第6話 プール清掃で転んだら

 梅雨の終わり、夏の初めに学校行事でプール清掃が入っていた。

 オレたちは水を抜いたばかりのプールの底をブラシで擦り汚れを落とす。


 「しかし…熱いな…。」

 

 空を見上げる。

 眩しい太陽が照り付けている。

 蒸し暑くて少し動いただけで汗だくだ。

 

 「水野さん、あんまり無理しないでちょっと休憩した方がいいよ」

 

 斜め後ろで掃除している泉を見る。

 

 「もう少しやってからにする」

 

 泉も汗だくだ。

 真実が水を持って来てくれる。


 「二人とも水分摂れ」


 三人で並んで水を飲む。


 周りできゃあーきゃー騒ぐ女の子達とさぼっている男子たち。

 真面目に掃除している生徒が大半だが…。


 「おい、お前ら終わらないと帰さないからな!!」

 

 真実が怒鳴ると女の子たちが喜びだす。

 

 「帰りたくなーいっ!!水野クンとお泊りコースでっ!!」


 そう言われ真実がげんなりしている。


 「……」


 「…やるか…」

 

 「うん…」


 とにかくやらなければ終わらない。終わらなければ帰れない。


 まあ、もう少しだし・・・。


 

 ★


 もう少しで終わろうというとき、先ほどの女の子の集団が周りで騒ぎだす。


 「おい、ほんとに!」

 

 真実が怒鳴りかける


 危ないな…何となく立ち上がった瞬間に女の子が滑り泉にぶつかる。

 

 「!!」

 

 女の子にぶつかられた泉が体勢を崩してオレの方に倒れこんでくる。

 華麗に泉を抱きとめてやりたかったが掃除途中のプールに足元を掬われて思いっきり転んだ。

 転んだ拍子に後頭部を打ったようでしばらく起き上がれない。


 「おいっ!透!」

 

 真実と泣きそうな顔で泉が顔を覗き込んでいる。

 「水野さん‥大丈夫?」

 「私は大丈夫‥それより青海君が‥」 

 泉が無事ならよかった。

 

 体に力を入れようとするが動けなかった。

 「んん…ちょっと…待って…」

 起きあがろうとするのを真実に止められる。

 「動かない方がいい。」

 

 しばらく休んでいると楽になったのでゆっくり起き上がる。

 泉が起きるのに手を貸してくれる。

 「お前らもう帰れ。透、念のため病院行けよ!泉、付いていけ。」


 真実にタオルを渡される。

 泉だって濡れてしまって下着が透けてしまっている。


 「え、オレより水野さんに…」


 そう言い泉にタオルを掛けようとしたら泉がタオルを取りオレの肩に掛け巻き付けた。

 「水野さん?」

 泉は首を振る。

 「使って…透けてる…。」

 「あ…」

 

 自分の体を見る。

 倒れた拍子腹の辺りまでシャツが捲れあがっている。

 更に濡れたせいで上半身全体が透けていた。

 いつもだったら下にTシャツなり着ているのだが…。

 体に残った火傷の後がなかなか消えずに未だに残っている。

 …見られちゃったか…。

 

 更衣室で着替える。

 泉も着替えて待ってくれていた。

 

 …気まづい…。

 さっきの反応からするときっと泉はこの体の跡を見ているはずだ。

 何と行ったらいいか…。

 

 泉に付き添われ病院へ行く。

 念のため検査をするが何ともなかった。

 大丈夫だからもういいよ、と言ったが泉は家までついてきた。

 

 家には誰もいない。

 お礼を言って泉と別れようとしたが

 「頭をうったばかりなのに一人でいない方がいいよ。検査は何ともなくても何かあったら怖いから」

 そう言って心配してくれる…。

 


 泉を家に上げてソファに座る。

 泉は体に付いた跡について何も聞いてこない。

 「水野さん、さっきはありがとう…その…オレの…見た?」

 恐る恐る聞く。

 「…。見たかな…」

 泉は困った様な表情をした。

 「そっか…何も聞いてこないけど…もしかして知ってた?」

 「そんなに詳しくは…。」

 

 沈黙が続く。

 「真実も知ってるみたいだけど、どうしてって聞いてもいい?」

 泉にそう聞くと話してくれた。


 

 オレの本当の両親はすでにいないこと。

 オレを引き取った人たちはきちんと育てなかったこと。

 それどころかオレを虐待していたこと。

 そのせいで生きづらくなってしまった事…。


 言葉を選びながら言う泉。

 「一番最初に透に会う時にお父さんから聞かされたの。」

 「…だからオレとずっと一緒に居てくれたの?」

 泉を見つめる。

 「真実は透の事嬉しそうに話してくれてたから多分言われたから一緒にいたわけじゃないと思うよ」

 「じゃあ、水野さんは?」

 泉は微笑んだ。

 「私は最初はそうだったけど。今は一緒に居たいからいるだけだよ。」

 

 「ねえ、嫌だったらいいけど、見せてもらってもいい?」

 泉に言われ服を脱ぐ。

 首筋から腰にかけて付いた火傷や痣。

 「酷い…。」

 泉は何とも言えない泣き出しそうな顔をする。

 「痛いところとかない?」

 「うん。傷も少しずつ薄くなってる。でも火傷の跡は残るだろうって…。」

 泉のひんやりとした手が背中に触れる。

 「そっか…しんどかったね…。」

 そう言いながら背中に抱き着いてくる。

 「!!」

 

 そうしていると気づいたら勝手に涙が出てしまう。

 「…っつ…」

 泣いてしまう。

 泉はオレの背中から離れ向き合う。

 オレをソファーに座らせると抱きしめてくれた。

 「絶対…幸せになろうね…。」

 

 

 落ち着くまで泉は抱きしめてくれていた。

 「おちついた?」

 泉は顔を覗き込んでくる。

 「うん…。ありがとう…。」

 そう言いながらも泉の胸に顔をくっつけている。

 「…?青海君?」

 「あ…いや…何とも離れがたいなって…。」

 

 泉は着替えた時にさすがに下着の換えまでは持っていなかったようで…。

 「女の子のおっぱいってこんなに柔らかいんだな…。」

 

 真っ赤になった泉に怒られた。

 

 

 

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