回想編

第27話

「先輩、お昼一緒にどうすっか?」

「なんだ髙橋、お前いつも外食だろ?珍しいな」

こいつは髙橋雅也

俺の後輩にあたる社員

なにかと俺に絡んでくる

いや、懐いてくるともいえる

なんでこいつが俺に懐いてくるかは、俺にもわからない

何か理由があるんだろうが、俺にはその理由が思い当たらない

「いや、たまには社員食堂もいいなって思って。どうすっか?」

「…好きにしろ」

「じゃあ、一緒にってことで♪」

俺のぶっきらぼうな返事に、そう答えてきた

『ホントこいつ、なんで俺なんか、相手にしてくるんだ?』

そう思いながら、俺は髙橋と一緒に社員食堂に向かった


「いやぁ、この間の休日、彼女とデートしたんですけど……」

黙々と、昼食を食べている俺の向かいで、髙橋がお構い無しにしゃべってくる

『ああ、こいつ最近、彼女できたんだっけ』

惚気話聞かせたくて、俺を誘ったのか?

『休日。デート。ね…』

こいつの話を聞いていて、俺は天王寺のことを思い出した

『そういえば、天王寺のやつ、あのガンプラ、買って早々作ったんだよな。少し間を置くかと思ったんだが』

あの休日の晩、天王寺が、自分が作ったガンプラの画像を送ってきた

その画像に添えられたメッセージは

『さっそく作って、完成させたわよ!どうよ?!』

そのメッセージに俺は

『初めてにしては、よくできた方だと思う』

そう返信した

『まぁ、あの返信で大丈夫だろ』

もっと褒めるようなメッセージでも送ればよかったかと思ったが、あれ一回きりにするって言ってたしな

『んっ?でも考えてみると…』

なんか髙橋の『彼女とデートした』って言葉聞いたらふいに

『なんか俺、最近休日、あいつと過ごしてばっかじゃないか?!』

そう思ってしまった

『いや、あの時の休日はともかく、その前の休日はただ偶然、ベタな再会したってだけだし』

だが、あのベタな偶然の再会は置いとくとしても

『やっぱあの時の休日、デートってことになんないかーー-?!』

そんなことを考えていると

「どうしたんすか先輩?なんか変っすよ?」

「いや、なんでもない」

髙橋が聞いてきたので、そう答えた

「先輩は休日、どうしてたんすか?アニメとか見てたんすか?それともやっぱガンプラ作ってたんすか?また作ったガンプラ写真見せてくださいよ」

「ああ、そうだな」

俺はTwitterやらの類いはやらないが、自分が作ったガンプラを、写真に撮ったりして、それを見たりしてる

『そういえば、こいつが絡んでくるようになったきっかけって、これだったっけ?』

そんな気もするが、はっきりとした理由がそうだという気がしない

なんとなくだが

ちなみに、こいつは自分もオタクだと言っているが、俺が見る限り、一般人として扱われるレベルだ

実際はどうかはわからないが

『まぁ、変に突っ込むと、沼にハメそうだからな。こういう奴の場合、底に入ったら、もう出られなくなりそうだし』

せっかく彼女持ちになったんだから、そうはなってほしくない

『俺も、底に入ってたかどうかはわからないが、周りが見えなくなるんだよな』

でも世の中のこと知ると、現実はアニメやマンガみたいに単純じゃないってわかってくる

『で、周りが色々見えてくるところまで、浮上するんだよな』

まぁ沼にハマってる状態に変わりはないが、見えると見えないじゃ、全く違うんだよな

「でも先輩、最近なんかありました?なんか前とは、なんか違う気がするんスよね」

突然、何言ってんだこいつ?

「まぁ、何かあったと言えばあったけどな」

女子がカレシに浮気されてるとこ目撃して、その翌日にその女子と再会して、なんかわけがわからないまま、連絡先交換したり

「まぁ色々だな。言うほどのことじゃない」

そんなこと言えるはずもないので、そう誤魔化した

「そうですかぁ?もしかして先輩、好きな人でもできたとか」

ぶっ

思わず、吹き出してしまった

「んなわけないだろ。何言ってんだ、髙橋」

「でも好きな人とかいたりはしたでしょ?」

好きな人……か

まぁ確かにいたな。昔

「やっぱ、いたことあるんすね先輩。なんかそんな顔してますよ?」

どんな顔だよ、それ

「俺の昔のことなんか、どうでもいいだろ。ほら、さっさと食って仕事戻るぞ」

「はい。わかりました!でもやっぱ先輩、前とは違いますよ。なんとなくですけど」

前とは違う…か

だとしたら、天王寺の影響だろうな。きっと

『あいつ、今何してんだろうな…』

何故か、そんなことを考えてしまっている自分がいた



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