第9話 泉と年末にっ★
楽しい旅行も終わりあっという間に年末を迎える。
玄関に正月飾りを飾り付け、泉に声を掛けようと彼女の部屋を覗く。
…部屋を少し片付けたいと言っていた泉だったが…。
ベットの横に座り込み、いつの間にかアルバムの観賞会を始めたようだった。
…まあ全然いいんだけど。
泉は部屋を片付けると言っていたが元々綺麗だったのでその必要はなかったはずだ。
「泉っ?晩ご飯何食べたいっ?」
ハッとしたような泉が赤くなって慌て出す。
「んっ…違うのっ…部屋片付けようって思って本棚見たら昔のアルバムが見えちゃって…そのっ…。」
そんな泉の頭を撫でる。
「うん。それはいいよって…懐かしい写真見てるねえ?」
泉が見ていたのは昔の…透と泉が出会ったばかりの頃の写真が貼られたアルバムだった。
行事毎に撮られた写真などが学校側から販売されていたのだが、ほとんど買ったことはなかった。
それを泉は律儀に買っていたらしい。
泉や真実の写った写真に混ざって透の写真もあった。
泉と一緒になってアルバムを眺める。
最初はまばらだった透の写真がページを追う毎に増えていって、最後の方はほぼ透の写真がメインのアルバムになっていた。
…?
…最後の数ページに至っては真実はおろか泉さえも貼られていない。
「あっ…懐かしいなあっ…卒業式の透っ。」
嬉しそうにアルバムを見続ける泉…。
挙げ句の果てには学校行事から離れた水野家で一緒に住んでいた頃の透の写真まで出てくる。
「…泉…。この写真って…。」
「透の寝顔可愛いよね…。」
ページをめくろうとする泉の手がぴたりと止まった。
みるみるうちに真っ赤になっていく泉…。
…。
「泉…どうして俺の写真ばっかり貼ってあるの?…しかもこの写真って泉の実家で撮った写真だよね。」
透が馬鹿面で眠っている写真は明らかに泉の実家のリビングのソファーで居眠りしていた時のものだ。
泉が困ったような顔で耳まで真っ赤になっていく。
「あのっ…これはっ…。」
泉の指先がアルバムの次のページを押さえ出したのに気づく。
「泉…手…離して?」
そっと泉の手に触れる。
嫌がるように首を振る泉だったが見ないわけにはいかなかった。
泉の手を握って離させる。
反対の手でアルバムをめくる。
「あっ…ダメっ…!」
…。
…。
自分で自分の写真を見ることほど恥ずかしいものはないと思っていた。
…よりにもよって自分の寝顔集を自分で見るとは…。
…。
そっと泉の手を離す。
「…ごめん…なさい…。」
泉が呟いた。
立っていられずに泉のベットに座る。
…。
「透…怒った?」
恐る恐ると言った風に泉が聞いてくる。
「…いや…。そんなんじゃないよ。」
なんとかそう答える。
「ごめんねっ…こんなの勝手にされたら気持ち悪いよねっ!?…本当…ごめんなさい。」
泉が泣きそうな顔で俯いてしまう。
何も聞いていなかったが泉がぽつりぽつりと話し出す。
「透に最初の告白して私…フラれちゃったでしょ?最初は諦めようって思ったんだけど、でも諦められなくって…。透の写真見て我慢するしかないなって思って買い始めたのが最初だったの…。」
…。
昔の自分は本当に馬鹿だったと思う。
泉がせっかく告白してくれたのに、自分に自信がなかったことを理由に泉を振ったのだ。
「透の事が好きな気持ちばっかり膨らんじゃって…それなのに透は無防備にリビングで寝てるし…我慢できなかった。なんか一回集めたら抑えが効かなくって…ごめんなさい。気持ち悪いよね。」
ぽたぽたと涙を流し始めてしまった泉を見てしまい激しく動揺する。
「あ、いや泉……そうじゃないんだ。」
…そうじゃないのにこの気持ちをどうやって伝えたらいいんだろう…。
分からずに泉を抱きしめる。
「ごめんね。うまく言えないんだけど、嬉しいよ。まさか自分で自分の寝顔見ることになるとは思わなかったけど。とにかくさ、あの頃のオレをこんなに好きでいてくれたんだね。あの頃のオレバカだったからさ…。泉といる自信がなくて…。それなのに泉はずっとオレのこと考えててくれて…。ありがとう。」
なんとかそう伝えて泉を抱きしめ続けた。
泉がそんなに想っててくれたことがすごく嬉しかった。
「透…怒ってない?」
泉が小さな声で聞いてくる。
「怒ってないよ。全然。」
泉がぎゅっと胸にしがみついてくる。
「あの…できたらこのまま続けてもいい?」
…そんな可愛いことを言い出す泉。
「う〜ん。良いけど…できたらオレに気付かれないようにやってね?オレもなるべく気付かないようにするから…。じゃないとなんだか照れ臭くって…。」
嬉しそうにうなづく泉。
「私も今日は一緒に晩ご飯作ろうかなっ。」
そう言って立ち上がろうとする泉を引き止める。
「泉…その…御飯の前にちょっと…エッチしよう?」
…泉の可愛さにムラムラしてしまった。
照れたように泉が微笑んで、ぎゅっと抱きしめてくれた。
…泉はやっぱり可愛くて温かくって大好きだ。
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