第13話 土砂降りの雨と拾い猫

 ‥見つけてしまった‥。


 土砂降りの雨。


 草むらから見え隠れする二つの耳。

 

 …ヤー、ニャー…


 消え入りそうな声をあげながら子猫が顔を出す。


 泥にまみれた小さな体が雨に打たれて震えている。


 …。

 

 …。


 放っておけない…。


 透は草むらにしゃがみこんだ。


 子猫は透を怖がって奥へと行ってしまう。


 「あ、待って…?」


 ちょっと傘が邪魔だ。


 強く雨が打ち付けていたが傘を横に置き草むらを覗き込んだ。


 足が見えた。


 そっと手を子猫の足元にだす。


 子猫の足元の透の指先の匂いをかぎ、冷たくなった鼻先をくっつけた。


 「おいで…?」


 子猫は透を見上げる。


 「うちにおいで…。」


 そう言って笑う。


 子猫は透の手に顔を擦りつけた。

 


 そっと抱き上げ、着ていたコートで包む。


 子猫の体はぶるぶると震えている。


 そのまま病院へ連れて行った。





 子猫は濡れて体温が下がってはいたが健康のようだ。


 何日かしたらまた連れてくるように言われた。


 病院で子猫用のご飯を少しもらう。

 

 家に帰り子猫の体を拭く。


 体についた泥を拭き取り、乾かしてやる。


 病院でもらったご飯をもりもり食べると落ち着いたのか箱の中で眠り始めた。


 鍵を開ける音がする。


 「…!」


 泉が帰ってきた。


 靴を脱いでいる泉を迎えに出る。


 「ただいま、もう雨凄かったよ~」


 靴を脱いだ泉は透を見て驚いている。


 「透、どうしたの!濡れてるじゃない」


 「…いずみ…話があるんだけど、いい?」


 泉は困ったような顔をしながら透を見つめる。


 「…今じゃなきゃ…ダメ?」


 「うん…。」


 なぜか泉は泣きそうな顔をする。


 「…。分かった。何?」


 「実は…さ」

  


 ★


 「…!!かわいい!!」


 泉は眠る子猫を見ると目をキラキラさせる。


 すやすやと眠っている子猫。

 

 眠る子猫を起こさないようにリビングに移動した。


 「泉、それで…さ、俺ちゃんと世話するから…お願いっ!」


 「いいよ。私も猫好きだし。そんなことより、透お風呂入って?風邪ひくからっ」


 泉はあっさりそういうと透を風呂に連れて行った。

 

 猫を捕まえた時からずっと濡れていたせいで体が冷たくなっていた。


 体を洗い浴槽に浸かる。


 温かい。


 泉も身体を洗い終えると一緒に浴槽に入る。


 泉を後ろから抱くように浴槽に浸かっていると


 「透、冷たくなってる」


 と言いながら体をくっつけてきた。


 「うん、ちょっと寒い…。」

 そう言いながら泉の胸に触れた。


 「ひゃっ…」


 掌の冷たさに驚きながらも泉はそのまま動かなかった。


 胸に触っている手の上から手で触れる。


 「透…寒くない?」

 

 柔らかくてあったかい泉の胸を触っているとだんだん温まってくる…。


 違うところも熱くなってしまう。


 「透…当たってる…」


 泉の耳にキスしながら


 「いずみ…ダメ?」


 と聞いたら真っ赤になりながらも


 「ダメ・・・じゃない・・・よ」


 そう言われて一気にその気になってしまう。

 

 

 「ああ、いずみっ…こっち、向いて…。」


 キスしようとしたらリビングで子猫が鳴いている声がした。

 

 「透…行ってあげて…」


 「あ、ああ。…いずみ、ごめん。」


 


 ★


 

 翌朝‥。


 今日は何だかフワフワするな‥。


 そう思いながら起きる。


 「ニャッ!」


 子猫はもう起きていた。


 透の顔を見ると駆け寄ってくる。


 少し遊んで、ごはんをあげると満足したのかダンボールの中に入って寝てしまった。


 「透、おはよう」


 振り返り、泉に挨拶をする。


 「泉、おはよう‥今日も綺麗だ‥」


 「‥?透、ちょっと‥」


 泉が顔を覗き込んでくる、


 額に手を当てて言った。


 「透熱あるよ。」


 

 どうりでフラつくはずだ。


 泉に手を引かれベッドに寝かされる。


 「あ、でも泉、朝メシが‥」


 「透と結婚する前までは私だってちゃんとやってたんだから大丈夫!いいからねてて!」


 「でもっ‥猫っ」


 「私だってできるからっ‥」


 しかし‥更に口を開こうとしたら泉が怒り出してしまう。


 「透いい加減にして。透が私の事気にかけてくれるみたいに私だって透の心配するのわからないの?もう、今日ベッドから出たらもうエッチしないから!」


 「!!」


 透は大人しくベッドに寝る。


 泉が近くにいながらエッチできないなんて地獄だ。


 「ごめんなさい。大人しく寝てるから…」


 そういうと泉は満足したらしい。


 「よしよし。じゃあ体温測りましょうね」


 泉に体温計を渡される。


 毛布をかけられよしよし、と撫でられた。


 ‥‥これはこれで悪くない。


 幸せすぎてにやけてしまう。


 




 かわいい我が家のナースちゃん。


 あっという間にお粥を作ってくれて、薬や水分をと甲斐甲斐しくお世話をしてくれる。


 はああ‥。幸せだあ…。


 なんて思っているうちに熱が上がってきたようだ。


 

 ひんやりとした手が顔に触れ目を覚ます。


 視界が定まらない。


 「透、熱が上がってきちゃったね。・・・猫ちゃんは大丈夫。ご飯食べて寝てるよ。ちょっと水分摂ろうか。」


 泉が起きあがるのを手伝ってくれる。


 少し水分を摂ると寝かされた。


 泉はベットの脇に座って透の頭に触れる。


 「もう少ししたらご飯にしよ。それまで寝てて。」

 


 熱が出ているせいだろう。


 記憶が混濁している。


 嫌な夢を見る。


 昔の自分の事だ。

 

 また殴られるんじゃないか。


 そう思いながら押し入れに隠れていた。


 あちこち探しながら部屋を探し回っている。

 だんだんこっちに近づいてくる。


 隣の引き戸を開ける音がした。


 乱暴にドアを閉め、とうとう透が隠れている押し入れのドアが開き、腕を引っ張られる。


 「透!!」 


 強く揺すられる。


 「・・・っ!!」


 目を開ける。


 「大丈夫?透?」


 心配そうに見つめている泉。


 「あ、れ…?おれ…」


 「うなされてた…。大丈夫だから…。」


 泉にぎゅっと抱きしめられた。


 昔の夢を見てしまった。


 気づくと涙を流していた。



 「透、着替えよっか。立てる?」


 着ていたパジャマを脱ぐ。


 濡れたタオルを渡されて顔を拭く。


 泉がパジャマのボタンを留めてくれる


 それだけで体がすっとして気持ちいい。


 体温を測りながら泉はほっとしたように微笑んだ。

 


 ★



 熱は下がりもう大丈夫だと思ったが泉に心配されもう一日休んだ。


 すっかり体調がよくなりベッドから解放される頃にはすっかり泉と子猫は仲良しになっていた。


 泉はにこにこと笑いながら子猫と遊んでいる。


 「ねえ、透この子の名前考えたんだけど…。」


 「どんな名前?」


 「すずしろ…」


 子猫はニャーンと鳴き泉の元に走っていく。


 「いいんじゃない。」


 そう思いながら、泉を取られそうだなと思った。


 子猫と遊ぶ泉。

 今日も世界一可愛い俺の奥さん!!

  

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