エミリ

三題噺トレーニング

エミリ

エミリのことがずっと気になっていた。

クラスの窓際の席で、授業中も休み時間もただただずっと座っている彼女。

本当に何もしていないのだ。

本も読まず、ただ座っている。

肌は病的に蒼白。というか実際病気らしい。

でも私はエミリの白い、蒼い肌が気になった。


どうしてそんなにも蒼いの?

意を決して私が尋ねると、表情も変えずに「血がないから」と答えた。

曰く、エミリの血液は一般的な人の7割くらいしかなくて、常に重い貧血状態なんだとか。

だから彼女は動かない。すぐに酸素が不足して動けなくなってしまうのだ。


「だからあんまり話しかけないで。嬉しくって心拍数が上がってリアルに死ぬ」

こいつおもろいやつやんけ。


私は二限目の休み時間に10分だけ、エミリと一緒にいることにした。

と言っても何か話すわけでもない。

エミリがボーっとしてて、私はスマホをいじってる。

というのも、一度私が渾身のモノマネ(英語のハタナカ)を披露したところ、爆笑したエミリが酸欠でぶっ倒れて運ばれていってしまった。

それ以来大人しくしている。


エミリの肌にあざが目立つようになってきた。

首筋に、手首に、足に。

「血が足りなくて血管も雑魚」

エミリの弁である。

私はエミリの前で何食わぬ顔で「血液内科」だの「血管 あざ」だのググりながら、へー、とか返事をした。

危なく泣くところだった。


エミリの入院が決まった。

その前日も私は10分だけ、エミリと一緒にいた。

「お見舞いとか大丈夫だから」

「なに、寂しくないの」

「嬉しくなって心拍数上がってリアルに死ぬ」

へへ、とエミリが笑って、私もへへ、と笑うと、エミリが言う。

「どうしてそんなにも赤いの?」

悲しくて、涙が出そうで、血が顔に集まって、赤いんだよ。

「ちゃんと帰ってきてよ馬鹿」

私の声を聞いて、エミリは力なく、でも優しく笑った。

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エミリ 三題噺トレーニング @sandai-training

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