第11話
「何…ここ」
『予想通りの反応だな』
俺とこいつが立っているのは、ラーメン屋の前
『想像してなかった』って顔で、店を見ている
「ねぇおじさん。お昼ごはんって、ここで食べるの?!」
「ああ、そうだよ」
俺がそう言うと、キッと睨み付けてきた
「ふざけないでよ!何考えてんの?!仮にも女の子と一緒にごはん食べるのよ?!よりによって、ラーメン屋って。もっとマシなの考えつかないの?!」
「ああ、俺は昼飯はラーメン食べるって決めてるからな」
しれっと、悪びれることなくそう言った
「あんた1人の時ならいいわよ!!でも今は女の子と一緒なのよ?!わかってんの?!」
「いや、元々そういう予定だったし。だいたいお前、勝手についてきてるようなもんだろ」
ドカッ
俺の足を蹴り飛ばすと
「元々の予定でも、わたしがついてくるって時点でそういうところの予定は変えなさいよ!!この気遣いなし中年男!!!」
怒りを噛みしめながら、そう言ってきた
「じゃあ、ここで別れるか?俺はむしろそっちの方がいい」
こいつがついてくるなんて、いや、こいつにまた会ったって時点で予定が狂ってるからな。こっちは
「入るわよ…」
「んっ?」
「入るわよ!!こっちはあんたとまた会ったって時点で予定狂っちゃってるんだから!!!これであんたにあの時の謝罪させられなかったら、それこそせっかくの休日が台無しになるわ!!でもわかってるわね、おじさん!!ここのお金も…」
「わかってるよ。お前の分も出す」
「当たり前よ!この一生非モテ中年男!!」
「ハイハイ」
俺はそう言いながら、こいつと店に入った
店に入り、食券を二枚買った
醤油ラーメン2つ
こいつはラーメンなんか食べたことだろうから、まぁ妥当か
二人とも席に座り、コップを運んで来た店員に食券を渡した
席に座ってからも、こいつの顔は不機嫌なままだ
『最低でもファミレスとかだって想像してたんだろうな、こいつ』
ちょっと悪いことしたかなって、不意に思った
『いや待て。なんでそんなこと思った?こんな奴にそんなこと思う必要ないだろ』
気遣いなし
まぁ一理あるな
俺って、そんな配慮できないからな
そういうことを思っていると、頼んでいた醤油ラーメンが運ばれてきた
コトン。コトン
二人それぞれの前に、醤油ラーメンが置かれた
「いただきます」
そう言うと俺は箸を取り、麺を口にした
「いただきます…」
彼女も、ポツリとした声でそう言って箸を取り、麺を口にした
スルスル
「どうだ?美味いだろ?」
「おじさんが独身の彼女無しの理由がまた1つわかったわ」
彼女はラーメンを食べていた手を止めて、そう言うと
「あんた。女の子、いえ、女性に対する気遣いってものが全くないわ。そうしようっていう姿勢すら感じない。女の人がどうしたら喜ぶのかって考えようとかしないの?そういうところに考えを回そうって気はない?!」
「んー、そうだな」
俺もラーメンを食べる手を一旦止めると
「どうも俺は人に合わせるっていうのが苦手っていうかな。なんかこう、どうも違うなって感じがするんだよ」
そう言うと俺は再びスルスルとラーメンを口にした
「何それ?ワケわかんない。その相手に合わせようとするのは当たり前のことでしょ?これだからオタクで陰キャな人は」
彼女はそう答えてきた
確かにそれが当たり前なのだろう
正しいことなのだろう
だが俺は
「でもな、相手のことちゃんと思ってるなら、そういうの考えたりしないと思うんだよな。なんていうの?そうして相手と付き合っていくと、自分っていうのが失くなっていくっていうか。その相手好みの人間として生きていかなきゃいけなくなる気がするんだよ」
俺は再び箸を止め、彼女に言った
さらに
「そういうのって嫌じゃないか?本音と建前っていうのは大事だけど、相手に合わせながら生きていくと建前だけになって、本音の部分が無くなる。それって自分が自分じゃなくなるのと同じ気がするんだよ」
ラーメンをすすりながら、彼女は静かに聞いていた
『今までやかましかった分、静かにされると変に感じるな』
そんなことを思いながらも、俺は続ける
「俺にとって相手に合わせるってことは、その相手好みの人間として生きるってことなんだよ。まぁ仕事関係とか、そういうのだったらそこまでのものにならないけどな。でも友人関係とか恋人関係、夫婦関係とかだったら、そういうのが少しでも崩れたら全部ダメになって、もうどうしようもなくなっちまうんだよ」
なんかすげぇ偉そうな言ってるな俺
自分でも何言ってるのかわからなくなってきてる
「だからって、趣味が同じだとか話が合うとか、そういう関係もダメだと思ってるけどな。俺は」
これに関しては、俺の明確な持論だ
それで上手くいったら、どんなにいいか
ある意味、相手に合わせるってことよりも危険なんだよな
「よくわかんない。ていうかおじさん、自分でもよくわかんないんでしょ?趣味が同じだったり話が合うんだったら、相手に合わせやすいんじゃないの?なんでそういうのがダメなの?そういうのだったら、おじさんにだって彼女できるんじゃない?」
『そういう単純なもんじゃないんだよ』
そう思いながら、彼女の質問に答えず、俺は再びラーメンを口にすすった
「まぁいいわ」
そう言って彼女も再びラーメンを口にすすった
でもさっきの話と全然関係なくなるけど
『お前、自分で気づいてるか?』
不機嫌な顔してたのに、お前
『すっげぇ美味そうに食ってるぞ』
なんか『こんな美味しいの食べたことない』って感じで
ホントよくわかんないな。今時の女子は…
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