第4話 泉、呼び出される


 泉はとても優しい子だ。


 何かあるとそっと助けてくれる。

 

 余り近寄りすぎず、かと言って放っておくわけでもない。



 人間関係で困っていたオレには心地いい距離感で接してくれる泉。


 泉と過ごす時間は自然と多くなった。





 「最近お前ら一緒にいる事多いんだな」


 真実が言った。

 最近は放課後図書館に行って泉と本を読んだり勉強したりしていた。


 「そういえば‥そうだね。」

 泉が笑う。

 真実はそれ以上何も聞かなかった。

 「変かな‥?」

 そう聞くと二人とも笑って言った。

 「変じゃないよ。」



 

 


 しかしオレと付き合っているという噂は泉にとって良くなかったようだ。


 泉に声をかけるヤツの全てが決していいヤツばかりではなく‥。


 

 男女別の体育の授業から戻ると泉が一人の男子に声をかけられていた。

 泉が困った顔をしていたので近寄る。

 「水野さんどうかした?」

 そう泉に声をかけると男子生徒は去って行った。

 泉はオレの顔を見ると少し安心したようだ。

 「放課後、呼び出されただけだから大丈夫。」

 泉はそう言って笑う。


 泉は休憩時間泉は真実のところに行ってくると言って出かけて行った。


 休憩が終わる直前泉は帰って来るが放課後まで何か考え事をしていたようでぼんやりとしていた。




 放課後、一緒に行くというオレを押し留めて泉は呼びだされた場所に一人で行ってしまった。


 先に帰る気分になれずに泉が戻るのを待っていると真実が教室に入ってきた。

 

 「泉は?!もう行ったのか?」

 うなづくと真実は慌てたように飛び出していった。


 ただ事ではないと思い真実の後を追う。


 真実は体育館の裏まで一気に走り、裏の空き地に誰もいない事を確認する。

 

 泉はどこに‥。


 他の場所を探そうと踵を返した瞬間すぐ脇の体育倉庫から物が倒れたような音がした。


 真実は扉に走り寄りドアを開け放つ。


 「いずみっ!」


 泉がマットの上に押し倒されていてその上に男子生徒が跨っていた。


 「おまえっ!」


 真実が男子生徒に飛びかかり泉から引き離した。


 そのまま何度も殴りつける。


 泉に駆け寄る。


 制服の上着を破かれ下着を露わにされている。

  

 オレに気づくと泉は涙を拭きながら身体を隠すように衣類をかきあわせた。


 「水野さん…。」


 着ていた制服の上着を泉に掛ける。


 「だいじょうぶか?‥」


 声をかけて泉の頬が赤く腫れて唇が少し切れているのに気づく。


 それを見た瞬間自分の中でプチンと何かが弾けた。


 


 気づいた時には顔を血塗れにしている男子生徒とオレを止めようとする真実。

 泣きながら腰にしがみつく泉の姿があった。


 はっとして男子生徒を掴んでいた手を離す。




 

 自分は、同じことをしていたのだ。


 数年前にオレを殴りつけ踏みつけにした大人達と同じことをしていた‥。


 

 

 吐き気がする‥。

 

 そうやって育てられた人間はやはりそうなるのか‥。


 ‥こんな自分は生きていく価値なんてない。


 


 誰かが騒ぎを聞きつけたのか、人が集まってくる。


 ああ、吐き気が止まらない‥。


 気分が悪くなり視界がぼやけていく…。





 



 

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