第36話

「どういう…こと?」

ポニーテールの女の子が、『意味がわからない』といった顔で、男子に聞いた

すると

「最初は愛花のことが好きだったよ。だから愛花に告白された時嬉しかった。俺もいつ告白しようかと思ってたしね。恋人になれてからも楽しかった。最初のうちはね」

男子はそう答えた

そして

「でもだんだん辛くなったんだ。周りの男子たちから『すごい可愛い彼女だな』とか『羨ましい』とか言われてきて。最初はなんともなかった。でも君が周りから注目されていくうちに、愛花のことが苦痛になってきたんだ。君は勉強ができて、運動もそれなりにこなせた。先生たちからも信頼されて、クラスメイトたちからも人気があって。でも俺は違う。愛花ほど勉強も運動もできない。どれも平均。周りからも言われ始めたよ。『愛花と釣り合い取れてない』ってね…」

男子は続けて、そう言った

「何よそれ…」

天王寺が男子の言葉を聞いて、ボソッと言った

当然だな

「そんなの気にしなきゃいいじゃない。私、洋太のこと、釣り合い取れてないなんて思ったことないよ?料理の練習だってして、最初は上手くいなかったけど、そのうち洋太が美味しいって言ってくれて、もっと頑張ろうって思って……」

ポニーテールの女の子が、男子にそう言うと

「そうだね…。でも愛花が思ってるほど、そんなに時間かかってないよ。すぐじゃないか。自分が苦手だって思ってるものも、すぐに上手くなる。確かに愛花の作る弁当は美味しかったけど、それを食べる度にさらに思ったよ。『俺と愛花は何もかも違う。勉強も運動も才能も、俺は愛花にはかなわない』ってね」

男子はその時の気持ちを思い出したのか、下を向いて、拳を握ってブルブル震わせている

隣にいる黒髪ロングの女の子は、男子のその震える拳をそっと握った

「…ありがとう」

男子は黒髪ロングの女の子にそう言った

『ムカつく…』

ポニーテールの女の子は、さっきまでの男子の言葉がショックだったのか、うつむいていた

「だから愛花とは別の高校に行こうって決めた。自分に自信をつけるためにね。その時はまだ愛花と別れようって気持ちはなかった。それは本当だよ。距離を置きたいって思ったんだ」

「だったら、何でそう言って…」

「言ってもわかってもらえないと思ったんだ」

うつむいたままのポニーテールの女の子に、男子はそう言った

「言い訳じゃない。そんなの」

今度はボーイシュの女の子が、ボソッとした声でそう言った

その子も天王寺も、膝に置いた手を握って、ブルブルと震わせている

『今は耐えろ、二人とも。あの子のためにのな』

俺は二人を交互に見て、そう思った

辛いのはわかるが、今一番辛いのはあの子だ

今二人がキレたら、あの子がもっと辛くなる

「そして入学した高校で彼女に出会った。小学校の時に一緒だった彼女にね」

男子は隣の黒髪ロングの女の子を見て、そう言った

「愛花も覚えてるだろ?彼女を見た時に気づいたよね?柊香織ちゃんだよ」

ポニーテールの女の子は、うつむいていた顔を少し上げて、彼女を見た

柊香織

それが黒髪ロングの女の子の名前か




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