第30話 おかげ横丁

 「あったよ、透あそこだ」

 泉は嬉しそうに手を引く。

 「泉、そんなに急がないでも大丈夫だよ」

 

 お昼ご飯に伊勢うどんと手こね寿司の両方を食べてしまったのでお腹が重い。

 同じ物を食べたはずなのに泉はそんな様子もなく元気だ。


 「ここだけ見たら少し休もうか。透は車の運転もあるし疲れたでしょ。川のそばに座れそうな場所あったよ」

 泉はそう言いながら顔を覗きこんでくる。

 心配そうな泉の顔……

 せっかく泉も楽しんでることだし少し無理をしてでも……

 「休憩はもう少ししたらでもいいよ。行こうか」


 


 おはらい町は観光地らしい作りで、一本の大きな通りと、無数の横道で作られている。

 川の流れに並行する様に作られた通りにはお土産やさんや食事処、甘味処などが所狭しと並んでいる賑やかな通りである。


 大きな通りを道なりに歩き、大きな招き猫の置かれた横道に入る。


 向かいには川を渡る橋もあったが反対側に向かって歩いて行った。


 

 沢山の観光客と一定の距離を保ちながら目的の場所へ向かう。


 途中で気になるお店を覗いたり、楽しい散策だ。


 おかげ横丁にある招き猫の売っているお店に入る。


 「すっごいかわいいっ!たくさんあるねっ★」

 泉が興奮気味に店の中を見回す。

 

 泉が興奮するのは当然だ。

 店内あちこち猫だらけ、猫の置物やら絵画、キーホルダーにお面やら手拭いまで……ぐるっと猫だらけである。


 「すごい……猫屋敷だ」

 2人でゆっくり店の中を見てまわる。

 

 小さな手のひらサイズの置物から少し大きな置き物を眺めていたらすずしろに似ている置物を見つけた。


 もしもすずしろがもし猫又という妖怪になったらこんな感じなのではないのかと思う。


 二本足で立ち、右手を招くように上げたその置物はなんとも可愛らしい表情をしていた。

  

 「透、それ気に入ったの?」

 泉が楽しげに話しかけてくる。

 「うん、なんだかすずしろに似てて、これ買ってもいい?」

 泉はその置物をそっと指先で撫でる。

 「いいよ。でも少し高いから私が買ってあげようか?」

 泉に言われて値札をみる。

 なるほど、結構なお値段である。

 「本当だ、でもこれだけの作りならこれぐらいするだろうな。……もう少し考えようかな……」

 そう言って諦めようとしたら泉がおもむろにその置物を持ちレジへと向かった。

 「あっ、泉っ!?」

 止める間も無く支払いを済ませて戻ってきた。

 「欲しいんでしょ?これ私からのプレゼント。いつも透頑張ってくれてるから……ねっ?」

 「あ、ありがとう……」

 少し情けない気持ちになってしまうがでも諦めずに済んでホッとした。


 「透がものを欲しがるなんて珍しいからいいよ。それに私もそれが欲しくなったの。玄関に置いて毎日一緒に眺めようっ★」

 泉は嬉しそうに微笑む。


 

 その後もお茶屋さんに入って伊勢名物のお餅を食べたり、お土産屋さんでお土産を買った。




 「透、膝枕してあげるから少し眠ったら?」

 川べりの桜の木の下に2人で座る。

 「大丈夫だよ、泉だって疲れて……」

 そう言いかけたが泉に引っ張られて寝かされる。

 「いいからっ、ねっ?」

 

 ありがたく泉の膝を借りて横になるとそっと頭を撫でられた。


 緩やかな川の流れと舞い降りてくる桜の花びら……


 ご飯を食べた後なだけあってあっという間に眠くなる。


 暖かな日差しと、優しく撫でられる心地よさで気づいたら眠っていた。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る