第65話 咲耶side③

ゴシゴシ

晩御飯を食べ終えて、しばらく部屋でくつろいだ後、わたしはお風呂に入っていた

あの時よりも、気持ちは落ち着いている

これも、木崎さんと仲直りできたからだろうか

愛花と卑弥呼に言われた時は、ケンカしてるわけじゃないって思ったけど、やっぱりケンカしてたんだろうな

体を洗いながら、わたしはそうだったんだと思った

木崎さんもきっと、ケンカしてるって意識はなかっただろうな

『あの人の場合は特にそうだっただろうな……』

でもどちらにせよ、どっちもどっちか…

あえて言うなら、あっちは仲直りできたって思ってないだろうけど……

『そんなのいいか…。気まずい感じがなくなったんだから…』



ザバァ

体を洗い終わったわたしは湯船に入ると

『んぅ~。なんか気持ちいい。今までで一番気持ちいいかも♪」

湯船に浸かりながら、体を伸ばして、わたしはそう言った

木崎さんと仲直りできたからかな?

でも仲直りできたとはいえ、まだ問題が残ってないわけじゃない

柊のことだ

木崎さんにも言ったが、あの人は押しに弱いところがあるから、あっちが会いたい会いたいって言ってきたら、結局会ってしまうだろう

『関係ないだろ』

ショッピングモールを出たあとの木崎さんの言葉を思い出す

確かにわたしには関係ない

だってわたしは木崎さんの親戚でも、ましてや恋人でもない

でもあの時、木崎さんがそう言った時、何故か悲しくなって、寂しくなった

何故かはわからないけど……

でもとりあえず、今は置いとこう

変な隠し事さえしてくれなければ、それでいい

その方が、よっぽどイヤだ

ちゃんと誘ったら、わたしとも会ってくれるんだし

木崎さんを誘うということは、わたしにとっては、もはやデートに誘うということと同じになってる

それも何故かはわからない

でもそうでないとイヤだ

変な隠し事されるよりも、そっちの方がわたしにとってはイヤだ

まぁ、これもとりあえず……置いといていいのだろうか?

良くない気がするんだけど、わたしの中でその理由がちゃんとできてない

『保留にしよう…』

置いとくかどうかは、まだ決めないでおこう

そういうことにした

でもわたしとも会って、柊とも会う……

「これって、もしかして二股?」

いや、そういうのじゃないと思う

わたしは木崎さんの恋人じゃないし、柊だって告白したけど、OKをもらったわけじゃない

でももし、二股ってことになってたら……

「木崎さんをぶん殴る。どでかいのを一発ぶちかます!」

愛花には料理を教えてもらうけど、卑弥呼には正拳突きを教えてもらおう

でもそうとは決まったわけじゃない

こっちの方は置いとこう。とりあえず

『良かったわね、木崎さん。でもその時は覚悟しといてよ』

そう思いながら、わたしは湯船から体を出した



浴室から出たわたしは、脱衣所で頭と体をバスタオルで拭くと、いつものように、それを体に巻いた

そしてふと、全身鏡を見て、わたしは自分の唇に指を当てた

『わたし、キスしたんだ。木崎さんに。ほっぺにだけど……』

ほんの少し触れただけの軽いキス

唇にじゃなくて、頬にだけど

わたしはキスしたんだ。木崎さんに

カァーーーー-!!!!

顔が一気に熱くなった

顔が真っ赤になっていくのを感じる

きっと今までで一番の勢いだろう

同時にものすごく恥ずかしくなってきた

ここまで、恥ずかしくなるのも初めてだ

わたしは思わず、全身鏡の前に体をうずくまらせた

そして両方の手を頬に当てると

「なに?なんなの?めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた、今ごろ!!わたし、よく平気で家に帰れたわね?木崎さんの前でも平然としてたけど……。すごい恥ずかしくなってきた!!よく平然とできてたわね、わたし!!今だったら、それこそ顔真っ赤にして、慌てふためいてた!!!」

パニック状態の頭で、わたしはそう言っていた

今までのキスなんて幼稚園児レベル

いいえ、赤ん坊レベルに思えるぐらいだ

『キスするって、こんなに恥ずかしいの!?ほっぺに軽くしただけでこんな!!これでもし口にだったら……』

ダメだ。気絶する。気絶して、病院に搬送される!!

しばらく目が覚めないかもしれない

それくらい恥ずかしい

でも……

「簡単にじゃない。簡単な気持ちでしたんじゃない。それは間違いない」

わたしは以前木崎さんに、もう簡単にはキスしないって言った

それは本当だ。今でも変わらない

あれは本当にしたかったからしたんだ

木崎さんにキスしたくなったからした

愛花に料理を教えて欲しいって言ったのは、柊への対抗心がきっかけだ。それは認める

でもあれは、そういう気持ちでやったんじゃない

対抗心とかそういうのは、微塵もなかった

簡単な気持ちでとか、そんなものも微塵もなかった

ただ木崎さんにキスしたかった

それだけの気持ちしかなかった

「落ち着け、落ち着け。深呼吸、深呼吸」

そう言ってわたしは、体を立ち上がらせると、大きく深呼吸した

スーハー、スーハー

少し落ち着いた

『木崎さんはわたしと柊のキス、どっちの方がドキドキしただろう?どっちの方が嬉しかっただろう?』

そんなことを考えると、また恥ずかしくなってきた

「でもわたし、確か木崎さんに『あんたとは絶対にキスしない』とか言ってたっけ……」

その時のことを思い出すと、なんか後悔の念が込み上げてきた

今までしてきたキスへの後悔とは違う、別の後悔

あんな後悔なんて、問題にならない後悔

それは

「あんなこと言わなきゃよかった……」

あの時言った言葉への後悔だった

なんでこんなに後悔するのかはわからない

でも後悔してしまっている。それは確かだった

『こんなんで、今日眠れるかな?わたし…』

でも木崎さんにキスしたことは後悔してない

全く。全然。それこそ微塵も

少し落ち着いてたのに、また恥ずかしくなってきた

わたしは体からバスタオルを外し、下着を着けてパジャマに着替えると、二階の自分の部屋に直行した



バタン

部屋に入ってドアを閉めると、一目散にベッドに入った

『もう寝よう。今日の夜にでもガンプラ作っていくとか言ったけど、明日からにしよう……』

そういうことしてたら、木崎さんにした頬へのキスが頭に浮かんで、それこそ作れない…

わたしはそのまま眠りにつくことにした

だけどなかなか眠れなかった

木崎さんにした、あの頬へのキスが頭から離れなかったからだ……










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