第64話 咲耶side②

『じゃあ、木崎さんとは仲直りできたんだね』

「うん。『ごめんね』って言ったし、木崎さんも『俺も悪かった』って言ってた」

あのあと、家に帰ったわたしは愛花に電話した

『木崎さんもずっと気にしてたんだね。良かった良かった♪』

気にしてた…か

よく考えてみると、木崎さんがあんな風に言ったのを、初めて見た気がする

『木崎さんも木崎さんなりに、悪いと思ってたってことかな?』

そんなことを考えていると

『これで条件は達成したわけだし。約束通り、料理教えてあげるね♪』

「うん。ありがとう。ごめんね、突然あんなこと言って」

『気にしない気にしない♪』

あんな頼み事をしたのは初めてだ

料理を教えて欲しい

今までのわたしなら、『別にできなくてもいいや』と思ってただろう

料理できないって言われても、腹が立つことはあっても、上手くなりたいと思ったことはない

でも今は違う

不味いと言いながらも、わたしのお弁当を食べてくれた木崎さん

食べなくてもいいと言ってるのに、それを食べてくれる木崎さんを見て、なんか恥ずかしくなってきた

『無理して食べなくていいのに…』

そんなことを考えると、何故か恥ずかしい気持ちになってしまった

だけど

『作ってきて良かった』

そんなことも思ってしまった

だけど、突然現れた柊から『ひどいお弁当』と言われた時、本気でムカついた

そんなの自分でもわかってる

でもあんたには言われたくない

そう思った

でもお風呂に入って、少し気持ちが落ち着いて、色々考えると、確かにあいつの言う通りだ

悔しいけど、認めざるを得ない

『もう少しちゃんとしたのが作れたら……』

木崎さんも美味しいって言ってくれるかな?

少なくても、不味いとは思わないかな?

『とりあえず、不味いって思われないのが作りたい』

そんなことを思って、わたしは愛花に料理を教えて欲しいって頼んだ

自分で勉強しようとも考えたけど、自分の性格からして、途中で投げ出す可能性が高い

だったら、誰かに教えてもらった方が、その可能性は低いだろう

そう考えたら、思い浮かんだのは愛花

卑弥呼にしようかとも思ったけど、愛花の方がちゃんと教えてくれそうな気がしたからだ

『とりあえず、咲耶がそれなりに作れるようになるまでは教えてあげる。それぐらいになったら、後は自分で頑張ること。わかった?』

「うん。それでいいよ」

愛花の言葉にわたしはそう答えた

そういえば確か…

「木崎さんがさ、自炊してみようとか言ってたんだけど…。それでも大丈夫かな?」

わたしは、木崎さんがそう言っていたのを思い出して、愛花に聞いてみた

「たぶん大丈夫だと思うよ。料理上手な男の人もいるだろうけど、大抵の人は普通ぐらいか、あるいは料理下手だと思うよ。まぁ私個人の意見だけど』

人それぞれってことか

木崎さんの場合、自炊してもたいしたヤツ作れないだろうな

だから、コンビニのお弁当ばっかりになってるんだし

『そういうこと言うってことは…。木崎さんに晩御飯とか作ってあげたいとか思ってる?』

愛花が、からかうような声で言ってきた

「そういうわけじゃないわよ。そこまではまだしないわよ。せいぜいお弁当。お弁当ぐらいよ!作ってあげるとしたら」

わたしは焦ったような声でそう言った

『何に焦ってるんだろう。わたし』

なんか顔がちょっと熱い…

赤くなってたりして…

『ふーん。まだねぇ~。いずれは作ってあげたいのかな?木崎さんに晩御飯♪』

「ちょっとやめてよ。愛花」

愛花が、またからかうような声で言ってきた

『でもお弁当は作るんだよね。デートに持って行くのかな?やっぱり♪』

その言葉に、思わず口ごもってしまった

木崎さんにも、もうデートでいいって言っちゃったし

「……うん」

愛花にそう答えた

顔が熱い

絶対顔赤くなってる

『素直でよろしい♪』

愛花が、そう言ってきた

電話越しじゃなかったら、頭ナデナデされてたな。きっと

「あの、このことは木崎さんには……」

『もちろん言わないよ。言うなら自分で言うこと。ていうか、グルチャはしたけど、連絡先は知らないし。心配しなくていいのに』

でも…

「あの時、木崎さんに呼ばれてたから。その時に連絡先とか教えられなかった?」

『そういうんじゃないって。咲耶のことよろしくって言われたの。もう言っちゃっても大丈夫かな。仲直りできたんだし』

そうだったんだ…

「ごめん愛花。なんか疑っちゃって…」

『全然大丈夫だよ。いちいち気にしないの♪』

愛花が、わたしの言葉にそう言ってきた

「じゃあ、そろそろ晩御飯の時間だから切るね。ありがとう愛花」

『うん。わかった。あとは学校で話そ。じゃあね』

カチャン

愛花のその言葉を聞くと、わたしは電話を切った

わたしのことよろしく…か

『よけいなお世話よ…』

わたしは少し笑みを浮かべて、そう思った

「そろそろ下に降りよ」

そう言って、わたしは部屋を出ようと、ドアノブに手を伸ばした

『木崎さんに晩御飯か……。でも、だとすると』

木崎さんの家に行くってことに……

でもそうなると……

ボッ

さらに顔が熱くなった

顔が真っ赤だってことが、今度は確実にわかる

『今一瞬、何想像した?わたし。柊と変わんないじゃん』

一瞬ではあるが、わたしは想像してしまった…

わたしと木崎さんが、木崎さんの家で二人きりになってる姿を

しかもわたしたち……

ブンブンブン

『顔戻さないと。こんな顔見られたら、何言われるかわかんないし。ていうか、戻って!お願い!!』

わたしは頭を振りながら、そう思った

そしてわたしは、部屋を出て、下のリビングに向かった











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る