第31話

「ふぅー、終わった終わった」

今日の仕事はこれでおしまい

今回も定時で帰れる

前みたいな残業は、もうごめんだしな

早々と、帰り支度を済ませると

「先輩、今日もお疲れ様っす!」

「ああ、髙橋。それじゃあな」

髙橋の言葉にそう返すと、俺は会社を出た

『天王寺は、もう学校終わってるな』

そんなことを思いながら、家路についていると

ぶるぶる

ズボンのポケットの中のスマホが震え出した

「なんだ?また天王寺のやつか?」

ポケットから、スマホを取り出すと、案の定天王寺からだった

しかし今回は、メッセージじゃなく、電話だった

『なんかあったのか?』

そう思いながら、天王寺からの電話を取った

「もしもし。どうした?」

『あっ。木崎さん、今仕事?』

「いや、仕事終わって帰るところだ」

『なんか元気ないな』

俺がそう思っていると

『そう…なんだ。ごめんね、突然電話しちゃって』

やっぱ、何かおかしい…

「どうした天王寺?学校でなんかあったのか?元気なさそうだぞ、お前」

『別に何もないよ。ただ、話したいなって思って…ごめん、またかけ直すね』

『なんかヤバい感じがする』

かけ直すとか言ってるが、今聞いとかないと、はぐらかされそうだ

「天王寺。とりあえず、あの喫茶店に来い。いいな?でなきゃ、かけ直してきても電話に出ないからな」

『……わかった…』

天王寺は力なく、そう答えると電話を切った

あの喫茶店とは、二度目に天王寺に会った時に入った、そして休日に天王寺と待ち合わせた所だ

『あいつ、ホントに何があったんだ?』

そう思いながら、俺は喫茶店に向かった



俺が喫茶店に着くと、すでに天王寺がいた

ブレザーの制服を着ている

学校帰りってところか

けれど、俺が先に気になったのはそこじゃない

「天王寺。お前、目赤いぞ。どうしたんだ?」

「ああ、うん、ちょっとね」

『ちょっとって感じがしないんだが…』

そう思ったが、俺は天王寺が座る、向かいの席に座った

「何があった?」

「別に何もないよ。ただ、ちょっと話したいなぁって」

俺がそう聞くと、天王寺は作り笑いを浮かべて、そう言った

「……そうか」

こういう時、深く詮索するんだろうが、俺はあえてしなかった

『変に詮索すると逆効果になるな』

そう思ったからだ

「あのさ、木崎さん、最初に会った時言ったよね?『自業自得』って」

ああ、あの時天王寺がフラれた時に言ったことか

なんで今、その時のこと言い出すんだ?

「わたしさ、今日ね、やっとわかったんだ。その通りだって。自業自得だね、ああなったの」

やっぱ、何かあったな。こいつ

「わたし、何にもわかってなかった。取っ替え引っ替えでカレシ作って、相手のこと、なにも考えずにフッてきた。そんなんだから、わたし……」

天王寺の目から涙が溢れ出してきた

三度目だな

こいつが泣いてるの見るの

でも、これは今までのとは違う感じがする

「わたし、なにも言えなかった。なにも言ってあげられなかった。目の前で辛くて泣いてるのに、なにもしてあげられなかった。友達なのに、わたし……」

天王寺が嗚咽をあげて泣き出した

『友達繋がりで何かあったな』

こいつの言葉を聞いてると、そんな気がした

「こんなわたしなんてフラれて当たり前だよ。今までそうじゃなかった方がおかしいんだ。男子から都合よく扱われて当然だよ」

さらに天王寺は、嗚咽をあげて泣き出した

『よっぽど辛いことあったみたいだな』

「自業自得って言われて当然だよ。バチが当たって当然だよ。わたし……」

「天王寺」

今まで黙っていた俺は、ようやく口を開いた

「お前が今日何があったかは、あえて聞かない。聞いたってたぶん俺にはどうにもできないことみたいだしな」

下を向いたまま、泣いている天王寺にそう言った

「天王寺。とりあえず顔上げろ」

続けてそう言うと、天王寺がようやく顔を上げた

「俺は確かにあの時お前に『自業自得』って言った。それは今でも変わらない。でもお前、1つ間違ってるところがあるぞ」

「えっ?」

「俺はな『1割は自業自得』って言ったんだ。今のお前の言葉聞いてると、全部って感じがするけど違う。あくまで1割だ」

まだ泣いている天王寺に、俺はさらに続けた

「少なくても、今のお前は自業自得の人間じゃないし、バチが当たって当然の人間じゃない。何があったにせよ、友達のために泣いてるんだからな。今のお前は」

「でも。でも…」

俺はポケットから、あるものを取り出すと

「ほら天王寺。これで涙拭け」

ハンカチだった

普段は持ってないが、仕事の時は持ち歩いている

天王寺は、俺からハンカチを受け取ると、それで涙を拭き始めた

「それ返さなくていいぞ。だから洗わなくていい。拭き終わったら捨てていいから」

そう言って、俺は立ち上がると

ポン

天王寺の頭に手を乗せて

「がんばれ」

一言そう言うと

「俺は先に帰る。ここは俺が払うから、落ち着くまでここにいろ」

俺は伝票を持ってレジに向かい、支払いを済ませて店を後にした

「なんからしくないこと言ったな」

そう呟いて、俺は家路についた




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