第58話 咲耶視点④
「なるほど…。そういうことですか。にわかに信じられない話ですね…」
わたしと木崎さんの出会いから、これまでの経緯を聞いた柊はそう答えた
相変わらず柊は、木崎さんの腕に抱きついたまま
「信じられないだろうが事実だ。俺もまさか、あんなベタな展開から、ここまでになるとは思わなかった」
木崎さんがそう言うと
「まぁ達也さんがそう言うんですから信じます🖤達也さんも大変でしたね🖤」
柊は木崎さんの腕に顔をスリスリさせて、そう言った
ホント、いい加減にしなさいよ。あんた
「だけど…。ベタな展開とはいえ、なんて腹立たしくて羨ましいのかしら。天王寺さん、あなたすごい強運の持主ね」
柊はわたしが向かって、そう言ってきた
「何言ってんの?あんた?腹立たしくて羨ましい?わたしが強運の持ち主?何おかしなこと言ってんの?今までで一番ワケわかんないんだけど…」
わたしは少し怒気がこもった声で答えた
「だってそうでしょ?私なんて、達也さんにこうやって再会するのに何日もかかったのに、あなたは出会った翌日に再会なんて。これが強運じゃなくて、何だっていうの?」
柊がわたしにそう言ってきた
「わたしはまた会いたいなんて、そんなの全然思ってなかったわよ。あんなのただのベタな偶然よ」
「そうね。そこが私とあなたの決定的な違いね。あなたはまた会いたいとは思ってなかった。でも私はあの日から、ずっと達也さんに会いたいって思ってた。なのに私は何日もかかって、あなたはその次の日に再会した。それが腹立たしくて羨ましいって言ってるの」
わたしの言葉に、柊はそう答えた
「また会いたいって思ってなかったのに、再会しただなんて……。そんなの腹立たしいじゃない。それがベタなものでも、私にとっては、すごく羨ましいわ。しかもその日に連絡先を交換?それもあなたから無理やりって!どういうつもりでそんなことしたの!?」
柊は、わたしにそう聞いてきた
こんな風に話してても、柊は木崎さんの腕から離れようとしない
いまだに抱きついたままだ
「わたしにもわかんないのよ。ホントに。嘘じゃないから。まぁそっちがどう思おうが、そっちの勝手だけど」
わたしは、素っ気ない感じでそう答えた
なんでそんなことしたのかは、いまだに分からない
本当に
でもその理由が分かってたとしても、こいつに答えてやるつもりはない
答えてなんかやるもんか
こんなヤツに
「まぁいいわ。腹立たしいことがあるとすれば、もう一つ!あなた、達也さんをデートに誘うなんて!どういうつもりなの!?やっぱり拐かすつもりだったの!?どうなの!?」
柊がそう聞いてきた
「いや、あれはデートってわけじゃ…」
「誘ったら悪いの?デートに。言っとくけど、拐かすつもりなんて一切なかったから。あんたならそういうつもりで誘うんでしょうけどね」
デートじゃないと否定しようとした、木崎さんの言葉を遮る形で、わたしは皮肉を含めてそう言った
「おい、天王寺。あれをデートってことにしていいのか?」
「なによ?デートにしちゃ悪いの?いいじゃない、デートってことで」
わたしは木崎さんにそう答えた
木崎さんはなんか困惑したような顔になった
なにを困惑してるのかはわからない
でも今はそんなのどうでもいい
柊の影響か、それともわたし自身がそう決めたのか
どちらかといえば後者だろう
前者はただの後押しに過ぎない
わたしの中で、あれはデートだと確定された
それを変えるつもりはない
変えてやるもんか
「なによ!その開き直った顔!!ムカムカする!!」
わたしはあんたの一億倍はムカムカしてんのよ
そんなこと言いながら、木崎さんの腕に抱きついたままのくせに
木崎さんはさっきほどじゃないけど、まだ困惑した顔をしてる
『なんとか違うってことにできないかとか考えてるの?』
そんなことはさせない
させてやるもんか
「これからはそんなことはしないでもらえる?達也さんの親戚でも、ましてや恋人でもないんだから。いいわね!?」
柊は木崎さんの腕にさらに抱きついてそう言った
「なんであんたにそんなの言われなきゃなんないのよ!この妄想エロ脳みそ花畑女!!」
「私は達也さんの恋人になる女だからよ!いいえ、いずれは妻になる女だからよ!!この暴力お邪魔虫女!!」
わたしと柊は、お互いの顔を睨み付けながらそう言った
「おーい。もうやめろお前ら。マジで収集つかなくなるから」
木崎さんが、わたしと柊にそう言ってきた
もう困惑した顔じゃなくなってる
だけど
「だからあんたがそれを…」
ギュッ!
「はい🖤やめます🖤見苦しいところを見せてしまってすみません🖤でもあなたを思ってのことですから🖤許してくださいね🖤」
柊は、抱きついている木崎さんの腕をさらに抱きしめて、顔をスリスリさせながらそう言った
ホントこいつ…
「咲耶、落ち着いて。これ以上はホントにダメ。警察沙汰になっちゃうから」
「うん。気持ちはわかるけど、これ以上はホントにやめといた方がいいわ。とりあえず落ち着いて。ほんの少しでいいから」
愛花と卑弥呼がそう言ってきた
…仕方ない。落ち着こう。ほんの少しだろうけど
「それで今日は、あの時のお礼を兼ねた親睦会ですか。お互いの趣味や好きなことを知るための。それで色々回ってたんですね」
柊が、木崎さんの腕に抱きつきながらそう言った
「ああ🖤私も参加したかったです🖤でも私としては二人きりの方が🖤まぁこれからお互いのことを知っていくわけですし、何より達也さんに再会できたことの方が一番です🖤それはそうと達也さん🖤」
柊は木崎さんを顔を見ると
「そろそろ連絡先を交換しましょう🖤できれば住所もセットで🖤家に連れて行ってくださる方が私としては嬉しいんですけど、なんかお邪魔虫がついて来そうな気がするので🖤」
ピクピク
お邪魔虫ってわたしのこと?
この妄想エロ女
「いや、まずいだろ、それは。空気読めって」
木崎さんが、柊にそう言った
そうよ。空気読みなさいよ。この脳みそ花畑女
「もう🖤そんなこと言うなら🖤」
チュッ
柊は、また木崎さんにキスした
ピクピク
「なんでまたいきなり」
木崎さんは顔を赤くして、そう言った
もしかして、最初に柊がキスした時もそんな顔だったの?
ムカムカ
「フフ🖤教えてくれないからですよ🖤ちゃんと教えてくれないとまたしちゃいますよ🖤私としてはそれでもいいんですけど🖤」
ピクピクピク
「咲耶、落ち着いて」
「こらえて。お願い咲耶」
愛花と卑弥呼が、わたしにそう言った
「どうします?🖤早く答えてください🖤」
柊が顔を近づけて、木崎さんにそう聞いた
「わ、分かった…」
木崎さんは、顔を赤くしてそう言った
誘惑されてんじゃないわよ!!
ムカムカムカ
「だけど連絡先だけだぞ。住所は教えないからな。それでもいいか?」
「はい🖤それで結構です🖤もしかしたら、あなたから誘ってくださるでしょうし🖤」
そして二人は、連絡先を交換した
ピクピクピクピク
「咲耶、我慢して。ねっ?」
「こうしないともう収まらないから。耐えて咲耶」
愛花と卑弥呼にそう言われて、わたしはなんとか我慢した
二人に感謝しなさいよ
二人がいなかったら、あんたらのスマホ、粉々にしてるところなんだから
「ああ🖤これで二人は繋がりました🖤ありがとうございます🖤」
チュッ
そう言って、また柊は木崎さんにキスした
これで三度目
頬へのキスを含めれば、四度目
ピクピク
やっぱあんた痴女よ
筋金入りの
「なんでまたしてくるんだよ?」
「今のはお礼のキスです🖤一度好きな人とキスすると、何度でもしたくなるんですね🖤もっとしたいですけど、今日はこれでおしまいにします🖤次はもっとしましょうね🖤今度はもっと情熱的な🖤」
そう言うと柊は、また木崎さんの腕に抱きついた
「もう終わった?このベッタリ虫女」
わたしは柊に、殺気がこもった声でそう言った
「ああ、いたのね。それで達也さん、空気を読めって言ったのね。ごめんなさい、忘れてたわ」
こいつは本当に…
「ああ、言っとくけど、わたしたちと木崎さん、グルチャしてるから。だけどあんたは入ってこないでよ。入ってきても承認しないし、即ブロックするから」
わたしがそう言うと
「グループチャットね。安心して。そんなことしないから。どうせあなたたち三人でかかったって、達也さんをどうにかできるわけないし。それに明らかに巨乳じゃない人がいるみたいだし」
柊は卑弥呼を見て、そう言った
「咲耶…。もう我慢しなくていいわ…。なんかあたしもこの子に正拳突き食らわせてやりたくなってきたから…」
「ありがとう卑弥呼。一緒にこいつ、あの世に送ろう」
空手二段の卑弥呼が味方についた
これでもう怖いものなしだわ
「ダメダメ!!二人とも!!落ち着いて!!ねっ?ねっ?」
止めないで愛花
「もうやめろ柊。これ以上もめ事起こすな」
木崎さんが、柊にそう言った
「だからあんたが言うんじゃ…」
「そうですね🖤あなたの名前と連絡先がわかったんですもの🖤これ以上不毛な争いは必要ありませんね🖤それにあなたとキスしちゃったし🖤私の大勝利ですしね🖤」
柊が木崎さんの腕に、顔をスリスリさせてそう言った
何が大勝利よ
ピクピク
「名残惜しいですが、私はそろそろ帰ります🖤今日はいつもよりいい夢が見れそうです🖤夢の中であなたとどんなキスをするのかしら?🖤今から楽しみだわ🖤ああ、それから天王寺さん」
柊はようやく、木崎さんの腕から離れると
「あなたには腹立たしくて羨ましくも感じたけれど、あなたが達也さんが出会ったおかげで、私は達也さんと出会えて、本当の私になれて、こんなにもこの人を好きになれたもの。感謝しなきゃね。とりあえずお礼に名前は覚えといてあげるわ。ありがとう。天・王・寺さん♪」
そう言って、柊は去っていった
わたしを恋のキューピットとか思ってんの?
ふざけんじゃないわよ!!
『帰りに事故に遭って、死ねばいいのに』
わたしは心の底からそう思った
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