第27話 おうちでゆっくり……

…新婚旅行か……

 大学卒業と共に結婚して、お互いすぐに働き始めた。

 泉は真実の継いだ会社に入社して、ずっと働きに出てくれていた。


 長い休みなんて取れなくて……

 何となく有耶無耶になってしまっていた。


 結婚式だって、俺に呼べる親も親族もいないのを気遣ってくれたのか泉は二人きりでいいと言ってくれた。


 本当は泉の両親やじいちゃんも呼びたかった筈だ。


 ……相手がオレじゃなければ泉はもっと……


 ついそう思ってしまう。

 もっとちゃんと稼いで、泉に楽させてあげたい……



 「透、何考えてるの?」

 不意に泉の手が伸びてくる。

 「眉間に皺寄せて……また変なこと考えてるでしょ?」

 泉は目の前に立つとオレの頬を優しくつまむ。


 ハッと我に返る。

 夕飯を食べて、一緒にテレビを見ていた最中だった。

 「んっ?なになに?」

 一瞬何を言われたのか理解できなかった。


 それ程一人で深く考え事をしていたのだろうか。


 「透ってば……疲れちゃったのかなって思ったけど眉間に皺寄ってるし、考え事かなって?」

 泉が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

 「ねえ泉……今からでも新婚旅行の代わりにどこか行こうか?遅くなっちゃったけど、予定立ててさ、結婚式だってオレのせいでまともにやれなかったでしょ?」


 泉は少し驚いたような顔をした。

 「どうして突然そんな事言い出すの?」

 泉に顔を覗き込まれて、視線を逸らす。

 「……今日真実が言ってたんだ。泉を新婚旅行に行かせてあげれなかった分今度の取材旅行楽しんで来いって。…でも、取材のついでじゃなくって、オレ泉とちゃんと……。本当は結婚式だって泉の家族呼んでやりたかっただろ?オレがお金持ってれば泉の友達とか呼んで盛大に……」


 結婚相手がオレじゃなければ…そう言いかけた瞬間泉の両手に顔を挟まれた。


 一瞬切なそうな顔をしたがニコッと笑う。

 

 「旅行は良いねっ、夏にでも長いお休み取って二人で少し遠出しよう?本当に気にしないで良いよ」


 泉が微笑んだ。


 「新婚旅行行けなかったのは透のせいじゃなくって私のせいでしょ?私が真実を助けたいって言って働いてただけだし」


 すぐ隣に座った泉が顔から手を離して抱きついてくる。


 「それに結婚式だって別に二人だけで良かったんだよ。私が見てもらいたかったのは透だけだったし、それに……透のタキシード姿も……カッコ良かったしっ」


 「……」


 「そのあとに身内だけで披露宴したでしょ。おじいちゃんもお父さんもすごい喜んでくれてたじゃない。お母さんも、真実もタキシード姿の透見て泣いてたねえ」


 泉がクスッと笑った。


 「え、真実はドレス姿の泉見て泣いてたんじゃなかったの!?」


 初めて知る真実…。


 あの時真実は……てっきり。


 「お母さんと真実は透見て泣いてたんだよ?知らなかったの!?」

 

 …そんなのわかるはずない。

 ぼろぼろ泣き始めてしまった真実に驚いて、絶対泉を幸せにするって言ったのに……。

 

 真実は泣きながらも『幸せになれよ』と肩を叩いてくれた。


 ……やっぱり真実はお父さんみたいだと思う。


 夜空に浮かぶ…そっと見守り続けてくれる月のようだ。


 思わずあの時のことを思い出して泣きそうになっていると泉が微笑む。


 「それに私……昔から友達ってあまりいなかったし……正直透と二人だけの方が気が楽だったの。だから本当にあれでよかったんだけど……」


 泉がさりげなく衝撃の告白をし始めた。


 「あ、でも今は浅川さんいるし、私の友達は浅川さん……でいいのかな」


 浅川さんは私と友達って言われたら迷惑かなあといらない心配をしだした泉。


 ……浅川さんむしろ喜ぶだろうなあ。


 浅川さん泉のこと好きだし……


 「……それに多分……透がいなかったら私……結婚なんてしなかったと思うよ」


 その言葉にハッとして泉を見つめる。


 「好きだったのはもちろんなんだけど、家族以外の男の人で、平気だったのが透だけだったの。……ごめんね」


 泉は未だに男が苦手なようだ。


 小さい頃にいじめられたことがあって、それがトラウマになっているようだけど……


 むしろそのおかげで泉に結婚して貰えたんだと思っていた。


 「どうしてオレのことは平気だったんだろうね……そのおかげでオレは泉と今もこうしてられるんだけど……」


 そっと泉を抱きしめる。


 「透は特別っ、ずっと……好きだったんだよっ」


 泉がぎゅっと力を込めて抱きしめ返してくれた。


 ……泉ってば可愛い事を言うなあ。

 


 




 やはり泉は疲れていたようだったのでぐっすりと眠っていた。

 土曜は目覚ましをきって、起きるまで寝かせておいた。


 泉は昼前まで眠り、お腹が空いたと起きて来たので用意しておいた昼食を一緒に食べる。


 「やっぱり一晩置いて味が染みたサバ味噌は美味しいっ★」

 ニコニコと昨日のサバ味噌を食べてくれる泉は何ともほほえましい。

 「そう?なら良かったよ」

 ご飯を食べている泉を眺める。


 昨日よりは顔色良くなったな。

 少し長めに眠れたからか今日の泉は昨日よりも元気そうだ。


 少し熱めのお茶を淹れて泉に渡す。

 「今日は家でゆっくりしようか。今週撮り溜めてたテレビ番組あるんだ」



 

 日当たりのいいリビングに厚手の敷物を敷く。

 すぐにすずしろが気づいて、真ん中に寝転んで毛繕いを始めた。

 「すずしろはいちばんいい場所を見つけるのがうまいな」

 すずしろの背中を撫でる。

 「……そうだねえ」

 泉が微笑みながらすずしろを眺めていた。


 


 ……泉……猫みたいだ。

 

 すずしろのすぐそばで丸くなって眠っている泉にそっと毛布を掛ける。

 

 旅行番組を見ながら眠ってしまった、泉のすやすやと気持ちの良さそうな寝息を聞きながら、泉の頭を撫でる。


 ……おつかれさま……

 

 背中を抱きながら目を閉じる。

 泉の匂い……昔から好きなんだよね。

 ふんわりとした、石けんみたいな優しい匂い。

 

 目を閉じて、泉の寝息に自分の呼吸を合わせる。


 日の当たる場所でみんなでお昼寝。

 ……たまらないなあ……

 つい一人でにやけてしまう。


 こんな日がずっと続けばいい。

 そう思いながら意識を手放した。




 

 


 




 


 


 


 

 

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