第39話

家に帰った俺は、帰る途中で買ったコンビニ弁当を食べていた

「頑張ったな…か」

ルームを出る間際に、俺は天王寺にそう言った

なんであんな言葉が出たのか、俺にもわからない

事情をよく知らない俺が、あんな言葉を言うのは変な話だ

だが、天王寺の様子を見て、俺はふいにあの言葉が出た

あいつの様子を見て、俺が感じたことが、そのまま言葉に出たんだろう

『あのあとどうなるか。まぁあの三人次第だな』

そんなことを思っていると

トゥルルル

俺のスマホに鳴り出した

「なんだ?」

スマホを取ると、それは天王寺からのLINE電話だった

「もしもし。天王寺どうした?またなんかあったか?」

電話を取った俺がそう聞くと

『何もないわよ。ちょっとあのあと愛花から伝言頼まれてさ。ほら、あのポニーテールの子』

「ああ、あの子か。で、あのあとどうだった?」

天王寺にそう聞くと

『まぁ。とりあえずは様子見かな?そんなところ』

「そうか。まぁそれがいいな。とりあえずは」

『うん。ああ、愛花からの伝言伝えるね。『ありがとう』って』

ありがとう?

「俺、大したことしてないだろ。ワケわかんないことぶちまけてたって思われることはあっても、ありがとうなんて言われることはしてないぞ」

『そうだね。あれにはわたしもびっくりした。いきなりまくし立てるんだもん。でもさ、ルームで卑弥呼が言ってたけど、わたしたちだけだったら、どんなことになってたかわかんなかったよ。わたし、アイツぶん殴るくらいじゃ済まない気持ちだったし。卑弥呼なんか特にそうだったと思うよ?病院送りにしてたんじゃないかな?』

卑弥呼?

ああ、あのボーイシュの女の子か

確か、空手の有段者だって天王寺が言ってたな

『ああ、ちなみに女子の方にじゃなくて男子の方にだから。勘違いしないでね。木崎さん、男子よりも女子の方にキレてたから』

わかってる

それが普通だ

『でもいいよ。あの男にもムカついてたけど、あの女にもムカついてたし。だからだと思うよ。愛花が『ありがとう』って木崎さんに伝えてほしいって言ったのは』

「そうか?」

『そうだと思うよ、たぶん』

まぁどうこう考えても仕方ない

ありがたく、その伝言を受け取っておこう

『それとわたしからも聞きたいことあるんだけど。木崎さん、喫茶店でわたしにハンカチ出してくれたよね?最初に会った時はハンカチ出さなかったのに、なんで?』

やっぱ聞いてきたか

聞いてくると思ってた

「ああ、あん時はハンカチ忘れててな。仕事の時はいつも持ち歩いてんだけどな。あの時に限って忘れてたんだよ」

『なにそれ。大間抜けね。大間抜け中年男』

「うるせえ。……天王寺」

『なに?』

「お前、笑ってるだろ?楽しそうに」

天王寺のその声を聞いてると、何故かそんな気がした

『笑ってなんかないわよ!それも楽しそうになんて!それより木崎さん、今日もコンビニのお弁当食べてるでしょ?』

「それがどうした?」

「前に電話した時も言ったと思うけど,そんなんで大丈夫なの?体壊しても知らないよ?自分の歳考えなさいよ」

余計なお世話だ

でも

「お前にそんなに心配されるなんて思わなかったな。どういう風の吹きまわしだ?」

『べ、別にそんなんじゃないわよ!気まぐれよ。気まぐれ。深い意味はないから』

「そうか。俺はてっきり今日のお礼に、今度料理作ってあげるとか言うかと思ってたんだが」

ちょっとからかってやりたくなって言ってみた

『う、うるさい!!そんなの言うわけないでしょ?!なんであんたみたいな中年男になんか…。ちょっと!今笑ってない?!』

「どうだろな」

予想通りの反応に、俺は思わず笑っていた

面白い奴だな。ホント

『クーッ!!さ、最後に一言だけ言っとくわ!』

「なんだ?」

『カッコ良かったよ…』

ツーツー

小さな声でそれだけ言うと、天王寺はそのまま電話を切った

「カッコ良かった?どこがだ?」

俺のどこを見て、そう言ってんだか

だけど…

『カッコ良かった…か』

なんかあいつに言われると嬉しいな…

「って!なに考えてんだ俺は!!ただそういうのを言われるのに慣れてないだけだ!やましい気持ちはない!!なのに…」

なにドキッとしちまってんだ俺は…

思えば、この時から俺は意識し始めてたのかもしれない

天王寺咲耶という女子を一人の異性として…












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