第59話

柊が去ってしばらくした後、俺たちもショッピングモールから出ることにした

その間、天王寺はずっと不機嫌な顔だ

『当然だな。まだ怒りが収まってないだろうし…』

あんな怒りを露にした天王寺は初めて見た

元カレに浮気されて怒ってた時や、ごみ処理場で俺に怒ってたのが、可愛く思えるぐらいだ

ただその間、天王寺はずっと俺の隣から離れなかった

俺がほんの少し離れても、近づいてきて、距離を縮めようとしない

不機嫌な顔は変わらなかったが

松永さんと相澤さんは、天王寺の心境を察してか、俺たちの後ろにいた

『全くこいつは……』

俺はそう思いながら、不機嫌な顔の天王寺を見た



そしてショッピングモールから出ると

「なんか悪かったな。こんなことになっちまって」

「いえ、木崎さんが謝ることじゃ…」

「ええ。あれはイレギュラーな出来事ですし…」

俺の言葉に、松永さんと相澤さんはそう言った

ドカッ

「ホント最悪よ。キスされてデレデレしまくって…。このドスケベ好色中年男…」

天王寺は、俺の足を蹴ってそう言った

「いや、あれは俺にとってもイレギュラーなことで……」

ドカッドカッドカッ

「何がイレギュラーよ。三回もキスされといて…。ほっぺたのキスを含めたら四回か…。嬉しかった?告白されてキスまでされて……」

何度も俺の足を蹴りながら、天王寺はそう言った

「いや、嬉しいとかそういうのは…。あまりに突然だったしな……」

そういうのを思う間もなかった

本当に

「誘惑されて、連絡先まで交換して…。また会う気?あの女と…」

「さぁな。でも関係ないだろ。お前には…」

ヤバい

こんなのは言うべきじゃない

全く俺って奴は…

「………」

天王寺はまた俺の足を蹴ろうとしたが、途中で止めた

「そうだよね…。関係ないよね…。わたしには…」

天王寺は悲しいような、寂しいような声でそう言った

「その代わり、わたしとも会ってよね。また誘うから…」

「おい。まさかそれって…」

「そうだよ。デートだよ。イヤ?あの時のをデートにしたくなかったって感じだったけど…。もうわたしの中ではデートだから…。違うってことにしようとしてもダメだよ。させてやらないから…」

そう答える天王寺の声は怒ってるというより、怖いものを感じる…。マジで

「あのな、俺はあれをデートにしたくないとかそういうこと考えてたわけじゃない。本当だ」

俺は天王寺にそう言った

ただ、こいつにとって、それでいいのかどうか、そう思ってただけだ

本当に

「そう…。それならいいよ…」

天王寺はどこかそっけない感じで、そう答えた

「まぁ、こんなことになっちゃったけど、とりあえず次はグルチャでってことで。そこで自分たちで選んで買ったガンプラを完成させて、見せ合いっこしよ」

「うん。そうしよう。そうしよう」

相澤さんの言葉に、松永さんがそう答えた

「ああ、そうしよう。天王寺…」

俺は天王寺の方を向くと

「こんなことになったからって、ガンプラ捨てるなよ。いいな?」

「そんなことしないわよ…。ちゃんと作って、完成させる。でも今日は…」

俺の言葉に天王寺はそう答えた

ポンっ

「そうだな。今日はゆっくり休め。怒らせて悪かったな」

俺は天王寺の頭に手を置いて、そう言った

「そういうことしないでよ。バカ…」

天王寺はそう答えてきた

まぁいいか、それで

「それから。今日くらい、コンビニのお弁当じゃなくて、せめて宅配のお弁当くらいにしてよ。でないと愛花と卑弥呼の作ったお弁当がムダになるから…」

頭に手を置かれたまま、天王寺がそう言ってきた

「そうだな。そうする。でないとお前の弁当がムダになるしな」

「……バカ……」

俺の言葉に天王寺が、少し照れた顔でそう言った

『不機嫌な顔よりはマシだな』

その顔を見て、俺はそう思った

俺は天王寺の頭から、手を離すと

「松永さん、ちょっといいか?」

「はい、なんですか?」

俺がそう言うと、松永さんがこっちにやって来た

「今度は愛花を口説き落とす気?…」

天王寺が少し怒気がこもった声で言ってきた

「そんなんじゃない。安心しろ」

「そうだよ。大丈夫。安心して」

そう言って、松永さんは天王寺の頭を撫でた

「ごめん…。愛花」

「気にしてないよ。大丈夫だから」

松永さんはそう言うと、天王寺の頭をさらに撫でた

そして俺の方に来た、松永さんに俺は

『天王寺のこと頼むな。相澤さんにも言おうかと思ったけど、君の方が良いと思って』

天王寺に聞こえないように、松永さんにそう言った

『わかりました。任しといてください。でも…』

『でも?』

『最後は木崎さんがなんとかしてください。その方が良いと思いますし』

松永さんは、俺にそう言った

『わかった。そうする』

俺はそう答えた

確かに最後は俺がどうしかしなきゃな

「じゃあ、俺はもう帰る。ありがとな。色々あったけど、楽しかった」

「はい。それじゃまた」

「最後は色々ありましたが、あたしも楽しかったです。ではまた」

俺の言葉に、松永さんと相澤さんがそう答えた

天王寺の方は無言だったが、まぁいい



俺は帰りの道中で考えていた

『柊香織……ね。キャラ崩壊しすぎだろ。あれは』

嵐を巻き起こすだけ巻き起こして去っていった

めちゃくちゃだろ。ホント

『でもあの積極的なところが、天王寺にあれば……』

こんなことを口にして、天王寺に聞かれたら、また烈火の如く怒り出すだろうな

でも俺はそう思ってしまうのだ

何故かは分からないが…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る