第31話 伊勢海を眺める

 「んーっ!いい眺めだねっ★」

 ホテルの部屋に着くなり泉が目を細めながら窓の外を眺める。

 「そうだね、もうすぐ陽が落ちるから外に出て陽が落ちるの見ようか」

 持ってきていたブランケットを手に取る。


 

 今日泊まるホテルは目の前がすぐ海だった。

 その立地を生かすためなのかバルコニーが少し広めに作られており、海を眺めるために椅子とテーブルまで置かれていた。


 「おいでっ」


 サンダルに履き替えて泉と外に出る。

 海風が少しあり寒かったので泉を抱くように椅子に座りブランケットを被る。

 それだけで風は防げたし、お互いの体温で暖かくなった。


 「あったかいねっ……」

 泉が腕の中で振り返った。

 「そうだね」

 振り返ったその額にそっとキスすると泉は嬉しそうに笑った。

 泉が目を閉じたので少し迷ったがそのままキスする。

 

 泉の腰に手を回して、そっと撫でていると泉が手を繋いできたので指を絡める。

 すべすべとした肌の滑らかさと肌の温もりに安心しながら唇を離す。


 少し顔を赤らめた泉と目があった。

 潤んだ瞳で見上げてくる泉はすごく綺麗で……

 

 「なんかエッチしたくなってきちゃった……」

 そう言うと泉が照れたように微笑む。

 「夕陽見るんじゃないの?」

 空いていた方の手で泉の下腹部を撫でる。

 「泉はそのまま夕陽見てていいよ。オレは泉のこと見てるから」

 夕陽に赤く染められる泉の首筋に唇を押し当てる。

 「んっ……そんなのっ……無理だよっ」

 ピクっとしながら身を捩る泉の下腹部をゆっくり、優しく撫で続ける。

 ……いつもこの身体の中に挿れてるんだよな……

 このほっそりとした身体でオレを受け入れてくれて……

 そう考えると愛おしくてたまらなくなる。

 

 「いずみ……愛してるよ」

 ぎゅっと抱きしめてその首筋に額を押し付ける。

 思い切り息を吸い込むとふんわりと泉の匂いがして、それだけで幸せな気分になる。

 

 一緒に暮らしていると匂いが同じになるって言うけれど、やっぱり違うよな……。

 泉は昔っから特別いい匂いだった。

 オレよりもっと長く一緒に住んでるはずの真実もいい匂いがしたが、やっぱり泉とは違った。

 

 今まで感じたどんな匂いとも同じではない泉の匂い。

 「……透……くすぐったい……」

 お腹を撫でていた手を泉に掴まれる。

 「んふっ、いずみ、大好きだよ……」

 泉に手を掴まれたままそっと泉の下着の中に指先を滑り込ませた。

 

 「んっ!……ここじゃあ……やだっ……」

 


 

 ★



 

 

 もたれ掛かって息を整える泉の身体を布団に寝かせて優しく抱きしめる。

 「すっごく……気持ち良かったよ」

 泉はうっすらと目を開け微笑む。

 「うん……わたしも……」

 ……髪が乱れてしまい目に入ってしまいそうだったのでそっと泉の髪を撫で、整える。

 

 「そろそろ夕飯だけど動けそう?」

 泉はぼんやりと枕元にあった時計を見て、頷いた。

 「うん。でもその前にシャワー浴びたい」

 ゆっくりと起き上がった泉と一緒にシャワーを浴びることにした。


 

 

 あまり待たせたく無かったのでさっとシャワーを済ませて食事処に移動するが真実達はまだ来ていなかった。

 

 「あれ、真実たちまだきてないね。寝ちゃってるのかな?」

 心配そうな顔をする泉。

 「ああ、浅川さんお酒呑んでたからねえ、もう少しかかるかもしれないから先に食べてようか。もう少し経ったらオレ呼びに行ってくるよ」

 泉の正面に座り、並んでいる料理を眺める。

 魚に鮑に伊勢海老……お刺身に鍋物、お寿司や焼き牡蠣……美味しそうだ。

 「泉っ!すごく美味しそうだねっ……」

 それにすごく綺麗だ。

 料理に驚いていると泉が微笑みながら泉の分の焼き牡蠣をくれた。

 「えっ、いいよ。泉が食べなって?」

 そう言うと泉は楽しそうに笑う。

 「透牡蠣好きでしょ。私はそんなでもないしちょっと量が多いから透食べてっ?牡蠣は身体に良いみたいだよ。あ、食べさせてあげようか?」

 照れたような泉になんだか萌えてしまう。

 「んっ……じゃあせっかくだから……」

 そう言うと泉がわざわざそばに来てくれた。

 「はいっどうぞっ」

 

 「いただきますっ」

 口を開けると泉が焼き牡蠣を食べさせてくれた。

 ……泉が食べさせてくれたおかげか牡蠣はものすっごく美味しかった。

 「どう?」

 泉が顔を覗き込んでくる。

 「うん、すっごく美味しくって幸せっ」

 

 

 「お前らなあ……」

 呆れたような声が背後から聞こえる。

 紛れもない、真実達だ。

 「水野さんたちラブラブねっ★」

 浅川さんに揶揄われて困ったように泉が笑う。

 「っ……いいでしょ、夫婦なんだしっ!」

 照れ臭くなってそう返すと2人は楽しそうに笑ってくれた。

 「まあそうだなっ」

 オレの隣に座った真実。

 座ろうとかがんだ瞬間に浴衣の胸元から真実の胸元が見えた。

 

 見慣れた胸元には幾つもキスマークが付いているのに気づく。

 「……2人だってラブラブじゃんか」

 そう呟くと真実が幸せそうな顔で微笑んだ。

 

 ……真実の幸せそうな顔を見たら本当に良かったと思えて、なんだか無駄に泣きそうになってしまった。

 

 それをめざとく真実に気づかれてしまう。

 「なんだよ。透、また泣くなよっ?ほらっ!今日は呑もうぜ?」

 真実は笑いながらお酒を注いでくれる。

 「真実っ、本当におめでとうっ!!」

 真実の持つグラスにもお酒を注いで2人で呑んだ。

 

 「もうやあねえ、水野さんも呑んでっ★」

 泉と浅川さんも呑み始めて、4人の宴会が始まった。

 

 ご飯も美味しいしお酒も……呑み易い。

 

 なんだか楽しくて仕方なくなってしまい、勧められるがままにお酒を呑んだ。


 

 ……夜はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

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