第8話 水野家へ

 「透、しばらく海外転勤になったんだけど、どうする」

 

 ある日両親に呼び出されてそう聞かれる。


 高校2年に上がった4月の頃だった。



 

 「本当だったら連れていきたいけど、大学受験とかあるからなあ…」

 「俺…このまま一人暮らしでもいいよ」 

 オレは言った。

 海外なんて行く気はなかったし、一人暮らしでもきっと平気だろう。

 「でも一人って…大丈夫か?」

 大丈夫も何も一人で生きてきたのだ。

 今更何を淋しがるようなことがあるだろう。


 「それかいっそのこと一緒に来るか?大学だって海外目指すのもありだぞ。」

 とうとうそんなことを言い出した。

 「…せっかくだけど…。大丈夫だよ。学校行けば真実たちだっているし。」


 プール事件の事があってから泉の評判は鰻登りだ。

 良くできた娘さんだと両親は絶賛している。

 

 「まあ、水野さんとこの子たちがいればなあ。真実君も泉ちゃんもしっかりしてて可愛いしなあ。」


 「って、っそういえば水野さんのところ長期出張じゃなかったっけ?」


 そう言いながら母がどこかに電話を掛けだす。

 真実達…引っ越すなんて…言ってなかったよな…。

 …もし二人がいなくなるなんてことになったら嫌だな…。


 「えっ、ホントに。うん。じゃあ、頼んじゃおうかしら…」

 母が誰かと話している。

 「うん。じゃあ、よろしくね。」

 母が電話を切る。


 「透、来月から水野さんちに行きなさい。」

 母がにこにこしている。

 「…?!」

 「水野さんちも来月から子供たち二人残して出張みたいなの。まあ子供だけで残すのもなんだからってお手伝いさん週に何回か呼ぶみたいだけど。それで透も一緒にどうかって。」

 「へっ?!」

 

 ★

 

 両親は水野夫妻と学生時代からの付き合いがあり、今でも親友のようだ。

 泉達の両親は海外ではないものの来月からしばらく出張で家を空けるらしい。

 それで子供二人残すのも三人で残すのも大差ないので三人纏めて一緒に残そうということになったようだ。

 …いくら真実がいるからとはいえ年頃の男女を同じ屋根の下で暮らさせるなんて…。

 

 「大丈夫。透の事信用してるから」

 「何だったら泉を嫁に…」 

 「もういっそこのままうちの子に…」

 

 などいろいろな言葉を貰う。

 かくして水野家と青海家の親たちは無事旅立っていった。

 オレは身の回り一式とともに水野家に送り込まれたのだった。


 ★


 

 「青海君の部屋は真実の隣ね。」


 泉が家を案内してくれる。

 真実の部屋の前が泉の部屋。

 真実の部屋の隣が透の部屋になった。

 

 「ご飯は何でもよければ…私作るけど…どうする?」


 「…あ、俺もどうせ帰宅部だからやるよ。1人になった時の為にも覚えたいし、よかったら教えて?」


 「じゃあ、俺は部活あって早く帰れないから片付けで。」


 役割分担を決める。

 なんだか少し楽しくなってきた。

 

 「あ、今度三人でお揃いのカップでも買いに行こうか。」

 泉が楽しそうに言った。

 「俺忙しいからお前ら二人で行って来いよ」

 真実が少し面倒そうに言う。

 「あ、オレ暇だから付き合うよ」

 泉にそう言うと嬉しそうに笑ってくれた。


 どうやらうまく暮らしていけそうだと思った。

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