第62話 咲耶side①

放課後

いつものファストフード

わたしは手前に座る愛花と卑弥呼に、わたしの気持ちを話した

二人が『木崎さん』と言う度に、チクッとしていたこと

それは自分以外の人が、木崎さんに気安くされるのがイヤだったからだということ

幼稚園児みたいな独占欲を持っていたこと

そんなわたしの気持ちを二人に話した

柊が木崎さんにしたキスに対する気持ちまでは話さなかった

それだけは言えない

少なくとも今は

「ふーん。そうだったんだ。ごめんね。気づいてあげられなくて」

「いいよ、愛花。謝るのはわたしの方なんだから。ごめんね、二人にこんな気持ち持っちゃって…」

愛花の言葉に対して、わたしはそう答えた

「まぁ、あたしはなんとなくそんな感じはしてたわ。なんかあたしたちが『木崎さん』って呼ぶ度、様子おかしかったし。勘違いかもって思ってたところもあるけど。やっぱそうだったのね」

さすがは卑弥呼。鋭い

「ホントごめんね。最近のわたし、なんか変なのかな?今までこんなことなかったのに…」

「変じゃないよ♪自分で気づくなんて偉いよ咲耶♪」

愛花はそう言って、わたしの頭をナデナデした

前は恥ずかしかったはずなのに、今は全然平気だ

むしろこうされると、嬉しく思ってしまう

自分が、すごく子どもだったことに気づいたからなのだろうか

「それで今はどうなの?あたしたちが『木崎さん』って言っても平気?」

卑弥呼がそう聞いてきた

「うん。全然平気。もう大丈夫」

卑弥呼が『木崎さん』って言っても、もうチクッとしない

きっと愛花に対してもそうだろう

なんか安心した

でも…

「柊さんに対しては違う。そうでしょ?」

卑弥呼の言う通りだ

柊に対しては違う

わたしは無言でコクりと頷いた

「愛花。あの子って昔からああなの?カラオケルームの時とはずいぶん、ううん、まるで全然違うんだけど…」

「うん。私もものすごく驚いてるんだよ。小学校の時以来だけど、なんか人の後ろに隠れて歩いてるような感じの子だったし…。清楚系かな?そんな風な子だったんだよね」

卑弥呼の問いに愛花がそう答えた

確かにカラオケルームの時のあいつはそんな感じだった

それがああなるなんて……

「まぁ親からお稽古ごととか色々やらされてたみたいだけど。香織ちゃんも言ってたけど、あれがホントのあの子なのかもね」

「なるほどね。親にしつけられてた反動ってヤツか。少しわかるわ。あたしもそういう部分あるし」

愛花の言葉に卑弥呼がそう答えた

確か卑弥呼の少女マンガ好きって、父親に空手やらされてた反動だったっけ

それと似たようなものなのかな?

「本人も言ってたけど、きっかけは木崎さんのあの批判ね。あれが今まで抑えられてたあの子を解き放ったのね。柊さん曰く、本当のあの子を。だからって木崎さんを責めるべきじゃないわ。あんな風になるなんて、誰も予想できないわよ。あたしでもね」

卑弥呼の言う通りだ

木崎さんのせいじゃない

あの子があんな風になるなんて、誰も予想できないよ

「だけどいきなりあんなことするなんて…」

「まぁね。木崎さんに抱きついて、あのカレシと別れたって言った時、なんか嫌な予感したのよ。でもあんなことするとは…」

あんなこと

二人の言うあんなこととは、あのことだ

木崎さんへの告白

そしてキス……

思い出すと、やっぱりムカムカする

同時に泣きたくもなる

悔しくて……

「咲耶。落ち着いて。嫌なこと思い出させてちゃったね。ゴメンね」

愛花はわたしの気持ちを察したのか、そう言ってわたしの頭を撫でてくれた

やっぱりこうされると落ち着く。すごく

「あのさ、愛花……」

「何?」

「わたしに料理教えてくれない?突然だけど……」

わたしは頭を撫でてくれてる愛花にそう言った

あの夜、お風呂から出て、自分の部屋に戻って、ベッドに入ったあと、色々考えた

今のわたしができることはこれだけだ

木崎さんの親戚でも、ましてや恋人でもないわたしが柊に対抗できることはこれくらいしかない

他にもあるかもしれないけど、今のわたしにはこれくらいしか思い浮かばない

「いいよ。でもその前にやることあるよ」

「やること?」

愛花の言葉に、わたしはそう聞いた

「うん。木崎さんとちゃんと仲直りすること。それが条件♪でないと料理教えてあげないよ」

愛花はそう答えてきた

「いや、別にケンカしてないし。わたし…」

「してるよ。あたしたちから見れば充分」

わたしの言葉に卑弥呼がそう言ってきた

「なんかあの時の咲耶、ヤンデレってヤツ?そういうの入ってたよ。木崎さんに『また会ってよ』って言った時や、あの時のヤツをデートじゃないってことにさせてやらないって言った時のあんた、怖かった。すごくね」

卑弥呼の言葉に、愛花も同じだといったように頷いた

怖かった?すごく?

あの時のわたし、そんなだったの?

「木崎さんをデートに誘うとかする前にそういうのなんとかしないと。たぶん木崎さんも、あの時怖いって感じてたと思うよ。それでいいの?」

愛花がわたしにそう言ってきた

もしそうならイヤだ。そんなの

そんなつもりで言ったんじゃないのに……

「でないと本当に木崎さん、柊さんとどうにかなっちゃうよ?木崎さんに諌められてたけど、その気になれば、浮気でも不倫でもなんでもするよ、あの子。マジで」

卑弥呼がそう言ってきた

そんなのイヤだ

少なくても、今のままでそうなるのはイヤだ

絶対



『……………』



あの時の言葉が頭に浮かんだ

でも今までのとは、何かが違う

そんな気がした

言葉のトーンが上がってるのは変わりないけど、今までのとは何かが違う

それだけはわかる

「わかった。やってみる…」

「良くできました♪頑張ってね♪」

わたしがそう言うと、愛花はいつもより優しく、わたしの頭をナデナデした

卑弥呼も嬉しそうに笑って、わたしを見てる

『木崎さんと仲直りしよう。とりあえずそこからだ』

でないと何も始まらない

何も














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