第55話 咲耶視点①

なっ!なっ!なっ!

何なのこの女!?

いきなり現れて、木崎さんに抱きついて、ワケわかんないこと言って、愛花をフッたあの男子と別れた!?

しかもその後、またワケわかんないこと言って

その上、木崎さんに付き合ってくださいって!!

それって告白!?

しかもこいつ、今木崎さんに……

キスしたぁーーー!?

『何?何が起こってんの?今?何が起こったの!?』

わたしの頭はパニック状態に陥っていた

何か頭が一瞬、真っ白になったような……

今まで、こんなこと一度もなかったのに……

そんな風になっていると、あの女は木崎さんから唇を離して

「私、キスしちゃった。キスしちゃったぁ~~🖤告白してすぐにキスしちゃうなんて🖤興奮してついキスしちゃった🖤私の初キスをこんな形で捧げるなんて🖤」

あの女は興奮した感じで、喋りだした

初キス?

あの男子とはキスしたことなかったってこと?

初キスを木崎さんに……

ズキンッ

なんか痛い

何これ?

「ああ🖤そうなるとお付き合いするなら、それは結婚を前提としたお付き合いになるってことに🖤いいえ、まだお互いのことをよく知らないのに、それは。いいえ、嫌というわけじゃ全然。それでもいいなら、それでかまわないような。むしろその方が嬉しいというか。というより私としては、結婚を前提にお付き合いさせていだたきたいです🖤いいえ、もう結婚を前提にお付き合いしましょう🖤」

あの女は頬に手を当てて、顔を真っ赤にして、体をくねくねさせながら、喋りまくっていた

木崎さんはなんか、唖然としたような顔をしてる

たぶん、卑弥呼も愛花も同じような感じだろう

わたしも最初はそうだったが、それはほんの一瞬だった

わたしは全身から、今までに感じたことのない何かが迸るのを感じた

わたしはあの女に近づくと

「なっにしてんのよ!!!!!!!!あんたーーーーー!!!!!!!!!!」

わたしは全身が震え上がるぐらいの大声で、あの女に叫んだ

ごみ処理場で木崎さんに出した大声なんて、比較にならないぐらいの大声だ

自分でも、こんな大声が出るなんて思わなかった

わたしはそのまま、こいつを睨み付けると

「あんたねぇー、今自分が何やったか分かってんの!?ねぇ分かってんの!?しかもまたワケわかんないこと言って。結婚を前提にした付き合い!?なにふざけたこと言ってんのよ!!!!」

「自分がやったことぐらい分かってるわ。キスをしたのよ。それにふざけたことなんて言ってないわ。私はこの人と結婚を前提にしたお付き合いをしたいのよ」

わたしの言葉に、こいつは冷静かつ平然と答えた

その言葉と態度に、わたしの全身からさらに何かが迸ってきた

「あんた、前にこいつに無茶苦茶に言われたじゃない。ムカついたりしなかったわけ!?あんた頭おかしくなったんじゃないの!?」

わたしはこいつにそう言った

「おかしくなんてなってないわ。言ったじゃない。目が覚めたって。私は自分に正直に生きるって決めたのよ。美化することも、着飾ることも、一切せずに生きるって決めたの。むしろ解放された気分だわ。この人を好きになったことで、本当の私になれた感じがするの」

す、好き!?

今好きって言ったの!?

木崎さんのこと好きって!?

えっ!?

ワナワナ

わたしは拳を握りしめて、ぶるぶると震わせた

「おい、天王寺。ちょっと落ち着…」

キッ!!

「あんたは黙ってて。このステコマシ中年男」

わたしは木崎さんを睨み付けると、殺気を込めた声でそう言った

「あんたねぇ、こいつがどういう奴かわかってんの?見た目若く見えるけど、こいつ今年でアラフォーなのよ。しかも陰キャ属性のオタク野郎よ。その上巨乳派のドスケベ中年男なのよ。わかった?考え直すなら今よ。ていうか、これだけ言われたらさすがに冷めるでしょ?」

わたしはこいつに向かって、そう言い放った

すると

「それが何?」

こいつはわたしを睨み付けて、そう言い放った

「それが何だって言うの?私は見た目だとか年齢だとかで、この人を好きになったんじゃないわ。以前の私なら躊躇ったし、好きにならなかったかもしれない。でもこの人はそんな私を変えてくれたの!いいえ、さっきも言ったでしょう?本当の私になれたって!!私はこの人の内面に惹かれたの!見た目だの年齢だの関係なく!!あなたみたいに外面だけで相手を好きになるような、中途半端な人と一緒にしないで!!」

ズキッ

またなんか痛い

でもさっきとは違う痛みだ

まるで図星を突かれたような、そんな痛みだ

「男の人なら、胸が大きい女の人に目が行ってしまうものよ。そんなの恋人の魅力に惹かれていれば、自ずとなくなっていくわ。確かにあなた、かなり胸が大きいみたいだけど…」

こいつはわたしの胸をじっと見ると

「私より胸が大きいからって何?私だってあなたよりは劣るけど、普通の女子よりは大きいつもりよ。それに形では私の方が上みたいだし。バランス的には私の方が勝っているわ。ただ胸が大きいだけで、男の人の心を掴めるなんて思ってるようなあなたとは違うのよ。分かる?」

こいつはわたしにそう言ってきた

ピクッ

こいつ、わたしを痴女だとか思ってんの?

今のムカつきで、さっきの痛みはなくなった

余韻はあるけど…

「それにエッチな方が私としてはいいような。むしろエッチな人でよかったような。だって私、この人のことを考えるようになってから、夢の中でいつもこの人とキスしてるの🖤それもお互い裸で🖤それで朝目が覚めると恥ずかしくなって、顔が真っ赤になるんだけど、少し残念な気持ちにもなるの。だってキスから先の展開が見れないまま、目が覚めちゃうんですもの🖤」

こいつはまた顔を真っ赤にして、頬に手を当てながら言った

「でもその先が見れないのは、私が夜の営みの勉強をしてないからかしら?家事全般に関してなら、小さい頃から親にしつけられてきたから大丈夫だけど、確かにこれからは夜の営みの勉強は必要ね。だって夜の営みでもちゃんとこの人を満足させてあげないと🖤いいえ、むしろそっちの方が重要ね🖤だって結婚を前提にしたお付き合いをするんですもの🖤そっちの方が大事になってくるわ🖤もしかしたら毎晩求められたりして🖤私としては全然いいけど🖤むしろ私の方から求めちゃいそうだわ🖤」

ピクピク

あんたの方がよっぽど痴女じゃないの?

何エッチな妄想に浸ってんのよ?

こっちの存在忘れてない?

「分かった?私はどんな障害だって乗り越えてみせるわ。どんな覚悟だって持ってみせるわ。大体あなた何?この人の親戚だからって、首を突っ込んでいいことと悪いことがあるでしょう?これは私とこの人の問題よ!親戚でも、この件に関してはあなたは部外者。これ以上口を挟まないで!!」

プチっ

何かが切れた音がした

そして

「ふっざけんじゃないわよ!!!この妄想エロ女!!!!こいつとわたしが親戚!?勝手に決めつけてんじゃないわよ!!!こいつとわたしは赤の他人!!!!親戚同士じゃないわよ!!!」

わたしがそう言うと、こいつは「えっ?」とした顔になった

木崎さんもなんか「それを言ったらまずいだろ」って顔でこっちを見てる

卑弥呼も愛花も、「それは言っちゃダメ」って顔でわたしを見てる

えっ?えっ?えっ?

ハッ!

今気づいた

今この場で、これを言ったらまずい

無茶苦茶まずい

「親戚同士じゃない?どういうこと?」



















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