第34話

「ここか…」

俺は今、カラオケ店の前にいる

何故こんな所にいるのかというと

仕事が終わりに差し掛かっていた頃、天王寺からLINEメッセージが届いた

内容は

『仕事終わったら、わたしが言う場所まで来て。理由は着いた時に話すから』

『今日は友達二人が一緒で、木崎さんのことは親戚のおじさんってことにしてあるから』

『今回に関しては、特別に咲耶って呼ぶことを許してあげる。でないと怪しまれるから。今回だけの特別だから。わかった?』

『あと、道に迷わないように。それじゃ』

というものだった

『全然わけわかんねぇ』

それが、俺がこのメッセージを見た時に思ったことだ

理由は着いた時に話すとか、友達が一緒だとかって、一体どうなってんだ?

親戚のおじさんってことにしてあるからってことは、まぁいいにしても、何の用件だ?

だけど昨日の天王寺の様子を思い出すと、どうも放っておくってわけにもいかない

俺は仕事が終わると、いつもよりも急いで帰り支度をして、早々に会社を出た



「で、あいつが言う場所っていうのがここか…」

なんとか道には迷わずにすんだ

まぁ、多少は時間がかかったかもしれないが

俺は天王寺のLINEに『今着いた』とメッセージを送った

すると

『思ったより早かったわね。わたしたちはもう着いてるから。店員さんには、後でもう一人来るって言ってあるんで』

天王寺から、そう返信が返ってきた

「じゃあ入るか」

俺はカラオケ店に入り、店員さんにその事を話すと、天王寺たちがいるルームを教えられ、そこに向かった

『カラオケなんて、来た経験ないからな』

なんか妙に緊張する

カチャ

店員さんに教えられたルームに入ると、そこには天王寺と、友達と思われる女子二人がいた

「わざわざ呼び出してごめんね。おじさん」

「ああ、別に大丈夫だけど。どうしたんだ?咲耶」

俺がそう呼ぶと

「へっ?!ああ、うん。ちょっとね。とりあえず、どっか座って、おじさん」

なんかびっくりしたような顔で、天王寺がそう言った

『少し顔赤くなかったか?まぁ気のせいだろうが』

俺を親戚のおじさんっていう設定にした奴が、そんな態度取ってどうすんだ

俺が適当に空いてる席に座ると

「ねぇ咲耶。この人があんたの言ってた親戚のおじさん?」

ボーイッシュな髪型の女の子がそう聞くと

「う、うん。そう。この人がわたしが話した親戚のおじさん。名前は木崎達也さんっていうの」

「どうも」

天王寺がそう答えたので、俺も無愛想ながらも挨拶した

「ふぅーん…」

なんか疑われてないか?おい

「まぁいいか。今日は来てくれてありがとうございます」

その子はそう言って、軽く会釈した

「あの…。私からもありがとうございます。今日はその、私個人の問題で。すいません、わざわざ」

もう一人のポニーテールの髪型の女の子が、続けてそう言ってきた

「いや、悪いけど、それ以前に俺、なんで呼ばれたのかがわからないんだけど。そろそろ理由教えてほしいんだけど…」

「ああ、そうだった。わたしが説明する。実はね…」

俺がそう聞くと、天王寺が答えてきた



「…というわけなのよ」

なるほど

昨日の天王寺のアレは、それが原因か

友達の彼氏が、突然別れようと言ってきて、今日ここで会って話すことになった

俺は万が一のために備えて、間に入るために呼ばれたと

『おいおい。来といてなんだけど、勘弁してくれよ、そういうの』

そんなリア充カップルの問題に、オタクの、しかもアラフォーの俺が間に立ったって、どうにかできるわけないだろ。全く

だけど、来た以上しょうがない

ここで帰ったら、天王寺に悪いからな

『こいつなりに考えた末のことだし。何より昨日のあんな姿見たらな』

放っておけないだろ

「ああ、言っとくけど、俺、ケンカとかからっきしだから。それでもいいかな?」

「構いません。そんなことにならないために来てもらったんですから」

ボーイシュの女の子が、俺の質問にそう答えた

「最初からおじさんにそんなの期待してないし。こっちには空手の有段者がいるんだから」

その天王寺の言葉に、ボーイシュの女の子が小さく手を上げた

『おいおい。乱闘騒ぎになったら、洒落になんねえぞ』

まぁそうならないために俺が呼ばれたわけだが

なるほど。話し合いの場所をここにしたのも、そのためか

『喫茶店やらだったらともかく、カラオケ店のルームなら、いざって時に店員さん呼べるからな』

「大丈夫です。彼、そういうことする人じゃないし。たぶん、ですけど…」

ポニーテールの女の子が自信なさげに、そう言った

『まぁ当然か…』

自信持ってそう言えたら、こんなことになってないしな

するとポニーテールの女の子が、スカートからスマホを取り出して

「彼、来たみたいです。もうこっちに来るって」

いよいよお出ましか

天王寺みたいな修羅場にならないといいが

カチャ

誰かが入って来た

『こいつか…』

入って来たそいつは、見た目は普通

どちらかと言えば、草食系

まぁ俺も同じようなもんだが

「洋太…」

ポニーテールの女の子が、そいつを見て、そう呼んだ

こいつの名前だろう

「ん?」

「えっ?」

俺も天王寺も他の二人も、そいつの隣を見た瞬間、驚いた

特にポニーテールの女の子は、信じられないという顔になっている

洋太と呼ばれたそいつの隣には

女子が立っていたのだ










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