第17話 咲耶side(前編)
「既読スルーもせず、返信もしてきた。そういうとこはちゃんとするみたいね」
わたしは晩御飯を食べると、部屋に戻り、あいつ、木崎さんにメッセを送った
「ていうかわたし、なんであんな中年男と連絡先交換したんだろ……」
あいつにLINEインストールしてって言って、登録してって言って、挙げ句に連絡先まで交換したけど
「なんであんなこと言ったんだろ?しかもあんな最低中年男に…」
本当にわからない
もうお互い帰るってことになった時、突然あんな言葉が出て、こんなことになってる
なんかこうしないといけないような。そんな感じだった
自分で自分がわからないなんて、こんなの初めてだ
『あんなの全然好みじゃないのに。オタク、陰キャ、それにあの服装は何?オタクっぽくなく、おじさんっぽくなく、若作りしてるわけでもない。ある意味すごい中途半端。何より相手は歳上よ?しかも今年アラフォーの。歳上でも許容範囲越えてるわよ』
なのにわたしはそんな奴と連絡先を交換した
考えれば考えるほどわからない
「しかしあいつ、過激なことするわね…」
ごみ処理場に行くことになった時、確かに不安な気持ちはあった
でも何かの脅しかと思っていた
何の脅しかはわからないけど、そう思っていた
けれど作業員さんと話をしているあいつを見て、だんだん血の気が引いていくのを感じた
最悪の事態が起こる
そう感じてきた
そしてその結果は……
売ろうと思ってた、今までのカレシ連中からもらったヤツをあいつは焼却炉に投げ捨てた
ヤバいと思って止めようとしたけど、もう遅かった
目の前で燃えていくソレを、わたしは呆然と見て頭が真っ白になっていった
そしてそのあと、わたしはあいつをごみ処理場の外に連れ出し、あいつに怒りをぶつけた
本当はその場で怒りをぶつけかったが、場所が場所だし、また周囲の視線を集めることになるので我慢した
わたしの怒りに対してあいつは
『名残惜しいとか思い入れがあるのは、それをくれたカレシ連中に対してじゃなくて、その品物に対してだろ』
『だから一種のステータス、別れても自慢できる女って思われてたんだよ』
「品物に名残惜しいとか思い入れとかあって何が悪いのよ。その上わたしが忘れたいことまで言ってきて……」
だから涙が出てきそうになった
悔しい
そんな気分だった
『自分はそんな女じゃない。あいつらとは違う。あいつらとの関係は全て断ち切る。そう思ってるなら、あれくらいしろ』
「思ってるわよ。自分はそんな女じゃないって。あいつらとは違うって。あいつらとの関係は全て断ち切りたいって。だから全部売ろうとしたんじゃない…」
『あんな方法思いつかないわよ普通。ていうか、今の人たちでそんなこと思いつく人いないでしょ?』
そう思った
そしてあいつはさらに
『お前、俺と何かあったら『俺嫌いになるしかない』って言ってたな。それって男嫌いになりたくないってことだろ。そういう選択をしてる時点でお前は分岐点に立ってねぇよ。もうそういう選択を選んでるってことだから』
図星を突かれたと思った
自分でさえ気づかなかったことを言われたと思った
だからあいつから目を反らしてしまった
「あの時と同じだ。わたしが気づく前にあいつに言われた。わたしのこと何も知らない奴にまた…」
そしてあいつは最後に
『なんだかんだ言って俺がお前のフラれた現場言いふらしてないか気にしてたな。それって自分も同じようなことしたことあるからじゃないか?』
あれは認めざるを得ない
そう思った
わたしもそういうことをした記憶がある
それを否定することは、少なくてもあの状況ではできなかった
あのあと、わたしは泣いた
悔しいとか悲しいとか、そういう気持ちじゃなかった
ただ涙が出た。そんな感じだった
男の人に泣かされたのは二度目だ
1人は浩介
わたしをフッた元カレ
もう1人は、昨日と今日会っただけの男
わたしのフラれた現場を見たおじさん
泣いてる女の子にひどい言葉しか言わない、最低の中年男
でもなんでだろう?
悔しいとか悲しいとかはなかったとはいえ、浩介の時のようなイヤな感じはしなかった
それに、チラッと見えたあいつの顔はなんか罰の悪い顔をしていた
『なんでそんな顔するんだろう?』
『あんな偉そうなこと言っといて、何で』
その時のわたしはそう思った
でもそのあとは正直呆れ返った
あいつが方向音痴だとわかったからだ
『方向音痴のくせに、ごみ処理場に行ってあんなことしようって思ったの?』
呆れるにも程がある
ごみ処理場に向かってる時、なんか挙動がおかしかったこともあって、近くのごみ処理場を検索して、ナビで地図検索しといて良かったと思った
そこがあいつが向かったごみ処理場だったのも幸いした
「一体どうやって戻るつもりだったのよ。わたしがいなかったら戻ってこれなかったかもしれないのよ。あんな偉そうなこと色々言っといて。なんか抜けてるとこあるわね、あいつ」
その時のことを思い出して、わたしはクスッと笑った
『でも、ひどい言葉しか言わない最低中年男だと思ってたけど、悪い奴じゃないってことだけはわかったんだよね』
だからかな?
わたしはあいつにこんなことを聞いてしまった
『おじさんはさ、彼女にフラれた時、その人にもらったプレゼントってどうするの?やっぱあんな風に捨てるの?』
不意に聞いてみたくなった
そんな感じだった
あいつはこう答えた
『しばらくは置いとくかな?フラれ方によるけど、しばらくは置いとくと思う』
続けて
『好きになった相手からのプレゼントだしな。そして気持ちが落ち着いたら捨てる。フラれ方次第では時間がかかるかもしれないけど、そうしないと前に進めない気がするしな』
そして最後に
『そういうのはよくないだろ?相手にとっても自分にとっても』
そう答えてきた
それを聞いたわたしは、こいつは相手のことを大切に思える奴なんだと思った
そして次にこんな質問をしていた
『じゃあさ、そのフッた相手があんたのあげたプレゼントを売ったり捨てたりしたらどう思うの?悲しいとか辛いとか思わないわけ?』
これも不意に聞いてみたくなったことだ
するとあいつは
『どうするかはあっちを決めることだ。俺が決めることじゃない』
そう答えてきた
『こいつは相手を縛りつけるとか、そういうことをしたくないんだ』
なんとなくそう思った
そしてお互いに帰るってことになった時、わたしはあいつにLINEをインストールさせて、登録させて、連絡先を交換した
何度思い返しても、自分が何であんなことを聞いて、何であんなことを言って、こんなことをしたのかわからない
「こんなわからないこと初めてだ……」
わたしはスマホの画面に映る、LINEに登録されたあいつのプロフィールを見る
『木崎達也…か』
ふとあいつの姿を思い出してみた
「やっぱ名前負けしてるな。あの中年男」
なんかおかしくなって、クスクスと笑った
でもなんでだろう?
なんかスッキリしてる
売ろうと思ってたヤツをあんな風にされたのに、あんなに怒りをぶつけたのに、今はすごいスッキリしてる
家に帰って、普通に晩御飯食べて、そして今こうしている
『売ったお金で遊びまくってもこんな気持ちになったかな?』
たぶん、いやきっとこんな気持ちにはならない
たとえこんな気持ちになっても一時のものだ。きっと
『ひどいやり方だと思ったけど、あれでわたしは今までのカレシ連中との縁を本当の意味で断ち切れたんだ』
自分を都合のいい女として扱っていたアイツらとの縁を
そんな気がした
わたしは自分のインスタを見た
『これ、どうしよう……』
自分がインスタに登録してきたことがアイツらのあんな気持ちを助長させていたなら、これ以上続ける気になれない
『もうやめようかな……』
そう思ったけど
『今やめたら、負けた感じがして、なんかやだ』
せっかくアイツらとの縁を断ち切れたのに
『とりあえず、しばらく放置ってことにしよう』
そう決めると、わたしはスマホを机の上に置いた
「よし!それじゃお風呂入ろ。昨日は入らなかったし、今日はしっかり入らないとね♪特に今日はあの中年男とずっといたわけだし、念入りに体洗わないと!」
そしてわたしは着替えの下着とパジャマを持って、部屋を出て、一階の浴室に向かった
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