第15話
『なんとか戻れた…』
俺たちは、ごみ処理場から元いた場所に戻ってきた
『こいつのおかげだな…』
方向音痴の俺が、こいつを連れてここに戻ってこれた理由
それは隣にいる、こいつによる誘導のおかげだ
「お前、ちゃんと道覚えてたんだな」
「おじさんこそ、方向音痴のくせにあんなとこ行こうとしてたなんて。あんなこと思いついたくせに、後先のこと全然考えてなかったのね。地図見といて良かったわ」
「地図?」
俺がそう訪ねると
「おじさんがごみ処理場に連れていくって言ってきたから、わたしも近くのごみ処理場検索してみたのよ。見つけたのが、おじさんの連れていったゴミ処理場と同じで良かったわ。なんか挙動もおかしかったから、ナビの方で地図検索もしといたのよ。感謝してよね。お・じ・さ・ん」
言い返せない…
『そういえばこいつ、ごみ処理場に向かう途中スマホいじってたけど』
そういうことだったか
あれだけ偉そうなこと言っといて、これとは
「カッコ悪いね。おじさん。すごいカッコ悪い」
俺がそう思う前に言われてしまった
ああ、カッコ悪いよ。その通りだ
「カッコ悪いって言われてどう?おじさん。あの時のわたしの気持ちわかった?」
「いや、あれとこれとはまた違うし」
ドカッ
また足を蹴られた
しかし今度のは、今までと違って軽めだ
「ねぇ、おじさん」
「ん?」
「おじさんはさ、彼女にフラれた時、その人にもらったプレゼントってどうするの?やっぱあんな風に捨てるの?」
「そうだな……」
そもそも、女の人からプレゼントなんてもらったことないんだけど
「まぁ、あんたみたいなオタクで、陰キャで、気遣いゼロで、スケベで、おまけに極悪な最低中年男が、女の人にプレゼントなんてされたことないだろうけど」
ひでぇこと言うな
まぁ、女の人にプレゼントもらったことがないのは事実だ
『でも質問には答えないとな』
そう思うと、こいつの質問に
「しばらくは置いとくかな。フラれ方によるけど、とりあえずしばらくは置いとくと思う。好きになった相手からのプレゼントだしな。そして気持ちが落ち着いたら捨てる。フラれ方次第では時間がかかるかもしれないけど、そうしないと前に進めない気がするしな。そういうのはよくないだろ?相手にとっても自分にとっても」
そう答えた
恋愛経験皆無ともいえる俺が言っても説得力なんてないだろうが、俺はそう思う
『未練がましく忘れられないままじゃ、相手に迷惑なだけだしな』
そんなことを思っていると
「じゃあさ、そのフッた相手があんたのあげたプレゼントとか売ったり捨てたりしたらどう思うの?まぁ、あんたってそういうのに疎いみたいから、ろくなプレゼントあげられないだろうけど。辛いとか悲しいとか思わないわけ?」
また彼女は、そう聞いてきた
『なんでこいつ、さっきからこんなこと聞いてくるんだ?』
そういうことを考えてしまうが、まぁ仕方ない
「確かに辛いとか悲しいとかは思うだろうな。お前の言う通り、俺はそういうのに疎いから、女の人が喜ぶプレゼントとかはわからない。たぶん高価なものじゃないだろうな。でもあげた時点でそれは彼女のものだし。どうするかはあっちが決めることだ。俺が決めることじゃない」
俺はこういう奴だから、大したプレゼントはあげられない
それに高価なプレゼントをあげるのも、なんか違うと思ってる
そういうもので相手を繋ぎ止めるもんじゃない
それじゃこいつをフッたあの元カレや、こいつが付き合ってきた連中どもと変わらない
『俺が相手に求めてるのは、話が合うとか、趣味が同じとか、そういうもんじゃないんだよ』
俺が求めてるのは……
「ふーん。おじさんって、そういう考え持ってる人なんだね」
俺の答えに、こいつはそう言った
「なんかおかしいか?こういうの?」
「おかしくはないんじゃないかな?なんか話聞いてるとただ…」
「ただ?」
「あんたはきっと、相手のこと」
そして
「………………」
小さな声で何かを言った
今までのこいつのでかい声とは比べ物にならないくらいの小さな声だ
「なんだ?今なんて言ったんだお前?ちゃんと言えよ」
「な、何でもないっ!!」
頬を赤くして、こいつはそう言った
『ホントに何言ったんだ?こいつ。まぁいいけどな』
「じゃあもう帰るぞ。お互いの用事も終わったしな」
そう、こいつに言うと
「待って。おじさんのスマホ見た時、LINEアプリなかったけど、おじさんLINEとかやらないの?」
そう言ってきた
『突然、何言い出すんだこいつ?なんかさっきからおかしくないか?』
「ああ、やらないな。そういうやり取りする相手もいないし。会社内でのやり取りとかもメールとかだし
な」
LINEを取り入れようとしている会社もあるらしいが、個人情報の流出とかの問題であまり積極的じゃないらしい。俺もよくわからないけどな
「今すぐLINEアプリ入れて登録して!早く!!」
「何言ってんだお前?俺は援助交際なんか……」
「いいから!わたしだってそんなことしないって言ったでしょっ!!早く!!」
「わかったよ……」
『わけわかんないが、援助交際しようっていうもんじゃないな。とにかく言う通りにしないとダメみたいだな』
俺はポケットからスマホを取り出し、ロックを外し、PlayストアからLINEアプリを検索、インストールした
『さて、登録はっと』
今年で40のアラフォーだが、オタクだからなのか、わりとすんなりと登録できた
「登録してやったぞ。それでお前どういう…」
「貸して!!」
こいつは無理やり俺のスマホを取り上げ、いつの間にか出していた自分のスマホをカチャカチャとしていた
「はい!連絡先交換しといたわ!!受け取って」
俺は自分のスマホを受け取って、その画面を見た
「えーと、天王寺咲耶。これがフルネームか」
咲耶って名前の方は元カレとのやり取りで知ったが、名字の方は知らなかったな
『天王寺咲耶ね』
「おじさんの名前は…。木崎。木崎達也っていうんだ。ふーん」
こいつは俺の姿をじろじろ見てきた
『今さら何じろじろ見てんだ?ホントわけわかんねぇ』
「おじさん。名前負けしてない?」
「うるせぇよ」
そうだな。その通りだ
名前負けしてるよ。俺は
「で?どういうつもりなんだお前?こんなことさせて、こんなことして?援助交際ってわけじゃないのはなんとなくわかるが、ちゃんと理由を説明しろ」
俺がそう訪ねると
「さぁ?わたしもよくわかんない。援助交際っていうわけじゃないのは確かだけど……」
「お前……」
その顔だと、本当にわからないみたいだな
なんなんだ、全く
「まぁいいわ。言っとくけど、名前呼びはダメだから。わたしのことは天王寺って呼んで!ホントは名字で呼ばれるのもイヤだけど、特別に許してあげる!!あと、わたしもこれからはおじさんのことは木崎さんって呼ぶわ。いいでしょ?いいわよね?!」
「ああ、いいよ別に。好きに呼べ」
俺はこいつ、いや天王寺にそう言うと
「じゃあわたし家に帰るわ。帰ったらメッセ送るから。ああ、それから送っていくとかいいから。あともう1つ!絶対後つけてこないでよ!!」
「ああ、わかったわかった。じゃあな。天王寺」
俺がそう呼ぶと、少し照れたように
「じゃ、じゃあね。おじ、いいえ!木崎さん!!」
そう言うと、天王寺はさっさと歩いていった
『ホントなんなんだあいつ。わけわかんねぇ』
そんなことを思いながら、俺も家路につくことにした
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