第29話 お伊勢参りに行こう★
「浅川、足元気をつけろよ。石がある」
「うん、シンジありがとっ★」
浅川さんと並んで歩く真実。
2人は手を繋ぎ、ゆっくりと後ろを歩いてくる。
……2人とも幸せそうだ
先日、とうとう浅川さんと結婚すると真実から報告されて、思わず泣いてしまったのは泉には内緒だ。
本当良かった!!
真実が嬉しそうに笑うのを見ると自然と目頭が熱くなってしまう。
「透、疲れちゃった?大丈夫?」
泉はしきりに心配をしてくれている。
「大丈夫だよ。泉こそ疲れたでしょ。腰痛くなってない?」
隣を歩く泉を見つめる
春の日差しを受け、微笑む泉は顔色も良く、元気そうだ。
「透っ、桜が綺麗ねっ★」
時折ひらひらと舞い降りてくる桜の花びらは春に降る雪のようだ。
見上げると無数の桜の花……
河津桜よりもっと淡い色の花びら……
綺麗だ……
立ち止まり思わず見惚れてしまう。
この花はこんなにも人の心を魅了するものだなんて……
「透、髪に花びらがついたよ」
泉の手が不意に伸びてくる。
「ちょっとかがんで?」
言われるがままにかがむと泉は髪についた花びらをとってくれた。
せっかくかがんだのでさりげなさを装いながら泉の頬にキスする。
「んっ、透……」
くすぐったそうな泉の髪に桜の花びらが舞い降りてくっついた。
「泉も花びらくっついたよ」
「きりがないね」
泉は少し楽しそうにそのまま歩き出したのでくっついて歩く。
まあ花びらは桜並木を抜けてから取ればいいか。
桜を見上げながら歩く泉を眺めながら歩く。
今日は特別ふんわりとした雰囲気に包まれた泉は綺麗で、可愛くてたまらない。
やっぱり来て良かったな。
嬉しくなり、自然と足取りも軽くなっていた。
「透っ、招き猫と写真撮りたい」
泉がはしゃぎながら大きな招き猫の置物のそばに立つ。
「うん、いいよ。並んでごらん」
招き猫のそばに立つ泉を何枚かカメラに収める。
「一緒に撮ってもらおうよ」
後ろから歩いてきた真実にカメラを預けて2人で撮ってもらう。
「水野さん、私とも撮ってっ★」
浅川さんと泉を並ばせて写真を撮り、更に真実と浅川さんも撮ってあげる。
「この先に招き猫のお店があるんだよっ」
案内してくれようとした泉を真実が止める。
「泉、とりあえず先に参拝だな」
「えへっ、そうだよね」
照れ隠しをしている泉の横で浅川さんも騒いでいた。
「真実、お腹すいたっ、うどん食べよう?」
真実はため息を吐く。
「浅川、とりあえず参拝先に済ませよう?なっ?」
★
大きな橋を渡ると神域、伊勢神宮である。
橋を渡ると不思議なことにそれだけで場の空気が変わる。
張り詰めたような、そしてどこまでも清浄な澄んだ空気。
ここの空気を吸うだけでもなんだか清められている……そんな気がした。
彼の地と此の地の境を分ける川は五十鈴川と呼ばれている。
泉と一緒に五十鈴川の清流で手を清める。
川の水はとても冷たい。
手を清めている泉の手を水中で握る。
「透……」
泉は困ったように微笑んだが手を握り返してくれた。
石段を登ると御神体を祀る社屋の門前に着く。
皆で揃って横並びをし、それぞれ参拝をする。
(今年も泉が健康で過ごせますように!!)
いつも願うことは一緒だった。
泉が元気で長生きできるように……
願いと言ったらそのくらいだった。
参拝を済ませて泉を見る。
何やら一心に願い事をしている様子の泉。
泉の願い事ってなんだろう。
気にはなったがそれを聞くのは躊躇われた。
更に隣を見ると既に参拝を済ませて真実を見つめている浅川さんと、その隣で泉同様熱心に願い事をしている真実の姿があった。
参拝を済ませて真実達と別れる。
泉がお守りを欲しがったので授与所まで歩く。
「さすが伊勢だね。しっかり信仰も残ってるし、神社の敷地内にある樹も立派だね」
「信仰……か」
たまにとてつもなく山奥の、こんな所に人なんて来るのだろうかという土地にとてつもなく大きな社が建てられた神社などがある。
おそらく『その方』を祀らなければならない、又は祀る事によって善いことが起こった実績が在ったからこそ、それだけのものを建てることができたのだと思う。
人は弱い生き物だ。
昔から世界中で信仰は大切にされてきたし、これからもそれはあり続けるのだと思う。
隣で泉が深呼吸して、背伸びをする。
樹々の隙間から降り注いでくる陽の光が泉を照らしていく。
本当……綺麗だ……
思わず微笑むと泉と目が合った。
「一緒に来れて良かった」
泉はそう言いながら微笑む。
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