第53.5話 ???side

『はぁ。どうすれば、またあの人に会えるのかしら…』

彼とお別れしてから、私はさらにあの人をことを考えるようになっていた

勉強も上の空

ボーっとしながら考えてしまうのは、あの人のことばかり

夜眠る時も、あの人に会えることを夢見ながら寝るのが習慣になってしまっている

あの人が夢に出て、朝目が覚めるのが当たり前になった

その度に私は、顔を真っ赤にして恥ずかしい気持ちになる

だって夢の中で、私はあの人と……

これでまた、あの人に出会ったら、私はどうなってしまうんだろう……

いいえ、どうなってしまってもかまわない

だって私はもう決めたのだから

『こうやって一人で歩いていても、あの人を探している。偶然でもいいから、また会えたらいいのに……』

そんなことを考えていると

『えっ?あの人は。まさか…』

私の目にある人の姿が写った

あの人だ

あの一件以来、ずっと会いたいと思っていた、あの人だ!

私の頭の中を

いえ、もう私の心の中さえも、いっぱいにしたあの人がいる!!

『嫌がられるかもしれない。でも今声をかけないと、それこそもう一生会えない!』

そう思って、声をかけようとしたその時

『えっ?どうしてあの三人が?」

待ち合わせしていたのか、あそこにいたあの三人が、あの人のところに歩み寄っていった

あの三人の中には、当然彼女がいた

他の二人はあの時いた、彼女の友達

彼と別れたとはいえ、今彼女と顔を合わせるのはさすがにまずい

他の二人にしても、私が現れたら怒りを爆発させるだろう

そんなことになったら、元も子もない

『せっかくあの人に会えたのに……』

そうこうしてるうちに、あの人と三人はどこかに向かっていった

私はあの人と三人の後をつけることにした

『とりあえず、あの人が一人になった時に話しかけよう。後をつけるなんて、ストーカーみたいだけど仕方がないわ』

それよりも気になることがある

『あのセミロングの女の子、あの人に馴れ馴れしいわね。あの人は彼女の親戚なのかしら?いいえ、それ以前にあの子…』

あの人の足を蹴っていた

何様なの!?あの子!

親戚でも、やっていいことと悪いことがあるでしょ!!



あの人と三人が入ったのはショッピングモール

『買い物かしら?でもそれなら、あの人一人でもいいし、あの三人だけでもかまわないのに…』

そんな疑問がよぎったが、今は考えないでおこう

ぬいぐるみ市場

書店売り場

CD売り場

色々なところを回っている

『なんだか楽しそう…』

隠れて、あの人とあの三人の姿を見ていてそう思った

『私もあの人と一緒に色々回りたい。できれば二人きりで……』

あの人を見ながら、私はそう思った

でもやっぱり、一番目につくのはあの子!

あのセミロングの女の子!!

『何度も何度も、あの人の足を蹴って!あの人になにか恨みでもあるっていうの!?それでいて何気に一番あの人と仲良さげだし!!いくら親戚だからって~!!』



次に立ち寄った場所はおもちゃ売り場

今までの場所ならともかく、なんでこんなところに!?

まさかあの人、結婚してるの!?

奥さんと子供さんがいるの!?

『だとしたら、ひどいわ神様!!やっとあの人にまた会えたのに、そんな残酷な事実を突きつけるなんて!!』

ここに来たのは、子供さんへのプレゼントを買うため!?

そんな!!

なんか泣きたくなってきた……

…でもなんだかよく見ると、そんな感じには見えない……

あの人もあの三人も、それぞれになにか持っている

なにかの模型みたいだけど……

誰かへのプレゼントではなく、自分自身の買い物っぽい……

『もう少し近づいてみよう』

そう思って、私は恐る恐る近づいた

『えっ?』

少し近づいて私が最初に見たのは、あの人があのセミロングの女の子の頭をポンと叩いてるところだった

しかもなんか笑ってる……

そういえば、近づく前にもそんなことしてたような……

あの時は、あの人が結婚してるのとか考えてて混乱してたから、ちゃんと見てなかったけど。

でも、それよりも何よりも!

『あの人にあんなことされて羨ましい~!!いくら親戚だからって~!!』

そう思っていると

「くっー!!この一生独身中年男--!!」

あのセミロングの女の子が、あの人にそう言った

独身?

あの人結婚してないの?

嬉しい!!

彼女がいるかどうかは、まだわからないけど、そんなのどうでもいい!!

彼女がいたって、私がその人からあの人を奪ってやる!!

この際、結婚してたっていい!!

その奥さんからあの人を奪ってやる!!

誰にどう言われたってかまわない!!

誰にどう思われたってかまわない!!

だって私はもう決めたのだから



あの人とあの三人は屋上に上がると、手頃なテーブルについた

私は少し離れたテーブルについて、様子を伺った

あの三人は持ってきていた鞄から、それぞれお弁当を出した

あのセミロングの女の子は、少し遅れて出したけど

『お弁当を持参!?もしかしてあの人に食べさせるために!?一体なんなの?本当になんの集まりなの、これ!?』

そう思っていると、あの人はそのお弁当の一つを口にした

『なんだか不味いって顔をしてるわね?誰のお弁当かしら?』

あのセミロングの女の子が、やたらなにか文句を言ってるみたいだけど、あの子が作ったお弁当かしら?

その後、あの人は他のお弁当も口にした

今度はなんだか美味しいって顔をしている

セミロングの女の子は、悔しそうな顔であの人を見ている

『あの不味いって顔で食べてたお弁当は、やっぱりあの子が作ったものだったのね。あの人を何度も蹴っていた報いだわ。いい気味ね』

でもあの人はまた、あのお弁当を口にした

どうして?

親戚だからって、気を使うことないのに……

しかもあの子、なんか恥ずかしそうに顔をうつむかせてるし

…なんだかムカムカする

あの人を何度も蹴っていたくせに、あの態度はなに?

本当に何様なの!?あの子!

『もう耐えられない……』

私はいつの間にか、立ち上がっていた

あのセミロングの女の子に腹が立っている気持ちもあるが、それ以上にこの状況に耐えられない

『あの人が一人になるのなんて、待っていられない。あの人が近くにいるのに。またあの人に会えたのに。ただ見てるだけなんて、こんな蛇の生殺しみたいなのには耐えられない』

そう思うと、私は少しずつあの人とあの三人のいるところに近づいていた

あそこには彼女、愛花さんがいる

私を見たら彼、洋太君のことを聞かれるだろう

でもそんなの関係ない

洋太君とはお別れしたと、愛花さんに言えばいいだけのこと

それだけのこと

私にとって、もっとも重要なのはあの人にまた会えたこと

それがもっとも大切なこと

そう

あの日、私を痛烈に批判し、私を覚まさせたあの人

私の心をいっぱいにしたあの人

また会いたいとずっと思っていたあの人

私をこんな気持ちにさせたあの人

私、柊香織の目には、もはやあの人しか写っていなかった

ずっと忘れられないでいた、あの男性の人しか写っていなかった















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