第28話 咲耶side

昼休み

わたしは教室で、卑弥呼と愛花の二人でお昼を食べている

あの時は中庭であったが、二人と話せたことで、今はもう、すっかり平気になっている

「咲耶、あんたもう、すっかり平気だね。なんだかんだ言って、もう少し時間がかかるんじゃないかと思ってたけど」

「んー、まぁね。もう全然平気になっちゃった。自分でも驚いてる」

卑弥呼の問いかけに、わたしはそう答えた

あの時の木崎さんの行動のおかげかな?

あの時はブチキレちゃったけど、あのやり方が、一番良かったのかもね

今までのカレシ連中からもらったやつを捨てる

売るよりも、こっちの方がスッキリするし、なんか前に進めるって感じがする

今はなんか、そう思える

『でもあの後のことは、さすがに呆れたけど…』

それをやると決めて、ごみ処理場に向かった人が、実は方向音痴だったとは

『全く、それでよくあんなことやろうなんて思ったわね。あいつ』

その時のことを思い出して、わたしはクスリと笑った

あの時のことを思い出して、笑うのは、これで二度目ね

「咲耶?何笑ってるの?」

「えっ?!な、なんでもないなんでもない。ハハハ」

二人でいるのを、すっかり忘れていた

「?咲耶、あんた最近変じゃない?この前の休日、遊びに行こうとかの連絡なかったね?あんたなら鬱憤ばらしに、そう言ってくるんじゃないかと思って待ってたんだけど…。こっちから連絡した方がよかった?」

卑弥呼が、そう聞いてきた

確かに

あの時も、荷物売ってできたお金で遊びまくったあと、その翌日は二人を誘って、更なる鬱憤ばらしするつもりだったし

『この前の休日は、木崎さん誘って、デー…、って違う違う!あれはデートじゃないって!!何考えてんのわたし!!』

大体あっちだって、そんな風に思ってないだろうし…

『なんか、それはそれで悲しいような…って、ホント何考えてんのわたし!!』

「咲耶、何その葛藤してるような顔?そんなに悩むこと?」

顔に表れてたのか、卑弥呼がそう言ってきた

「そんなことないって。たまには一人でのんびり過ごしたいなぁって思っただけで…。ホントホント」

誤魔化し笑いを浮かべて、そう答えた

「ふーん、まぁいいか。とにかく隠し事してるってことはわかったから。今日は引いてあげるけど、そのうち答えてもらうから」

「ハ、ハハッ」

卑弥呼は勘が鋭い

「なんでそんなのわかるの!?」ってくらい、ものすごく勘がいい

普段ならそれもあって、隠し事せずに話すんだけど…

『さすがに木崎さんのことは話せないな。下手したら、援交してるって思われちゃうし。それにそんなことになったら、木崎さんにも迷惑かかるしな…』

ん?

ちょっと待って?

『自分のことはともかく、なんであいつのことまで心配してるの?』

…まぁいいか

深く考えたら、またあの言葉が浮かぶ

自分で言ってしまった、あの言葉が…

「ねぇ、愛花。愛花はどう思う?」

卑弥呼が愛花に話しかけた

そういえば、なんかおかしい

さっきから愛花が話しかけてこない

こういう時、一番話しかけてくるのは愛花なのに…

「愛花?あんたまでどうしたの?というより、今日ずっと変だよ?授業中もボーっとしてたし。なんかあった?」

「へっ?!な、なんにもないよ。大丈夫」

卑弥呼の問いかけに、愛花は焦ったように答えた

「全然大丈夫じゃないでしょ。じゃあ、あたしと咲耶が何の話してたか、言ってみな」

「えっ?!え~と、何の話してたんだっけ?」

「やっぱ聞いてなかったんだね。あんたも咲耶と同じで隠し事してるでしょ?咲耶以上にわかるよ。あんたの場合」

「か、隠し事してないよ。気のせいだよ。気のせい」

わたしとは違った感じで、誤魔化し笑いを浮かべて、愛花はそう言った

ふとその時、わたしはある事に気がついた

「愛花。お弁当、全然食べてないよ?」

そう。

愛花は、自分のお弁当に全然手をつけてない

いつもなら、『今日のお弁当も良くできたぁ♪大成功♪』って言って、はしゃいでるのに……

「へっ?!ああ、今日、なんか食欲ないみたいで。ハハハッ」

「愛花の場合は悩み事ね、きっと。そっちもそのうち、聞かせてもらうわよ」

「な、悩み事なんてないってばぁ。ハハハッ」

絶対変だ…

卑弥呼と違って、あまり勘の鋭くないわたしでもわかるくらい、今日の愛花は変だ

「まっ、そういうことにしといてあげるわ」

これ以上詮索するのはよくないと思ったのか、卑弥呼はそこで話を終わらせた

『なんかあれ以来、色々変わってきてるな…』

そんな感じがする

木崎さんにフラれた現場を見られた、あの日から

自分の周りも

自分自身も

そんな感じだ

だけど、愛花の悩み事は、しばらくしてわかることになる

そしてわたしの隠し事、木崎さんのことも説明することになるのだけど…

でも愛花の悩み事の方が深刻だったんだと、その時のわたしは気がついていなかった












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