第7話 帰宅して


 「泉…大丈夫?もうすぐ家だけど吐きそうになったら言ってね?」


 「うん…。」


 助手席で静かに目を閉じている泉に声を掛ける。


 さっきよりはだいぶ顔色も良くなったし大丈夫だろう。


 なるべく早く家に着けるように運転に集中する。


 


 静かな車内。


 泉が少しでも気分が悪くならずに済むように丁寧な運転を心がける。


 


 すぐに自宅マンションの駐車場に着き駐車場スペースに車を停める。


 少しだけホッとして助手席の泉を見つめる。


 …眠っているのだろうか。


 そっと車を降りて助手席のドアを開ける。


 「泉…着いたよ。」


 そっと声を掛けてシートベルトを外す。


 泉を優しく抱き上げて車から降ろす。


 「んっ…透…。自分で歩けるよ…。」


 「うん。でもこのまま行かせて?」


 酔った泉を歩かせるよりはこのまま帰った方がずっと早く着くだろう。


 エレベーターを待つ間も、家に入って寝室に運ぶ間も、泉は何も言わなかった。


 



 「泉…自分の部屋で寝る?」


 「ううん。一緒の方がいい。」


 泉を透の部屋の寝室に運んで寝かせる。


 …着替えさせなきゃ…。


 スーツがシワにならないようにそっと脱がせてハンガーにかける。


 パジャマ着せるか…。


 …服を脱がせるのは得意だったが着せるのは流石に一人では難しかった。


 「泉…パジャマ着ようか?ちょっと起きっ!?」


 気づくと再び泉が泣き出してしまっている。


 「どうしたの?気分悪い?!吐きそう?」


 慌てて泉の背中を撫でる。


 「透…ごめんなさい。」


 「いいよ、呑み会なんて酒飲みに行ってるんだしこれくらい何でもないよ?」


 泉が首を振る。


 …?違うのか?


 「…嫌な思いさせたでしょっ?」


 …?


 最後にいた男の事だろうか?


 「…それって真鍋ってヤツの事?」


 「…透は…顔だけ良いわけでも、私のヒモでもないのにっ…。」


 …ああ…。


 きっと透の職業柄知らない人から見たらきっとそう思われているんだろうとは分かっていたが…。


 「良いんだよ。泉、オレ気にしてないよ?…それにある意味本当の事でしょ?我が家の収入の半分以上は泉が外に働きに行ってくれてるお陰だしさ。」


 「…透は私のワガママにつきあってくれて…。」


 …泉は真実の仕事を手伝いたいから…そう言って外に働きに出る事になった。


 …その言葉は半分は本当だろうと思ったが、残りの半分はきっと透の為だろうと思っていた。


 …昔から人が苦手で、人混みや満員電車に乗ると気分が悪くなり、立って居られなかった透を気遣ってくれているんだろうと思った。


 頑張って外に働きに出てくれる泉の役に少しでも立ちたいと家事を買ってでていたが…。




 泉に無理をさせてしまっていたんじゃないかと思う。


 「泉…しんどいならやっぱり俺が外で働くよ。今の仕事じゃ泉を養うだけの収入にもならないし。なんだってやればきっと今よりお金だって…。」


 「それはダメっ!」


 「…でもっ…しんどいだろ?」


 でも泉がしんどいのならこれ以上…。


 「違うのっ…。私っ…シンジの仕事手伝いたいからなんて言ったけど…本当は透を外に出したく無かった…。透…格好いいし優しいから…きっとすぐに他の女の子にっ…。」


 「…?」


 「透にずっと家にいて欲しいって思ってたけど、透は家に居て…寂しくなっちゃうよね…。本当は外に働きに行けばお友達だってたくさん出来たはずだろうし…。私のワガママのせいで…ごめんなさいっ!」


 …。


 ああ…そっちか…。


 ぼろぼろと涙を流して泣き始めてしまった泉を優しく抱きしめる。


 「泉…それは全然良いんだ。オレ…凄い助かってるよ?家に居てもちゃんと毎日泉は帰ってきてくれるし、別に淋しくないよ?寧ろ毎日泉の事考えて居られるし、泉の世話を焼けるのが嬉しいし。」


 泉の頭を撫でる。


 「友達だってまあ真実がいるしさ。オレとしてはなるべく泉に仕事以外の体力は使わせないでその分エッチの時用に残しておいて欲しいところだけど…どう?」


 そう言うと泉が少し笑ってくれた。


 やっと泉の笑顔が見られて安心した。


 「じゃあとりあえずは現状維持で出来たらエッチは多めでって感じでいい?」


 照れたように笑ってくれた泉はやっぱり可愛い。




 「もう!せっかく晴れて明日から少しの間泉を独占できるんだから、もう今日のことは忘れよう?泉…お腹空いてない?」


 ホッとしたらお腹が空いてしまった。


 時間は遅いがまあいい。 


 明日も休みだしのんびりゆっくり泉と過ごそう。


 


 

 

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