第14話

「スゥハァ。スゥハァ。」

俺を引っ張ってゴミ処理場を出たこいつは、俺の前で大きく息を吸って吐いて、息を整えていた

そして周囲を見渡して、人がいないことを確認すると

「何ってことしてくれてんのよ!!!!!!!!この極悪中年男!!!!!!!!!!」

これ以上ないほど、無茶苦茶でかい声で俺に叫んできた

『難聴になりそうだな……』

そう思っていると

「あんた、わたしの話聞いてた?!わたしはね!『売る』って言ったのよ!『売る』って!!『捨てる』なんて一言だって言ってないでしょっ!?おじさん、その耳は飾り!?どんな耳してんのよ!!!」

心配するな。ちゃんと聞いてたよ

その上でのことだ

「あんたの用事に付き合ってあげたのに!!感謝の気持ちとかってないの!?あんたって、ホンットにひどい男ね!!!」

お前が勝手に言ってきたんだろ

まぁ、ひどい男だってことは認めてやる

「売ってできたお金で遊びまくるつもりだったのに!!あんたにも付き合わせてやるって言ったのに!!おじさん、昨日の今日しか会ってないわたしに、いいえ、あんた女性全般になんか恨みでもあんの!?だからあんなひどいこと言えるの?!答えなさいよ!!この超最低中年男!!!」

すごい勢いでまくし立ててくる

俺はここでようやく口を開いて

「お前、あの品物に対して思い入れだの、名残惜しいだのって言ってたな。けれど、それはそれをくれたカレシ連中に対してじゃないだろ。あの品物に対してだろ」

そう言ってやった

『それが何!?』って顔で睨み付けてきた

気にすることなく、俺は続ける

「そいつらへの未練を断ち切りたいなら、そんなやり方は断ち切るとは言わねえんだよ。お前にとっては報復、あるいは復讐みたいな感じなんだろうが、俺から言わせたらお前もある意味、そいつらと同類だよ。『こいつの好きなもん買ってやったら、ホイホイついてくる』あの元カレを含めた、今までお前が付き合ってた連中はきっとそんな風にお前のこと見てただろうな。だから一種のステータス、別れても自慢できる女って思われてたんだよ」

睨み付けるこいつの目に涙が滲んできた

まるで忘れたいことを言われたような、そんな顔になってきてる

だが、それでも俺は続ける

「自分はそんな女じゃない。あいつらとは違う。あいつらとの関係は全て断ち切る。本気でそう思ってるなら、あれくらいしろ。それとお前、こんなこと言ってたな?『自分は大きな分岐点に立ってる』って。それも俺から言わせたら間違いだ」

涙を滲ませたまま、『なっ!』という感じで、こいつは目を見開いた

「お前、俺と何かあったら『男嫌いになるしかない』って言ってたな?それってつまり、男嫌いになりたくないってことだろ。そういう選択をしてる時点で、お前は分岐点なんかに立ってねえよ。もうそういう選択を選んでるってことなんだから」

まるで図星でも突かれたかのように、今まで睨み付けていた目を反らす

『きっとこいつ自身、気づいてなかったんだろうが』

「ああ、もう一つ言うことができた」

色々喋ってるうちに、今思い浮かんできた

こいつは『まだあるの!?』って顔で、再び俺を見た

さっきよりも、涙を滲ませた目で

「お前、なんだかんだ言って俺が自分のフラれた現場を言いふらしてないか気にしてたな?それって自分も同じようなことしたことあるからじゃないか?」

これはさすがに言い過ぎたと思った

これはこいつに限らず、俺にも言えることだ

きっとたぶん、過半数の人間にも

こいつに限ったことじゃない

「何よ。何よ…」

そう呟くと、こいつの目から涙が溢れてきた

あの時と同じか

いや、同じじゃないな

『今、こいつを泣かしてるのは俺だ』

なんか申し訳ない気分になった

最後のやつは、明らかに余計なことだった

『悪いことしたな』

今日もハンカチは持ってない

それに何より、そう思いながらも優しい言葉がかけられない

不器用とも言えるだろうが、俺が自分に思うことは

『本当にひねくれ者だな、俺は』

そういう風なことだった

「そろそろ元いたところに帰るぞ。ここからじゃお互い家に帰れないしな」

泣いているこいつに、そう声をかけた

だが重大な問題がある

ごみ処理場に向かう時にもあった、重大問題

『元いた場所に帰れるか!?俺、本当は方向音痴なのに!!』

ここにたどり着いた時、俺は内心ほっとしていた

『よくたどり着けたな』と

今度は元いた場所に帰れるか

今、それが重大問題になっている

『あれだけ偉そうなこと言っといて、元いた場所に帰れませんじゃ済まされないぞ!!どうする、どうする!!』

なんとか冷静な様子を保ちながら、俺は頭の中で自問自答していた



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