第12話

「ハァ。食べた、食べた♪」

『すげぇご満悦だな…』

あれだけ不機嫌な顔してたのに、店を出た後のこいつの顔は、すげぇ満足げって顔だ

「俺の用事はこれで終わりだ。で、お前の用事ってのはなんだ?」

横にいる彼女に、そう聞いた

遅くなったが、俺はあんまり背が高い方じゃない

平均的。あるいは低い方だ

こいつの身長はだいたい俺の肩くらい

こいつの年代からしたら、こいつの身長も平均的。あるいは低い方か

『それなのにやっぱ、こいつの胸……』

『けっこうでかいな』って、思っていると

「何また、人の胸じっと見てんのよ!!このスケベ中年男!!」

ドカッ

また足を蹴ってきた

「悪い悪い。今も聞いたけどお前の用事ってなんだ?急ぐもんじゃないなら、さっさと済ませよう」

「ああ。わたしの用事っていうのはこれよ」

そう言うと彼女は、ずっと持っていた紙袋を前に出してきた

「なんだそれ?俺と会う前に買ったやつか?でもそれ見た時から思ってたけど、今日買ったやつにしてはおかしいな?もしかしてそれ、私物か?」

「まぁそうね。おじさんが見たアイツを含めた、今まで付き合ってきた男子からもらった品々よ。これを売りに行くの。それがわたしの用事」

俺の質問に、彼女はそう答えてきた

「でも他にも方法あるだろ?メルカリとかヤフオクとかに出品するとか。なんで売りに行くってことにしたんだよ?」

今の若いやつ、特にこいつみたいな年頃ならそうするだろう

俺がそう聞くと

「そうしようと思ったんだけど。なんか思い入れ?名残惜しいっていうか、そういう感じになっちゃって。なかなか踏ん切りつかないから、だったらそういうお店に直接持っていこうと思って今日出かけたの。そしたらあんたに会っちゃって…」

そういうことか

思い入れ。名残惜しいね。

分岐点のことといい、こいつは…

「そして、売ってできたそのお金で残りの時間を遊びまくる!そういう予定だったのよ。あんたと出会って少し、いえ、物凄く予定が狂ったけど。おじさん。おじさんもわたしのストレス発散に付き合わせてあげる!おじさんも自分の用事に付き合ってあげてるわたしの姿見て、『ひどいこと言ったな』って思ってるだろうし。さらにわたしがストレス発散してる姿見たら、ますますそう思うでしょ?」

あいにくだな

お前の用事聞いたら、仮にそう思ってても、すぐにそんな気持ちじゃなくなるよ。ふざけんな

「あっ!だからって変なこと要求しないでよ!!そんなことしたら、即警察に通報するから!!いいわね?!」

そんな真似するか。こっちから願い下げだ

俺はポケットからスマホを取り出し、ロックを外すと、ある場所の検索を始めた

『こういうの苦手なんだよな。色々な意味で。特に…。いや、近くにあるといいんだけどな。ホントマジで』

あいつは『何やってんの?』のって顔で俺を見ている

だが俺は気にすることなく

『あった。そんなに遠くじゃないな。だが問題は……』

いや、今は気にしないでおこう

下手に気にすると、こいつにつけこまれる

そんなことされたら、今俺が考えていることが水の泡だ

俺は怪訝そうに見ている彼女に近づき、手に持っていた紙袋を強引に取り上げた

『これから行くところに着いたら、テコでも渡さないだろうしな』

「ちょっと!何するの?!荷物持ちでもしてくれるっていうの?!」

「そんなんじゃない。ついてこい。お前の用事のせいで、こっちも余計な用事ができた」

「はぁ?!どういうこと?!やっぱあんた、わたしをいかがわしいところに連れ込んで、変なことするつもりね?!」

彼女は警察にでも通報するつもりなのか、ポケットからスマホを取り出そうとしていた

「待て。お前が考えてるようなところじゃない。売るっていう方法よりも、もっといい方法でこいつを処分できる場所だ」

俺はこいつから取り上げた紙袋を見て、そう言った

「どこよ、そこ?!いかがわしいところじゃないなら言いなさいよ!!」

「ごみ処理場」

「はぁ?!」



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