第3話

『すげ~睨まれてる。当然といえば当然だけど…』

隠れてる時はよくわからなかったが、髪はやっぱ茶髪か

髪の長さはセミロングくらい

服装はかなりラフだな

慌てて飛び出してきたって感じだな

「何ジロジロ見てるの?おじさん」

ヤバい!つい観察めいたことしてしまった

声の様子からしてかなり怒ってるな

怒りで声が震えてる

『ヤバい!相当ヤバい。この状況』

「全部見てたの?聞いてたの?そこで隠れてずっと」

ホントヤバいな。キレる寸前だよ、これは

「いや隠れてはいたけど見たくて見たわけじゃなくて、聞きたくて聞きたかったわけでもなくて。ここ帰り道だったから偶然そうなっただけで」

こんな修羅場に遭遇するなんてベタな展開、誰も想像できないっての

「そこで面白がってたんでしょ?そこでどうなるのかって楽しんでたんでしょ?」

いや、俺そんな趣味ないから

むしろ勘弁してくれって思ってたくらいだし

「面白かったでしょ?!楽しかったでしょ?!彼氏に浮気されて捨てられる惨めな女の子の姿見れてさ!!」

さっきまで我慢してたものを吐き出すかのように叫んできた

目からもすごい涙が流れてきてる

相当ショックだったんだろうな

「友達からLINEで彼氏が浮気してるって連絡きて、証拠の写真あるからってそれ送ってもらって!そのあと浩介呼び出して、慌ててここに来て問い詰めたらこれよ!その上そんなところ人に見られて聞かれてたなんて!最悪よ!!」

浩介?

ああ、あのカレシ、いやもう元カレか

確かに最悪といえば最悪だな

「どうせ言いふらすんでしょ?!女の子が彼氏に捨てられるとこ見たってさ!!友達に?会社の人に?それとも家族に?さっきから黙ってないで何か言いなさいよ!!」

このままじゃ埒があかないな

「いや、とりあえず少し落ち着こう。別に俺、誰にも言うつもりないし」

こんなの話したって何も面白いことないし

ていうか、初対面の人間に何言ってんだこの子?

「ホントでしょうね?」

「そもそもそんなことして何になるの?初対面だよ?俺たち」

「でもこんなカッコ悪いところ見られたらそう思うじゃない」

こういう時ラブコメや恋愛モノなら優しい言葉かけるんだろうけど

「まぁそうだな。カッコ悪いな。すげぇカッコ悪い」

こんな言葉が口に出てしまう

ひねくれ者だな、俺は

「な、何ですって?!」

優しい言葉を期待してたのか

そんな言葉が返ってくるとは思ってなかったみたいに言ってきた

「あんたこそ初対面の、しかもフラれて泣いてる女の子に優しい言葉かけられないの?信じらんない!」

まぁそうだろうな

他のやつならあの男が全面的に悪いって言うだろうな

でも俺は違う

「なんとなくだけど君がフラれたのって1割くらい自業自得な気がするんだよな。ホントなんとなくだけど」

「なっ!!どういうことよそれ!!なんとなくで決めつけないでよ!!」

「なんか会話聞いてたら、君、男子にモテてちやほやされていい気になってたんじゃないかって気がするんだよね。あいつも言ってたじゃん。君と付き合うのは一種のステータスで別れても自慢できるって。そんな風だったからそういう扱いにされてたんじゃないか?」

俺のその言葉を聞いて、だんだん彼女の顔が上気してきた

今まで泣いてたのが嘘みたいに涙が引いてきてる

『カレシの時より怒ってないか?おい』

「うるさい!!あんたみたいなおじさんに一体女の子の何が分かるのよ!!最悪の上にさらに最低が加わってきた気分だわ!!もうやだホント!!」

そう言うと彼女は腕の袖で涙を拭きだした

『引いてきたとはいえ、まだ涙残ってるもんな』

涙を拭き終わるとキッと俺を睨みつけて

「いい?おじさん!今夜のことは絶対誰にも言わないでよ!この最低中年男!!」

「だから誰にも言わないって。しつこいぞ。それに何だよ、その最低中年男って」

「泣いてる女の子にハンカチも出さない上に優しい言葉もかけられない奴には当然の呼び名よ!」

ああ、でも俺ハンカチ持ってないし

それ以上に優しい言葉をかけられないっていうのは的を言ってるな

反論の余地がない

「じゃあね!わたし家に帰るわ!あんたとは浩介とは別の意味でもう会いたくないわ!」

俺の前をタッタッタと歩きだして、姿が見えなくなると思った瞬間

「後つけないでよ!つけてきたら警察呼ぶから!!」

振り返って、そういい放つとまたタッタッタと歩きだした

「やれやれ。やっと行ったか」

姿が見えなくなったのを確認すると、ようやく解放された気分になった

「ホント何なんだよ今日は」

ただ俺はまだこの時、あの咲耶と呼ばれていた少女との出会いが俺にとって大きな変化をもたらすことになるとは思っても見なかった



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る