第2話

 俺の本当の両親はもう生きてはいない。

 幼いころに事故で死んだのだと二番目に引き取ってくれた人たちに聞かされた。

 本当の両親の記憶はなかった。

 幼いころの記憶はほとんどない。


 覚えているのは小学生位からだろうか。

 俺を最初に引き取った人たちは俺が邪魔だったのか冷たく当たられた記憶しかない。

 最低限の環境と躾という名の暴力。

 当時の俺は自分が悪いことをしたから殴られるのだと思っていた。

 自分が嫌われているから食事を貰えないんだと思っていた。

 

 朝早くから家の仕事を任され、学校から帰ればまた仕事。

 失敗すれば容赦なく殴られた。

 

 学校で友達ができたこともなく、いつも腹を空かせ、毎日がただひたすら辛かった。

 

 唯一の救いは時々透の世話を焼いてくれるお姉さんの存在だった。

 彼らの目を盗んで透に食べ物をくれたり、話しかけてくれていた。


 なぜこの人たちは自分を引き取ったのだろう…。

 

 理由は後から判明する。

 彼らはオレの両親の保険金目当てだったようだ。

 オレが受け取るはずの保険金をすっかり使い切った彼ら。

 しかし金遣いの荒さは治るはずもなく、莫大な借金を残して蒸発したのだった。


 学校から帰ると家はがらんどうでいつ運び出したのか、家具や貴重品は一切残されていなかった。

 

 オレを待っていたのは何人もの借金取り達だった。

 しかし彼らは最初こそ彼らの居場所を聞き出そうとしていたが、オレが置いて行かれたのだと知るとすっかり興味を失ったようだった。


 

 恐らく隣の部屋のお姉さんが児童相談所に相談したのだろう。

 一人でがらんどうの部屋にいたところに相談所の人が来て保護された。


 保護施設で過ごした記憶はあまりない。

 色々なことに何も感じなくなっていたようだ。

 


 ★



 ある時一組の男女がオレに面会に訪れた。

 二人はオレの顔を見るなり涙を流す。

 どこか懐かしい感じの女の人に抱きしめられた。

 

 何もわからず立ち尽くすオレに帰ろうと声を掛けてくれたのは男の人だった。



 その人たちはオレの両親の親戚だと言った。

 

 その人たちの家に連れて帰られる。


 

 その日からオレは覚えることばかりだった。

 まず普通の生活を送ること。

 その家に行くなり男の人と風呂に入れられ体の洗い方を教わる。

 服を脱いだオレを見るなり男の人は涙を流す。

 長年殴られたりしていたためオレの体は痣だらけだった。

 よく頑張ったなと抱きしめられる。

 その後は髪の洗い方や体を洗うことを教えられた。


 そんな風に普通の生活を送ることを教えてもらう日々が続いた。

 何とか周りの人と同じように生活ができるようになるのに半年ほどかかった。

 オレは時々失敗したが怒られることは無かった。


 ここは安心して暮らせる場所だ。

 そう思えたときはすでに中学生になっていた。


 中二になって進路を決めなくてはならなくなったが今までそんなことを考えたことのなかった透。

 ただ、一人で生きていけるように働きたいと言った。

 

 そう言った時の二人の顔を今でも忘れることができない。


 そんな彼ら…戸籍上ではすでに養子になっているので親と呼ぶことにする。両親はオレに言った。


 本当はもっと早く引き取りたかったが攫うように引き取られてしまい行き先がわからなくなってしまった事、今まで苦労させたので学校くらいはきちんと行かせたいと思っていること。オレの母親と今の母は姉妹であり、オレとも一応血がつながっているので遠慮しないでほしいと言われた。



 …そう言われてもどうしたらいいか分からなかったし進路だって希望も何もなかった。

 そう両親にいうとしばらく二人とも考え込んでいた。

 




 

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