第37話

「わかってるよ。最初に見た時、『香織ちゃん?』って聞いたもん。香織ちゃんもその時、小学校の時以来だって言ったもんね?」

ポニーテールの女の子は、黒髪ロングの女の子を見ながらそう言った

その声は、ショックと悲しいが入り交じっていた

「はい。洋太君が今日、愛花さんと会うと言ったので、私もついていくことにしたんです」

「俺一人に辛い思いをさせたくないって言ってね。自分も愛花にちゃんと謝りたいって」

男子がそう言うと、黒髪ロングの女の子は、ポニーテールの女の子に頭を下げて

「この度は申し訳ありません。愛花さん」

「香織ちゃんが謝ることないよ。本当は俺一人で来ないといけなかったんだから」

男子が頭を下げている、黒髪ロングの女の子にそう言った

「いえ、こうなったのは私のせいなんですから。一緒に行くのは当然です」

『ムカつく…』

「ねえ、二人が高校で出会ったって本当なの?嘘ついてないよね?そんな偶然ってある?本当はもっと早くに出会ってたんじゃないの?私と別の高校に行くって言ったのも、それで…」

ポニーテールの女の子が、男子に聞いた

そりゃ、そう思って当然だな

「それは違います!彼と出会ったのは高校の入学式の時です!本当です。信じてください!」

彼女の問いに、黒髪ロングの女の子が答えた

「そうだよ。俺と香織ちゃんはその時出会ったんだ。お互いびっくりしたよ。小学校の時、彼女が転校して以来だったから」

続けて、男子がそう答えた

「最初は懐かしさもあって、色々話したよ。その時に愛花と付き合ってるっていうのも話した。自信をつけるために愛花と別の高校にしたっていうのは話さなかったけど」

「はい。その時はまだそういった事情は知りませんでした。ですが、洋太君が何かを隠してる感じはしました」

男子の言葉に、黒髪ロングの女の子は続けて、そう言った

「自分で選んだこととはいえ、周りに知り合いがいない中で彼女がいてくれて良かったと思ってる。色々助けてくれたし、励ましてくれたしね」

その男子の言葉にポニーテールの女の子は

「何でそういうの私に話してくれないの?彼女なんだよ私。洋太の困ってることとか、悩んでること、まず最初に私に言ってよ。私じゃ力にならないって思ったの?どうなの?」

いつ泣き出すかわからない顔で男子に聞いた

「話しても無駄だって思ったんだ。それだと愛花にはかなわないって認めるようなものじゃないか。それじゃ愛花と別の高校に行った意味がないからね」

それを聞いた、ポニーテールの女の子は

「じゃあ香織ちゃんには何で話したの?!自信つけたいって思って別の高校行ったんなら、それじゃ意味ないじゃない!!そうでしょっ?!」

ポニーテールの女の子は、こらえてたものを吐き出すような声で言った

「待ってください!洋太君はちゃんと頑張ってました。私が勝手に聞いてしまったんです。『何でそんなに無理して頑張るの?』って。その時に彼からあなたと別の高校に行った理由を聞いたんです」

黒髪ロングの女の子が、ポニーテールの女の子にそう言ってきた

「そうだよ。彼女から聞いてきたんだ。その時からかな。彼女と親しくなってきたのは」

続けて男子がそう言ってきた

「彼女に色々話を聞いてもらっていくうちに、俺の中で香織ちゃんの存在が大きくなっていったんだ。愛花よりも少しずつ確実にね。そしてふと思ったんだ。彼女も同じ気持ちなんじゃないかって」

「同じ…気持ち?」

男子の言葉に、ポニーテールの女の子がそう聞いた

その顔は、聞きたくない言葉を聞いてしまいそうな、そんな顔だった

「好きなんじゃないかってことだよ。彼女も俺のことをって。そう思った時気づいたんだ。俺は彼女のことが好きだって。愛花以上にね」

ポニーテールの女の子は、とたんに息を呑んだ顔になった

聞きたくなかった言葉を聞いた

そんな感じだ

黒髪ロングの女の子は、罰の悪い顔で彼女に目を背けている

『…ホント、イラつくし、ムカつくな』

「それに気づいた時、俺は勇気を振り絞って香織ちゃんに聞いた。『俺のこと好きなの?』って。無言で彼女は頷いたよ。そして小さな声で『はい』って言ってくれた」

「そうなの?香織ちゃん?」

ポニーテールの女の子は、自分に目を背けている黒髪ロングの女の子に聞いた

彼女は、背けていた目をそちらに向けると

「はい。そうです…」

そう答えた

ポニーテールの女の子は、いつ泣き出してもおかしくない様子だ

「それがわかった時、けじめをつけないといけないと思ったんだ。愛花との関係にね。それがあのメッセージだよ」

ポニーテールの女の子は、その言葉が聞こえているかどうかもわからない顔だ

『そりゃそうだな』

「申し訳ありません、愛花さん。洋太君を責めないでください。全部私が悪いんです」

黒髪ロングの女の子は、深々と彼女に頭を下げた

「いや、香織ちゃんは悪くないよ。ずっと中途半端にしてた俺が悪いんだ。ごめん愛花。許してくれ」

そう言うと男子も、ポニーテールの女の子に深々と頭を下げた

沈黙

天王寺もボーイシュの女の子も、キレるのは目前だ

この沈黙を破るのは、どちらか、あるいは両方

この場合は両方か

だが、その沈黙を破ったのは彼女たちじゃなかった

「待て」

その場にいる全員が俺を見た

そう

この沈黙を破ったのは俺だ

「なんですか?間に入る人でも部外者でしょ?それにまだ間に入るには…」

「ああ、まだ早いだろうな。でもな、俺は今そんなのどうでもいいんだよ」

聞いてきた男子に、俺はそう答えた

確かに俺は万が一のために、間に入る人間として呼ばれた

だが、そんなのどうでも良くなった

「俺はな、イラついてムカついてんだよ。この上なくな」

俺がそう言うと

「そうですよね。こんな俺なんか腹が立ちますよね。でも俺はちゃんと謝るつもりでここに…」

「お前にじゃない」

男子はもちろん、他の全員も驚いた顔をした

そりゃそうだ

普通なら、この男子を集中的に批判する

だが俺は違う

俺がずっとイラついてムカついてるのは

「お前の方だ」

俺は男子の隣の方を見て言った

「俺が一番イラついてムカついてるのはお前の方だ」

そう

俺がずっと一番イラついてムカついてる相手は

男子の隣にいる黒髪ロングの女の子だ







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