第9話夏の夕立

 「青海君何か食べれない物とかある?」


 放課後泉に聞かれる。

 「ん、特にないよ。何でもヘイキ!」

 今日は泉の料理当番の日か…。

 「帰り何か買い物するんなら一緒に行こう。荷物持つよ。」

 そう言い一緒に行くことにする。

 

 二人であれやこれやと買い物を済ませ店を出る。

 

 ちょっと急いで帰ろうか…。

 空を見上げる。

 さっきまで晴れていたのに…西の空から真っ黒な夕立雲が近づいていた。

 「俺荷物持つから、行こう!!」

 急いで家に向かった。

 

 

 家までもう少し…というところでザーッと雨が降ってきた。

 大粒の雨は一気に二人を濡らしていく。

 「水野さん、あとちょっと!頑張って!」

 泉の手を取り引っ張る。


 ★


 家に帰りつく。

 二人はずぶ濡れだった。

 「水野さんこのまま風呂入ってきな。オレタオル持ってきとくから」

 「えっ…青海君こそ…」

 「いいから、ほら!!」

 泉を風呂に行かせタオルを取りに行く。

 

 自分の部屋に行き濡れた服を着替える。

 濡れた服を脱ぐと寒さがマシになったが髪が濡れていて寒い。

 早く風呂入らないと…。

 タオルを持ち風呂に向かう。

 「水野さん、タオル置くよ」

 浴室に向かって声を掛けた瞬間真っ暗になった。

 稲光が走った。

 ドドドドドドーン!!

 …少し遅れて激しい雷の音が響く。


 「きゃああっ!!」

 風呂場に響く泉の声。

 「水野さん!!大丈夫か!?」

 真っ暗の中声を掛ける。

 「う…うん…」

 …泉…雷苦手なのか…


 再び雷が鳴る。

 さっきより近いのか地面がビリビリ震える。

 「っつ!!」

 泉の声が漏れる。

 

 ちょうど雷雲の真っただ中なのかしばらく激しい雷音が響く。

 そんなに雷が苦手ではないオレでさえ少し恐怖を覚えるほどだった。

 

 風呂場からかすかに泉のすすり泣くような声が聞こえた。

 もう放って置けない。

 どうせ真っ暗で何も見えない。

 「水野さん、ゴメン入るよ…。」

 …これが原因で泉に嫌われても…このまま放っておくよりいい。 

 手探りで浴室のドアを開ける。

 

 …真っ暗だ。

 「水野さん…?」

 一瞬窓から光が入ってくる。

 そして再び雷が鳴る。

 しゃがみこんでいる泉の背中が見えた。

 「!!」

 

 

 持っていたタオルで泉を包む。

 「水野さん、出よう…」 

 手を引き風呂から出る。

 

 リビングまで行きソファーに座らせた。

 リビングの窓から青白い強烈な光が入ってくる。

 再び激しい雷。

 …どこかに落ちたんだろうか…。

 「いやっ!!」

 泉が抱き着いてきた。

 透の胸に頭を押し付けてくる。

 「…!!水野さ…」

 

 濡れた肩に触れる。

 ドキリとするほどしっとりした肌の感触…。

 濡れた髪に腕に押し付けられた胸の感触…。

 全身の血液が沸騰しそうだった…。

 全身の神経が胸を押し付けられている腕に集中する。

 ……。

 

 「水野…さん…」

 何とか泉の胸を離す。

 …これは非常にマズイ。

 

 クシュン!

 泉がくしゃみをする。

 はっと我に返る。

 泉の胸を気にかけている場合じゃない。

 このままだと風邪を引かせる。

 

 「水野さん…風邪ひくから…。」

 持っていたタオルで泉の背中と肩を拭いた。

 髪の毛も…そっと拭いた。


 大体こんなところか…。

 抱きついたまま静かに震えている泉。

 ソファーに置いてあった毛布を頭から泉に掛ける。


 毛布で光と音が多少遮れたのか気づいたら泉は眠ってしまっていた。

 急激に寒さを感じた。

 慌てて頭を拭くと少しマシにはなるが…。

 

 泉がくっついている所は暖かい…。

 泉と触れている所から温もりが広がっていくようだった。


 ★


 「透、透起きろって…」

 真実に揺り起こされる。

 「ん…真実…」

 

 部屋は電気が点いている。

 胸の辺りに暖かさと重みを感じて見る。

 「…水野さん…」

 タオル一枚のほぼ半裸の泉がオレに抱き着いたまま眠っている。

 「あ…これは…」

 「泉、泉も!お前ら風邪引くぞ!」

 真実に起こされ目を擦りながら泉が起きる。

 「青海君…」

 はらりとタオルが解け落ちる。

 「!!!!」

 目の前に泉の白いおっ 


 「ほら泉、透に見せてないでいいから服着ろ!」 

 真実にそう言われタオルが落ちたのに気づく泉。

 状況を思い出したのか真っ赤になりながらタオルで体を隠しながら走り去る泉…。

 …。

 …。

 何も考えられない。

 脳がしびれるような…。

 目の前に広がった景色を脳裏に強制的に焼き付けられる。


 「…透…大丈夫か?…鼻血出てる…」

 「あ…ああ…」


 

  

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