第63話

仕事が終わった頃、天王寺からLINEメッセージが来た

『あの時の喫茶店の前で待ち合わせ。話したいことがあるから』

あの時の喫茶店とは、あの喫茶店か

だいたい、もうそれでわかるようになった

天王寺と再会した時に入った喫茶店

『まぁ、俺も色々話さなきゃいけないことがあるだろうしな』

何を話さなきゃいけないのかはわからない

とりあえず会ってみたいことには始まらない

『わかった』

そう返信して、俺はあの喫茶店に向かうことにした



喫茶店の前に着いた

まだ天王寺は来ていない

中で待ってようかと思った時

「お待たせ。ちゃんと来てくれたんだ……」

天王寺が来た

不機嫌な顔ではなくなってる

だけど、元気になったという顔じゃない

少し不安そうな顔だ

まぁ、不機嫌な顔じゃなくて良かった

その辺は安心した

「わかったって返信しただろ?」

「それでも来るかどうかわからないじゃない。やっぱやめるって言ってくるかもしれないし……」

俺の言葉に天王寺がそう答えた

「そんなことしねぇよ。中に入るか?話したいことあるんだろ?」

「中には入らない。周りには聞かれたくないし。とりあえず歩きながら話そ」

「そうか…」



喫茶店の前を後にした俺たちは、あまり人通りの少ない場所を歩いていた

どうして、こういう場所を歩くことになったのかはわからない

自然とそうなった

そんな感じだ

「木崎さん……」

歩いている間、無言だった天王寺が口を開いた

「なんだ?」

「怖かった?わたし……。あの時……」

天王寺がそう聞いてきた

ああ、あの時のことか

「そうだな。なんか怖いもんを感じたな」

俺がそう答えると

「そっか…。怖かったんだ、わたし。あの時。卑弥呼が言ってた通りだ……」

天王寺がか細い声でそう言った

なんか色々話したみたいだな。あの二人と

「わたし、そんなつもりなんてなかったんだけどな。ただ思ったこと口にしてただけだから……。でもさ、言わずにいられなかったんだ……」

天王寺はさらに続ける

「なんか自分でもわかんないけど、ムカムカして。ああ言わずにはいられなかったんだ。確かに言われてみたら怖かったね、あの時のわたし。今更になって気づいた……」

天王寺は自虐的な、薄い笑みを浮かべてそう言った

「天王寺」

俺は歩みを止めると

「確かにあの時のお前は怖いもんを感じた。けどな、俺はそれ以上に別のもんを感じたんだ」

「別のもの?」

天王寺も歩みを止めて、そう聞いてきた

「あの時のお前、なんかすげぇ寂しい感じがしたんだよ。『どこにも行かないで』って言ってるみたいな…。なんとなくだけどな」

俺はそう答えた

なんとなくそう感じた

それだけは確かだ

「なによそれ。やっぱわたし、すごい子どもってことじゃない。まぁいいけど。わたしもそうだと思うし」

ポン

俺はそう言った天王寺の頭に手を置くと

「それでいいじゃねえか。お前、背伸びしすぎなんだよ。そんなんじゃ、転んだ時大怪我するぞ。もうそういうのはやめろ」

俺はそう言ってやった

「うん。そうする。すぐには無理かもしれないけど。ていうか、あんたに言われたくないわよ。あんただって子どもじゃない。もうアラフォーなくせに。なんか大人と子どもの間を行ったり来たりしてるって感じがする。今更だけど、そんな感じがする」

「ああ、そうだな。その通りだ。今更、もうどうにもならないけどな。もう変えようがない」

俺は天王寺にそう答えた

「そのままでいいと思うよ、わたしは。ねぇ、木崎さん……」

「なんだ?」

「頭撫でてくれない?手を置くだけじゃなくてさ。そうして欲しいんだけど……」

天王寺がそう言ってきた

突然何言ってんだ、おい

「お願いだからさ。今日だけでいいから………」

しょうがないな…。全く

俺は天王寺の頭を軽く撫でてやった

なんかこっちが恥ずかしいんだが……

「やっぱ愛花にされる方が落ち着くわ。とりあえずありがと。あとそれから…」

まだあんのか、おい

「ごめんね…」

天王寺は小さな声で、そう言った

全くこいつは……

俺は少し笑うと

「ああ、俺も悪かったな。天王寺」

俺はそう答えていた

「あのさ、柊のことなんだけど…。木崎さんって、押しに弱いみたいだから、あいつに誘われたら、なんだかんだで会っちゃうかもしれないけど……」

天王寺がモジモジした感じで、そう言うと

「変に隠したりとか、そういうのはしないで欲しいんだ。会ったんなら会ったで、ちゃんと話してくれたらいいし……。あとそれから……」

「それから?」

「また誘ってもいいかな?その……デートに……」

天王寺は少し顔を赤くして、そう言った

「ああ、そっちがそれでいいならな。いいのか、それで?」

俺は天王寺にそう聞いた

「うん。いいよ、もうそういうことで……」

「そうか…」

そっちがそれでいいなら、それでいいか

変に気を使うこともないし

「ああ、それから。あのあとコンビニのお弁当とか食べなかったでしょうね?」

「ああ、宅配弁当にした。まぁこれからは自炊でもやってみようかなって思ってる。ずいぶんやってないから、上手くできるかどうかわからないがな」

俺はそう答えた

実際、そうしようかなって考えてたりしてるしな

「そっか。わたしとおんなじね。少し違うかもしれないけど」

「どういうことだ?」

俺がそう聞くと

「秘密。まぁとりあえず楽しみにしててよ」

天王寺はそう答えた

よくわからないが、まぁいい

それに何より

「いつものお前に戻ったな。天王寺」

そっちの方が良かった

そんな気持ちだ

「そうだね。とりあえず次はグルチャか。ガンプラ見せ合いっこしよ♪今日の夜にでも、作っていくことにするわ」

「ああ、そうだな。楽しみにしてる」

俺はそう答えた

「うん。木崎さん……」

「ん?」

すると突然

チュッ

天王寺が俺の頬にキスした

「おい。お前、確かもう簡単にはキスしないんじゃ……」

「なんかしたくなってさ。でも簡単な気持ちでしたんじゃないよ。きっと。それだけは確かだから」

おいおい

「じゃあね、木崎さん。またグルチャでね♪」

そう言って、天王寺は去っていった

『やべぇな、おい。すげぇドキドキしてるぞ、俺』

柊にされた、突然のキスの時とは違って、驚きより、そっちの方が勝っている

『やばい。本当にロリコンになりそうだ。俺……』

俺は心から、そう思った

今日眠れるかな、俺……













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