第26話 咲耶side③

「さて」

晩御飯を終え、お風呂を入り終え、パジャマに着替えたわたしは今、机の前に座っている

机の上には、木崎さんから薦められたガンプラと、ニッパー、そしてシールを貼る時に使うというピンセットが置かれている

「普段なら、ベッドに入って、ぐっすり眠ってるんだけど」

なんか、いざ買ってみると、早く作りたい気分になってしまっている自分がいた

「確かに、これを買ってみようと思ったのは、木崎さんが夢中になる理由を知るためだけど…」

『今すぐ作る必要があるのかって気もするんだよね…』

でも

「やっぱ、早く作ってみないと、木崎さんが夢中になる理由がわかんないしね」

わたし自身、早く作ってみたい気分だし

「じゃあ、開けてみるか」

カパッ

わたしはガンプラの箱を開けてみた

「ふーん、袋に色んなパーツが入ってる。なんか色もちゃんと着いてるし。小さいからか、そんなにパーツも多くないし。大きさからして、わたしが最初に選んだやつは、これよりパーツ多いんだろうな。きっと」

わたしが最初に選んだやつは、別段特別な理由はない

微妙に違うのはわかるが、やはりみんな同じに見えるし

大体わたしは、ガンプラなんてよくわからない

だから『なんかこれ、かっこいいな』って感じで選んだ

だけど、木崎さんに見せたら

『これは止めとけ』と言われた

あの時は『何で?』って思ったけど、これを開けてみて、なんとなくではあるがわかった

『難易度高かったんだな、きっと』

だから木崎さん、これを薦めたのか

「そういえば、初心者向けって言ってたな、これ」

SDと書いてあるそれは、わたしが見てたやつよりも小さめだ

パーツが少ないことから考えても、初心者向けっていうのは間違ってないな

『まぁ、初めて作るし、これ一回きりだから、これが妥当ってところか』

そんなことを考えると、ふと木崎さんが言ったことを思い出した

『同じ趣味を持てとか、同じものを好きになれとは言わない』

そして、こんなことも言っていた

『俺の好きなものがどんなのか興味持って、少し知りたいなって思ってくれたらいい』

どういうことだろ?

『わたしだったら、少なくても同じものを好きになってほしいとか思うんだけど。あわよくば、それで同じ趣味になればいいなって考えるんだけどな』

その方が、話が弾んでいいと思うけど

愛花は理由が上手いけど、それが趣味っていう感じじゃない

卑弥呼に関しては、よくわからない

自分のことを、あまり話さないというか、必要最低限のことしか教えない

でも、それなりに話が会うし、仲良くやれてるから、どこか趣味とかが合うんだろう

でもよく考えてみたら

『必ずしも、趣味が同じってわけじゃないんだよね…』

わたしは、話が合って仲良くやれてるから、同じ趣味を持ってるんじゃないかと思っていた

今まで付き合ってた、カレシ連中にしたってそうだ

『わたし、それが一番だって思ってたし、今でもそう思ってるけど…』

なんか、ほんのちょっとだけ違和感を感じた

『ホントにそれでいいの?』

そう思った

気のせいと言われたら、それまでで終わる違和感だけど

『まぁ、木崎さんも、そんな深い意味で言ったわけじゃないだろうし』

んっ?

そういえば、こんなことも言ってたな

『特に好きな人とかにはな』

「あいつ、好きな人とかいたの!?ていうかいるの!?」

その時の言葉を思い出して、そんなことを口にしてしまっていた

「いやいや、仮にそうだとしてもわたしには関係ないじゃん。そうよそうよ」

でも

なのになんで

『なに焦ってるの?わたし』

そして、こんなことも言っていた

『そういうのって、相手を縛りつけるみたいな、自分好みの人間にしようとか、そんな感じがするんだよな。そんなことして、その人が辛い気持ちになったり、重い感じになったりしたら嫌だろ?その人がその人でなくなっちまうみたいでさ』

『フラれるとか別れるとかより、その方が辛いし悲しいんだよ、俺は』

その時の木崎さんの顔は、寂しいような悲しいような、そんな顔をしていた

木崎さんのそんな言葉を聞いたからなのか、それともそのあと、そんな顔をしたからなのか、わたしはまた、あの言葉が頭に浮かんでしまった


『……………』


しかも、思わず口に出してしまいそうだった

何より、また言葉のトーンが上がっていた

僅かだけど、確実に

『ホント、どうしちゃったんだろ?自分で言った言葉なのに…』

その言葉に戸惑っている自分がいる

「い、いちいち考えても仕方ないよね。さっそく作っちゃおっ」

そう言うとわたしは、袋からパーツを取り出して、ニッパーを手にして、ガンプラ作りとやらを始めることにした


四苦八苦しながら、ガンプラというのを作って、完成させたわたしの感想は

『思ったより楽しい』

説明書に写ってるのは、色々手を加えてるのか、わたしの作ったのとは、少し違うけど

「結構面白いな。これ」

木崎さんが夢中になるのも、わかる気がする

『また作ってみたいな…』

そう思ったけど、一回きりと言った手前、なかなか言いづらいものがある

それに何より

『安易にそういうこと言ったら、木崎さんのこと困らせる気がする…』

そんな気がした

そして完成させたガンプラの画像を木崎さんに送った

その感想は

『初めてにしては、よくできた方だと思う』

そう、メッセで返してきた

『もっと、感想聞かせてほしいな』

そう思ったが、まぁいいか

でもその時、わたしはある重大なことに、やっと気がついた

「メッセ送った時、デートなんかじゃないって言い聞かせたのに、なんか何気にデートみたいになってない-ーー?!」

『デートなんかじゃない!!。デートなんかじゃない!!』

わたしは頭の中で、もう一度、自分に言い聞かせた

「でも、いっか」

小さな声で、わたしはそう言っていた

あの時の言葉は浮かんでこない

少し安心した

でも少し残念だとも思っている

「もう寝よ…」

そう言って、わたしはベッドに入っていった





















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