容認及び臣従を認めたため、信直は泣く泣く織田家に臣従したのである。他の東北の大名も次々と織田家に臣従した。蝦夷地を収める蠣崎季広・慶広親子は、当初、織田家に臣従しようとしたが、アイヌの反乱により失敗し、結局は織田の大軍を前に滅亡した。アイヌたちは織田の圧倒的武力を前に降伏し、以後、蝦夷地は織田家の支配下に入る


徳川家康はこれまでと観念し、於義丸を人質に差し出し、三河・遠江・駿河の3カ国の安堵を条件に織田家に臣従した。これにより織田信忠は天下を統一し、朝廷より征夷大将軍に任じられ、安土に幕府を開いた。その後、織田家は蝦夷地・樺太・千島列島・カムチャッカ半島・琉球・高山国と勢力を広げ、支配下に置いた


「意外だよな。まさか信忠が領地拡大を考えていたなんて・・・・」


これについては私も意外だったが、明を攻めるよりもマシだと思った。まさか私と同じ転生者だったりしてな・・・・




飛び丸だ。私は今、京の外れにて医者をしている。なぜかって私たち甲賀の侍衆が改易処分になったからだ。一部の者はそのまま武士になったが、大半は平民になった。私は最初、士分に取り立てようとしたが断り、【飛田洪庵(とびたこうあん)】と名を変えて、こうして医者として活動している。もう2度と使い走りにはなりたくないので、この道を選んだ


「お前さん、患者さんがお見栄になられましたよ。」


「あぁ、こちらへ案内しなさい。」


私を呼んだのは妻の旭(あさひ)である。元は伊賀のくノ一で、信長の仇を討った後に、私に恩を感じ一緒に暮らし始め、後に男女の仲になり、夫婦となった


「うう先生、腹が痛いんだ。」


「昨日は何か食べたか?」


「昨日は取ってきた茸を食いました。」


「あぁ、きっと毒茸が混じっていたのだな。はい、これ解毒の薬だ。」


私は解毒剤を患者に飲ませ、様子を見た


「あっ!先生、腹痛が治ったよ!」


「そう、それは良かったな。」


「先生、後で野菜を送るよ!」


「ええ、楽しみにしているよ。」


患者さんが帰った後、私はいつものように薬の調合を続けた。私の下へ訪れる患者は主に百姓や町人がメインであり、たまに武家や公家も訪れる。診察したうえで、適切な処方をしたことで、評判を呼び、忙しい毎日を送っている


「お前さん。」


私は振り返ると、旭が険しい表情をしていた。こうゆう表情をするときは何かを察知したようである


「どうした。」


「外から殺気を感じるの。」


それを聞くと俺は忍び道具を用意し、臨戦態勢に入った。旭も同様である。すると突然、煙が出てきた


「はっ!」


私は手裏剣を煙の出た方向へ投げると、煙の中から手が出てきて、手裏剣を受け止めた。煙が晴れるとそこには見知った人物が立っていた


「ふっ、さすがは飛び丸だな、腕は衰えていないようだな。」


「冗談もこれきりにしてください、棟梁。」


かつて甲賀者を統率していた棟梁である山中俊正の姿だった。棟梁はすまんすまんと笑いながら謝っていたが、私も旭も警戒を解かなかった。一瞬の隙が命取りになるのは忍びにとって、あってはならないのだ。生きて情報を届けることが任務の上で、常に神経を研ぎ澄まさなければならない


「もう何もせんよ。そう警戒するな。」


「いつ何時も警戒を怠るなと仰ったのは棟梁ではありませんか?」


「それもそうだな。参った、降参だ。」


俊正がそう言うと、私も旭も警戒を解いた。とりあえずお茶の用意をしようとしたら、俊正は断り、用件だけを伝えた


「織田信雄が死んだ。」


俊正の口からとんでもない事を聞いた。何と織田信雄が死んだのだ。旭も寝耳の水だったのか驚いていた


「誰にやられたんですか?」


「察しがいいな。やったのは伊賀の者たちだ。」


俊正の口から信雄をやったのは伊賀者と聞いた旭は・・・・


「それは本当なのですか!」


「ああ、伊賀者にとっては故郷を焼いた張本人だからな。信長だけでは満足できなかったようだな。」


それを聞いた旭は複雑な表情を浮かべた。確かに信長と信雄は故郷を攻めた張本人だが、信長を討ったことで旭自身も気分が晴れたようだが、他の伊賀者たちは信雄を殺害したことで、仲間たちは未だに怨んでいることに旭自身、気分は晴れやかではなかった


「お主の表情から察するに、伊賀者たちは伝えなかったようだな。まあお主は飛び丸と夫婦になり、こうして幸せに暮らしているからな。さて問題はここからだ。信忠は信雄の死を悲しみ、同時に下手人探しに躍起になっている。特に伊賀者をな。」


それを聞いた旭は険しい表情になった。旭自身、信雄殺害に関わっていないが、伊賀者という理由で捕まる可能性がある


「棟梁、私と旭は俗世に関わるつもりはありません。ここで静かに暮らすつもりです。」


「心配するな。ワシからもお主たち夫婦には手を出すなと言っておいたが、警戒は怠るなよ。」


そういうと俊正はスッと消え去った。私と旭はその場で立ち尽くしてしまうのであった


そのころ安土城では信忠は信雄殺しの下手人が見つからないことにいら立っていた。そばにいた側近の斎藤利治と山中長俊は信忠をなだめていた


「上様、落ち着かれませ。下手人は必ず見つけ出します。」


「ふん、伊賀の残党どもが!大人しくしておれば良かったものを!」


「伊賀の残党は、くまなく探しておりまする。今しばらくお待ちを。」


そのころ伊賀の残党を探索している甲賀者を統率していた山中俊正は親戚の山中長俊から密書が届いた


「棟梁、長俊様から何と?」


「上様は未だに怒りが収まらぬようだ。信長様だけでは満足できんのか、全く伊賀者にも困ったものだ。」


「大半の伊賀者は徳川家康の家臣である服部半蔵の支配下にあります。まさか徳川様が関わっているとは・・・・」


「いや、それはない。徳川家康は慎重な御方だ。私怨で動かすとは思えぬ。だが油断ならぬ御方じゃ。監視を怠るなよ。」


「伊賀者で思い出しましたが、飛び丸の妻は伊賀のくノ一でしたな。今回の件に関わっていたのですか?」


「いや、信雄暗殺には関わっていないようだ。さすがの本人も知らなかったようだ。一応、忠告はしたがな。こちらも監視は怠るなよ。」


「ははっ!」


場所が変わって、ここは駿府城、徳川家康、本多正信、服部半蔵の3人は此度の信雄死亡の件で話し合っていた


「半蔵、此度の信雄の死は伊賀者が関わっていると?」


「はい、我々の配下ではない伊賀者たちが、信雄様を暗殺したようです。上様は大層のお怒りで下手人探しに躍起になっておられます。」


「殿、我が方でも伊賀者を多く召し抱えています。上様のお怒りが徳川に向かぬよう気を付けねばなりませんな。」


「うむ、信雄はうつけじゃが、上様とは同じ母を持つ兄弟、厄介な事になった。」


家康は頭を痛めていると半蔵から、ある提案をなされた


「殿、徳川は徳川で内密に伊賀者たちを始末致しましょう。毒を持って毒を制するのです。」


「伊賀者には伊賀者をぶつけるということか。」


「はい。」


「・・・・よし分かった。やれ!」


家康の命令で徳川に仕える伊賀者は、同族である伊賀者退治に乗り出すのであった










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