第38話

黒髪ロングの女の子は、俺の言葉に「どうして自分に?」という顔をした

男子も自分に矛先が向かってくると思っていたので、驚いている

まぁ当然か

「お前、自分が一番悪い。だから自分もそいつと一緒に行かなきゃいかない。自分も謝らないといけない。そいつが批判されたら、自分が支えなきゃいけない。自分も同罪だから、そうしなきゃいけない。そう考えてるだろ?」

俺は黒髪ロングの女の子を見ながら、そう言うと

「俺は部外者だ。本来ならここにいるべき人間じゃない。だがな、今一番の部外者がいるとしたらお前だ」

「どうして私が部外者なんですか?私のせいでこうなったんですよ?だったら私もここにいるべきじゃ…」

俺の言葉に、黒髪ロングの女の子はそう言ってきた

「ふざけるな…」

「えっ?」

「ふざけるんじゃねぇ!!」

俺は立ち上がって、黒髪ロングの女の子に叫んだ

「お前、こいつがその子に会いに行くって言った時、自分もついていくって言ったんだってな!そいつ一人に辛い思いさせたくないからって!自分も謝りたいからって!ふざけるんじゃねぇ!!」

俺の叫び声に、彼女はビクッとした表情になった

だが俺はお構い無しに続ける

「この件はそいつとその子の問題だ!!そいつらで解決しなきゃいけないことだ!!確かにその子は友達も一緒でいいかって言った。だけどな、そいつがもし本気でその子に謝りたいって思ってんなら、二人だけで会おうって言うもんだろ!お前がそいつのことちゃんと思ってんなら、そういう風にしないとダメだって言うべきだろ!!」

「そ、それは…」

「こいつらだって、そいつらが二人だけで会って話をつけるってことになったら、一緒についていくってことはしなかった!後つけて、遠くから見るってことはしても、そいつらの話に割って入る真似はしなかったろうさ!!」

こいつらの友達関係がどんなものかは知らない

けれどここまで耐えられるなら、おそらくそうなってたはずだ

「そんなこともせずについてきやがって!その子に謝りたい?なにふざけたこと言ってる!見せつけたいだけだろ!!自分たち二人を!そいつの彼女になった自分を!その子に!!」

黒髪ロングの女の子は、ギクッとしたような顔をしたが

「そんなこと思ってません!私は本当に愛花さんに謝りたくて…」

「ああ、思ってないって考えてるだろうさ!だがな、ただ気づいてないだけだ!無自覚にやってんだよ!だからイラつくしムカつくんだよ!!」

彼女の反論に間髪いれずに俺は言い放った

「罰の悪い顔して!震えるそいつの拳握って!申し訳ない顔して!その子に頭下げて!でもお前、そんな健気な自分に酔ってるだろ!心の中で高笑いしてるだろ!その子に対して!!自分の方がそいつに相応しい!自分がそいつの運命の相手だってな!!それも無自覚に!!そういうの見てるとイラつくんだよ!ムカつくんだよ!相手を見下してる感じがしてな!」

俺の言葉に呑まれているのか、黒髪ロングの女の子は、さっきのような反論ができないという顔になっている

男子も何か言おうとしているが、黙ったままだ

ただ比較的冷静だった、それまでの顔とは徐々に違ってきている

だが俺はそんなことなど気にせず、言葉を続ける

「俺も昔はお前みたいな健気な女に憧れた!でもな、気づいたんだよ!そんな女と結ばれたって、恋人になったって幸せになれない!!そこで終わりだ!ハッピーエンドだって思ったって、それは一瞬だ!!未来なんかない!自分の世界にただ閉じ籠って生きてくだけだ!!寂しいも悲しいもないが、楽しいもないんだよ!空しさだけしかないんだよ!!」

そして

「俺はな、ただ甘えさせるだけの優しさに浸ってるこいつにもムカついてるが、それ以上にそういう優しさを相手に与えて、その実そいつを上から見下して、優越感に浸ってるようなお前みたいな女が!!一番ムカつくんだよ!!!!」

最後にそう言い終えると、天王寺もボーイシュの女の子もポニーテールの女の子も、じっとこっちを見ていた

黒髪ロングの女の子は、放心したような、呆然としたような感じになっている

男子は一瞬ギッと、歯ぎしりしたような顔になると

「香織ちゃん、もう帰ろう。もう話すことなんてないし」

男子が黒髪ロングの女の子にそう言った

「香織ちゃん?」

「えっ?は、はい」

彼女は一瞬、びっくりした様子になったが、男子の言葉にそう答えた

「じゃあね愛花。さよなら」

そう言って男子は、黒髪ロングの女の子と一緒にルームをあとにした

「フゥー」

俺はバタンと椅子に座り込んだ

「ごめん。騒ぎになる前になんとかしなきゃいけない俺が騒ぎ起こすような真似して」

俺が三人に、そう謝罪すると

「い、いいよ木崎さん。気にしなくて」

「ええ。あたしたちだけだったら、もっとひどいことになってたかも…」

天王寺とボーイシュの女の子が俺にそう言ってきた

ポニーテールの女の子は黙ったままだ

だけど彼女に関しては、そのままの方がいい

俺はスッと立ち上がると

「俺ももう帰る。あとはそっちでなんとかする方がいい」

これ以上は俺がなんだかんだ言うべきじゃないしな

「ああ、そうだ咲耶」

俺はドアを開けて、帰ろうとした時

「頑張ったな」

天王寺を見て、俺はそう言った

そして俺はルームをあとにした



カラオケ店を出た俺は、自分が言い放った言葉を思い出した

『オタクの俺が、オタク男子が抱く理想の女性像壊すようなこと言ったな…』

でもあれが俺の思ってることだから、仕方ない

俺も自分の世界に閉じ籠ってたことがあった

でもいつの間にかそこから出て、色々なことを知った

そうした中でも俺はアニメやマンガ、特撮モノ、ガンプラが好きなことは変わらなかった

むしろ逆に、自分の世界に閉じ籠ってた時よりも楽しんでる感がある

説明はしづらいが

「さぁ帰るか」

そう言って、俺は家路についたのだった




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