第18話 咲耶side(後編)

「ああ~気持ちいい~♪」

体を洗い、シャワーを浴び、湯船に浸かったわたしは思わず、そう声をあげた

「フフン♪昨日入らなかったからかな?今日のお風呂、いつもより気持ちよく感じる♪フンフンフーン♪♪」

なんか心が晴れ晴れした気分になっていた

カレシ連中との縁を切れた喜びが込み上げてきた感じだ

「なんだかんだで、あれで良かったのかもね♪ざまぁみろぉ♪♪」

あの時感じた怒りが喜びに変わっている

なんだか不思議な気分だ

「本当は明日も休みだから、友達誘って更なるストレス発散するつもりだったけど、もういいや。明日は自分の部屋でゆっくり過ごそ♪」

そうしよう。うん

「これもあの中年男。木崎さんのおかげかもね」

そう口にすると、今日1日のことを思い出していた

『最初に行ったとこ、模型店か。あんな男子とかが入るようなところ、初めて行ったな。木崎さんのホーム画面にあったロボットみたいなのがたくさん並んでたけど、みんなおんなじに見えたな。だけど違うのもあったし。でもそれもみんなおんなじに見えたな』

だけど、あれだけ並んでる中で木崎さんが買ったのはスプレー缶

あれ、何に使うんだろ?

それにあいつ、からかう感じで笑って、こんなこと言ってたっけ?

『買ってやろうか?』

バシャバシャバシャ

「いらないわよ、あんなの!ああいうのは男子が買うもんでしょっ?!あの中年男!!」

わたしは湯船のお湯を顔にかけながら言った

『でも1つくらい買ってもらってもよかったかも……』

バシャバシャバシャ

「何考えてんのわたし!わたしは女の子よ!健全な女子よ!オタクなんかじゃないし、そんなのになる気もないわ!!」

わたしは湯船のお湯をさらに顔にかけながら

「あとお昼ごはんね。あれは想像してなかったわ…」

わたしがあいつに連れて行ってもらったお店は

ラーメン屋

「あんた1人ならいいわよ。でも女の子が同行するってことになったのよ!その辺の予定は変えなさいよ!!せめてファミレス、最低でもファストフードとか。そういう頭が働かないの?!あの中年男!!」

でも……

『ラーメンって初めて食べたけど、美味しかったなぁ。すごく』

バシャバシャバシャ

「またわたし何考えてんの?!どうかしちゃったの?!わたし!」

わたしは、またさらに湯船のお湯を顔にかける

『でも待って。今冷静になって考えてみると…』

ごみ処理場のことは置いとくとしても……

一緒に買い物して

一緒にお昼ごはん食べて

なんかこれって……

「デートってことになってない----?!」

イヤイヤあり得ない

形的にそうなったってだけだ

それに相手はアラフォーの中年男

そんなのあり得ない

「下手したら援助交際って思われるじゃない!!わたしにそんな趣味、全っ然ないんだから!!!」

でもあいつも、そんな趣味ないって言ってた

じゃあ大丈夫かな?

だいたいあいつもデートとか思ってないだろうし

『とりあえず大丈夫ってことにしよう』

そう自分に納得させるとわたしは

「もう出よう。なんかのぼせそう…」

そう言うとわたしは湯船から体を出し、浴室を出た



「ああ、気持ちよかった♪♪」

浴室を出たわたしは、脱衣所で頭と体をバスタオルで拭き、それを体に巻き付けた

「そしてぐっすり寝る!これがわたし本来の生活スタイルよ!!」

そう言うと、わたしは脱衣所にある全身鏡を見た

『そういえばあいつ、なんだかんだで人の胸ジロジロ見てたわね。巨乳派なのかな?』

そう思いながら、わたしは木崎さんと並んだ時の身長差を思い浮かべた

『あいつって、あんま背が高くなかったわね。わたしの頭があいつの肩か少し上くらいだったから、高身長ってわけじゃないわね。わたしも背が高い方じゃないし。もしかして『それなのに胸でかいな』とか思ってたのかな?』

そう考えるとわたしは『フフン♪』とした感じで、全身鏡に映る自分の胸を見た

「まぁ当然か。これでもわたしFカップだからね。気になって釘付けになるのも当然か。恐れ入ったか、巨乳派中年男」

そう口にした途端

「わたし、今なんて言った?!なんで勝ち誇ったようなこと言ってんの?!ムカつくところじゃないの?!こういう時!!」

自分が口走った言葉に戸惑っていた

そしてさらに

『わたしのお風呂上がりの写真送ってやろうかな?』

なんてことを思ってしまった

「イヤイヤ、なんてこと考えてんのわたし?!あいつに送ったメッセでも言ったじゃん。『可愛い画像とかエッチな画像とか送らない』って!!お風呂上がりの写真なんか送ったら、何に使われるかわからないわ!!」

だいたいスマホは自分の部屋に置いてある

送れるわけがない

カレシ連中にだって送ったことないのに

ましてや、あんな中年男になんて

『そういえばあいつ、確か返信で』

『そんなの期待してないし、そういうのに使うつもりもない』

「あっちも別に期待してないってことね。それなら安心か」

そう口にした瞬間、1つの考えが浮かんでしまった

「それってつまり、わたしには魅力ないってこと?!あの中年男!!!」

そんな考えが浮かぶと、そんなことを口にしていた

「人の胸、ジロジロ見てたくせに!どうせ巨乳派なんでしよ!!あのドスケベ中年男!!!」

そこまで口にすると、自分の言葉にハッとした

「何ムカついてんの?どうでもいいじゃん、そんなの」

その瞬間、あの時自分が言った言葉が浮かんだ

わたしの質問に答え終わったあいつに言った言葉


『……………』


「聞こえてなかったよね?あいつも『何か言ったか?』って聞いてきたし。それに何より」

『なんであんなこと言っちゃったの?わたし』

聞こえてなくて良かった

でもわたし、あの時顔赤かった気がするけど

『大丈夫だよね?きっと』

そう思うと、わたしはまた浴室に向かっていた

「もう一度お風呂入ろ。湯船に浸かるだけだけど」

二度湯なんて初めてだ

でも今日はそんな気分だった

その日からわたしは変わっていく

他の人から見たら、別人にようになったと思うだろう

でもわたしはわたしのままだ

別人になったわけじゃない

でもわたしは変わっていく

でもそれは悪いことじゃない

そう思うようになるのは、かなり後になってからだ
















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