第30話 咲耶side②

少し落ち着いた愛花は、階段に座った

わたしは愛花の右隣、卑弥呼は愛花の左隣に、それぞれ座る形になった

しばらくして

「幼馴染みなんだ。彼…」

愛花はまだ目に涙を溜めているが、やっと口を開いた

『そういえば、彼氏の話、初めて聞くな…』

わたしがそう思っていると、愛花が淡々と話し始めた

愛花と彼は幼馴染みで、子供の頃は、いつも一緒に遊んでたらしい

どちらが先かはわからないが、愛花も彼も、お互いに『好き』という気持ちを抱くようになったそうだ

『木崎さんが聞いたら、王道な展開だって言いそうだな…』

今はそれは置いといて

二人が、正式に彼氏彼女になったのは中学に入ってからとのこと

二人で登校して、一緒にお昼食べて、一緒に帰る

休日にはデート

ありきたりで普通に見えるけど、すごく楽しくて幸せだった

料理の練習をし始めたのも、その頃だっだらしい

彼に美味しいものを食べてほしい

そんな気持ちで始めた

初めは上手くいかなかったけど、だんだん上手くなって、美味しいと言ってもらえるようになった

高校も同じところにしようと話したけど、彼が『別の高校に行く』と言い出した

訳を聞いたけど、話してくれなかった

何度も聞いたけど答えてくれず、結局、別々の高校になった

それでも連絡はしてたし、休日にはデートもした。手作りのお弁当を持って

けれど先日、突然彼から

『別れよう』

そうメッセがきたらしい

「で、彼に返信した?電話とかしたの?」

卑弥呼がそう聞くと

「返信した。何度も。でもKSされて。電話も出てくれなくて…」

愛花が、そう答えた

因みにKSとは、既読スルーのこと

「ブロックは?着拒とかされてる?」

さらに卑弥呼がそう聞くと

「わかんない。そういうのはされてないみたい。全然ワケわかんないよぉ」

そう言うと、愛花は顔を手で覆って、また泣き出した

「とりあえずまた連絡してみよ?今度はちゃんと答えてくれるかも…」

わたしがそう言うと、愛花はキッと睨み付けて

「そういうの言われたくない。咲耶には」

「えっ?」

睨み付ける顔もだけど、こんな怒気がこもった声を出す愛花も初めて見た

特に『咲耶には』

わたしの名前を出した時の愛花の目は、すごく怖いものを感じた

「咲耶になんかわかんないよ。私の気持ちなんて…」

そう言うと、愛花は立ち上がって

「咲耶にわかるわけないよ!!私の気持ちなんか!!取っ替え引っ替えで、カレシ作ってた咲耶になんか!!」

わたしに、そう叫んできた

「私は咲耶とは違うの!!ちゃんと彼だけ見てた!!彼だけ好きだった!!すぐに別の男子と付き合っちゃう咲耶と一緒にしないで!!!」

泣きじゃくる顔で、わたしにそう言ってきた

さらに

「一回フラれたからって何よ!!自分は何度も相手をフッてきたくせに!!そんな咲耶なんかに私の気持ちなんてわかるわけない!!!」

こんなに怒りをぶつけてくる愛花を見たのは初めてだ

何よりわたしは、その言葉に何も言い返せない

『言葉が見つからない』

そんな気分だった

「咲耶の場合、自業自得じゃない!!フラれたのだって、今までのバチが当たったのよ!!そうじゃない!!!そうじゃないの!?」

「そ、それは……」

確かにフッたことは何度もあるけど、フラれたのはあの時が初めてだ

わたしは、愛花の言葉に何の反論もできない

『なんか、わたしまで泣きたくなってきた…』

でも今泣いても、なんにもならない

『逆に、もっと怒らせるだけだ…』

それだけは、はっきりわかる

「大体咲耶なんか…」

「待って!!」

愛花の言葉を卑弥呼が静止した

これ以上はまずいと感じたんだろう

「愛花、一旦落ち着いて。事情はわかったから」

そう言うと、卑弥呼は愛花を、そっと抱き寄せた

そして愛花は、また泣き出した

卑弥呼の胸の中で

「愛花。とりあえず彼に会って話したいって言ってみて。メッセでも電話でもいいから。そういうこと言ってないんでしょ?だから、ね?」

そう卑弥呼が言うと、愛花がコクりと頷いた

「今日はここまでにしよ。続きは愛花の彼氏から返事が来てから。それでいい?咲耶」

「うん…」

卑弥呼の言葉に、わたしはそう答えた

「あたし、愛花を送っていく。いいよね?咲耶」

卑弥呼の問いかけに、わたしは無言でコクりと頷いた

卑弥呼が愛花を連れて、立ち去っていく

その後ろ姿を見て

『なんか、のけ者って感じだな……』

わたしは今までにない孤独感を感じた

『わたしも送っていく!!』

そう口にしたかったけど、言葉に出なかった

入る余地がない

入る価値がない

入る資格がない

そう感じたからだ

『わたしの隠し事なんて、愛花に比べたら大したことないな……』

愛花のあの姿を見て、そう思った

わたしは木崎さんに言われた、あの言葉を思い出していた

『自業自得だと思うぞ』

「そうだね。自業自得だね。わたし……」

いつの間にか、わたしは泣いていた

友達に何もできない自分が情けなかった

友達に何もできない自分が悔しかった

友達に何もできない自分が悲しかった

「フラれた時より辛いよ…」

本当にそう思った

そして

『木崎さんと話したい…』

心からそう思った






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