第53話

おもちゃ売り場から屋上に移動した俺たちは、手頃なテーブルについた

そして松永さんと相澤さんは、持ってきていた鞄から、それぞれ弁当を出した

「そんなの持ってきてたのかよ。聞いてなかったんだけど」

俺はそう言うと、天王寺の方を見た

「言っといてもよかったんだけど、二人がそれは隠しとこうって言ってきて…。多数決で決定したって言って、わたしの意見、聞いてくれなかったのよ…」

「まぁサプライズってヤツですね。教えちゃったら、お礼にならないと思いまして」

天王寺の言葉の後に、相澤さんがそう言ってきた

「でもなんでこれが、俺への礼なんだよ?」

「ああ、咲耶から聞いたんですけど、お礼なら料理とかがいいって言ってたそうですし。それに木崎さん、コンビニのお弁当ばっかり食べてるらしいじゃないですか。咲耶、心配してましたよ?」

俺がそう聞くと、松永さんがそう答えた

こいつがしつこいから、適当に答えただけなんだが…

それになんか、余計なことまで言ってないか?

それよりもこいつ…

「俺のこと心配してたのか?天王寺?」

天王寺にそう聞くと

「べ、別に心配なんかしてない!!自惚れないで!!」

「そうか?そういえば、カラオケの一件の後の電話でも、なんだかんだでそういう心配してたな?」

「くっ!だから心配なんかしてない!!」

天王寺が、顔を真っ赤にして言ってきた

「照れない照れない♪」

松永さんはそう言って、天王寺の頭をナデナデした

「だからそういうの止めて。愛花…」

完全に子供扱いのポジションだな。天王寺

「まぁいつもより多めに作ったってだけなんで、あまり気にしないでください。あたし三人でそうしたら、木崎さんの分ができますから」

相澤さんがそう言ってきた

ん?

三人?

「松永さんと相澤さんのしか出てないけど、天王寺も作ったのか?」

そう言って俺は、天王寺の方を見た

「ほら、咲耶。恥ずかしがってないで」

「べ、別に恥ずかしがってなんかないわよ…」

「じゃあさっさと出す。じゃないと、もう頭ナデナデしてあげないよ♪」

相澤さんと松永さんにそう言われて、天王寺は持ってきていた鞄から弁当を出した

「偉い偉い♪ちゃんと作ってきたんだね♪」

そう言うと松永さんは、天王寺の頭をナデナデした

もう慣れたのか、天王寺は顔を赤くするが文句は言わなかった

「じゃあ、三人同時に開けるわよ。せーの」

相澤さんがそう言うと、三人はそれぞれの弁当を開けた

相澤さんの弁当はオーソドックスな感じだ

どこか懐かしみのある感じな弁当だ

松永さんのは、ホント美味そうな感じがする弁当だ

こんな弁当作ってくれる子を振るとは、馬鹿な野郎だな、あの男子

天王寺の弁当は……

「なんだこれ?」

思わず言葉に出てしまった

「なによあんた?せっかく人が作ってきたヤツにケチつけるの?」

「いや、だってこれは…」

天王寺の弁当は二人のとはレベルが違う

悪い意味でレベルが違う

卵焼きか?これ?すげぇ焦げてるけど

ウインナーか。これもなんか焦げてるし

肉は…。これも同じか

とにかく焦げ臭い感じだな。こいつの弁当

「咲耶…。いくらなんでもこれは…」

相澤さんが、天王寺の弁当を見てそう言った

「家庭科の実習で作ったヤツよりひどいよ、これ。咲耶、一人で作るとこんなにひどいのが出来ちゃうの?」

続いて、松永さんがそう言ってきた

二人の意見はもっともだな

こいつ、料理出来なさすぎだろ

「なによみんなして!!食べてもみないで、そんなこと言わないでよ!!ちゃんと食べてから言ってよ!!」

天王寺が、ムキになって言ってきた

『しゃあないな…』

俺は、自分の前に前に置いてあった箸を取って、天王寺の弁当を一口食べた

パクっ

「不味…」

また思わず言葉に出てしまった

「なっ!!人がせっかく作ってきたヤツを不味いって!!ホントひどい奴ね、あんた!!この最低中年男!!!!」

天王寺は、顔を真っ赤にしてそう言ってきた

「ホントのこと言って、何が悪い」

俺がそう言うと、天王寺は顔をますます真っ赤にさせた

それを見ていた、相澤さんと松永さんも、自分の前に置いてある箸を取って、天王寺の弁当を食べた

「確かにこれはひどいわ……。家庭科の実習のヤツよりひどい……」

相澤さんがそう言うと

「うん。相変わらずお塩とお砂糖間違えてるし、調味料の量も多すぎ。その上、絶対火加減とか考えずに作ってるね」

松永さんが続けてそう言った

「ねぇ咲耶。前々から言おうと思ってたけど、味見した?」

松永さんは、天王寺にそう聞いた

「そんなのしてないわよ」

天王寺は、はっきりそう答えた

味見しろよ、お前!!

「咲耶…。味見くらいしようよ…」

「だって愛花、自分が作ったお弁当食べた時、『今日も美味しくできたぁ』って言ってるじゃん。あれって味見してないから言ってるんでしょ?」

相澤さんの言葉に、天王寺はそう言った

「あれはね、自画自賛みたいなものだよ。私だって、ちゃんと味見して作ってるよ」

松永さんは、天王寺にそう言った

「そうなの!?」

「そうなんです!」

ペシっ

そう言うと松永さんは、天王寺の頭をチョップで叩いた

パクっ

「相澤さんのヤツ、いい味付けだな。美味い」

「そうですか?ありがとうございます」

相澤さんの弁当を食べた俺の言葉に、相澤さんはそう言った

パクっ

「松永さんのもすげぇ美味いな。努力して身につけたっていう感じがする」

俺は松永さんの弁当を食べて、そう言うと

「へへへっ。結局フラれちゃいましたけどね」

松永さんが笑ってそう言った

「気にしなくていい。それがわからねぇアイツが馬鹿なんだよ」

「はい。ありがとうございます!」

俺の言葉に松永さんはそう答えた

「ん~~~!!」

天王寺が、悔しそうな顔で俺を見ている

『全く…』

パクっ

俺は天王寺の弁当を食べた

「なによ?不味いんじゃなかったの?」

「ああ、不味い。二人に比べると格別に不味い」

俺がそう言うと

「だったら食べなきゃいいじゃない!!ていうか食べるな!!」

「断る」

天王寺の言葉に、俺はそう答えた

「なんでお前がそんなの決めるんだよ。食べるかどうか決めるのは俺の方だろ」

俺は天王寺にそう言った

「それにお前なりに頑張ったわけだしな」

俺がさらにそう言うと、恥ずかしそうに顔をうつむかせた

『だからそういう態度取るな。勘違いするから』

また俺は、そんなことを思ってしまった

なにを勘違いするのかわからないのに

何故かそう思ってしまう

パクっ

やっぱ不味い

でもなんか、天王寺の弁当が一番嬉しいと感じる

相澤さんと松永さんが、ニヤニヤして天王寺を見ている

その時、俺たちは気づいていなかった

ある人物が俺たちに近づいて来ているのを










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