Afterストーリー③ ミノタウロスの討伐任務
「リジル様、お疲れ様でした」
「ああ。ありがとう、ルア」
僕はルアから差し出されたタオルを受け取り、一息つく。
ある日。僕はシリング王から通達を受け、ルアと一緒に王都へやって来ていた。
正確には王国兵の人たちが集まる訓練所に、だ。
――リジル君の活躍を聞いて感銘を受けている兵士が多くてね。皆がリジル君に教えを請いたいと言っているんだが、一つ指南役として手ほどきしてやってくれないか?
シリング王からの手紙に書いてあったのはそんな言葉だった。
剣の指南などしたことが無いし僕で務まるのかとも思ったが、一国の王から直々の依頼だ。さすがに断るわけにもいかず、僕は二つ返事でシリング王からの申し入れを受けていた。
そうして、今までモンスターと戦ってきた経験などを元に、動きを交えながら王国兵の人たちに助言をさせていただき、今に至る。
「リジル君! 此度の王国兵の指南役、引き受けてくれてありがとう! 礼を言わせてもらうよ」
「あ、シリング王……」
「ルア君も一段と綺麗になったね。やっぱり恋する乙女というのは成長が早いらしい」
「そ、そんな。お戯れを……」
「……」
――相変わらずだな、この人は……。
その態度は一国の王というより友人に接するそれに近い。
シリング王にからかわれてルアはしどろもどろになっていた。
「それにしてもリジル君の剣の腕は本当に素晴らしいね。実にマーベラスだったよ!」
「あれで良かったんでしょうか? 本来、冒険者の僕が務めるには過ぎた役だと思うのですが……」
「んん? いやいや、君は冒険者とはいえ現代にただ一人しかいないブラックランクの冒険者だろう。その強さも実績も十分過ぎるさ。それに、あれを見たまえよリジル君」
シリング王が得意げに指差す方を見ると、王国兵の人たちが談笑していた。
「いやぁ、凄かったな。リジルさんの稽古は」
「ああ。あの若さで相当な数のモンスターを倒してきたんだもんな。凄く勉強になったぜ」
「かつての王都防衛戦でもモンスターの大群を引き連れた魔王軍を討ち倒したってんだからな。そりゃあ格が違うはずだよ」
王国兵の人たちが口々に僕への称賛を交わしてくれていたが、そこまで持ち上げられると気まずいというか何というか……。
ちなみに今日は非番の人もいたようなのだが、シリング王の話によると王国兵全員が志願し、参加していたらしい。
恐れ多い……。
「ただ、リジルさんが本気で戦ってる姿も見てみたいよな。どんなモンスターも一撃で倒すってスキル。一度でいいからお目にかかりたいもんだ」
「「それなぁ」」
王国兵の人たちからはそんな声まで聞こえてきて、さずがにちょっと気恥ずかしかった。
「ふふ。大人気ですね、リジル様」
「おいおい、ルアまで……」
「リジル様がどれだけ努力を重ねて強くなったのか、私はいつも傍で見てきましたから。今は多くの人に認められてとても嬉しいのです」
ルアがライトブルーの瞳を輝かせながら笑う姿が眩しくて、僕は照れ隠しに頬を掻いた。
隣ではシリング王が何に納得したのか、うんうんと頷いている。
――と、その時。シリング王の元に従者の女性がやって来た。
「シリング王、ご歓談中に失礼致します。王都近郊に大型モンスターが出現したようです」
「む……」
報せを受けて、シリング王はその内容の詳細を聞いている。
従者の女性の話によれば、現れたモンスターは特定大型種として位置づけられた《ミノタウロス》であるとのこと。
すぐに近隣の村などを襲う気配は無いらしいが、放置することはできないだろう。
「いかが致しますか? ミノタウロスといえば限られた冒険者にのみ討伐依頼が出される危険なモンスターです。相当数の兵を向かわせる必要があるかと……」
「ふむ。それもそうだがね……」
そうしてシリング王は何かを思いついたかのように、僕を見て笑う。
「ふっふっふ。ちょうど良い。ここにブラックランクの冒険者がいるじゃないか」
***
「リジルさん、お願いします! 俺、リジルさんのスキルが見てみたいです!」
「これは運がいいぜ!」
「ああ! あのリジルさんの戦闘を直接見られるなんて中々あるもんじゃないぞ!」
「……」
どうしてこんなことになっているんだったか……。
ミノタウロスが現れたという草原に到着した僕は今、王国兵の人たちの声援を受けていた。
確か、シリング王から「それじゃあリジル君。ちょっと行ってやっつけてくれ。その分後でお礼するからさ」という非常に軽い調子で言われて、王国兵の人たちがぜひ戦いを見せて欲しいと言ってきて……。
しかもシリング王まで僕の戦うところが見たいと言い始めて同行している。
危険な大型モンスターの討伐……、のはずだが、その場に緊張感と呼べるものは無かった。
みんな僕が勝つことを疑ってすらいないらしい。
「リジル様、やっぱり大人気ですね」
「まあ、みんなが見たいって言ってくれるのは嬉しいことだけど」
僕は苦笑交じりに、ルアが【収納魔法】のスキルで取り出してくれた武器を手に取る。
すると、後ろに控えた王国兵の人たちから再度大きな声が上がる。
「おお、あれが噂の《魔石剣・エルブリンガー》か!」
「これまであの剣で強敵をなぎ倒してきたって聞くぜ!」
「おい、押すなって。せっかくのリジルさんの戦いが見れねぇだろ」
「……」
王国兵の人たちが投げてくる声はもはや野次馬のそれである。
何ともやりにくい。
――いや、今日は剣の指南役として来てるんだ。僕の戦いが参考になるか分からないけど、みんなに見てもらう戦い方をしないと。
僕は気を取り直し、草原を徘徊していたミノタウロスに接近する。
――ガァ? ……グルゴァアアアアアア!
ミノタウロスもこちらに気づいたようだ。
二本の角を荒々しく振り回したかと思うと、僕めがけて突進してくる。
「ハッ――」
二度、三度と――。
繰り出されるミノタウロスの突進攻撃を躱し、間合いを測る。
僕が回避行動を行うたびに後ろからは王国兵の人たちからは歓声が上がり、やっぱりこういう状況での戦いは慣れないなと、そんなことを思った。
――そろそろいいかな……。
僕は自身の紋章が浮かぶ右手に力を込め、そこに刻まれたスキルの中から【命中率上昇】を選ぶ。
モンスターの体に内包される魔石。その核を必中で捉える僕の主要スキルだ。
そのスキルの使用を念じると、僕の右手に浮かんだ紋章――【欠落紋】が赤く輝き出す。
後ろから一際大きな歓声が上がったが、それは気にしないでおいた。
「ハァッ!」
一閃――。
手にした漆黒の魔石剣がミノタウロスの巨躯を捉え、追尾しながらその中心に吸い込まれた。
剣はミノタウロスの装甲を貫き、硬い何かを砕く手応えを感じる。
そして……。
――ズゥウウウウン。
ミノタウロスの巨体が地面に音を響かせて倒れ込んだ。
「す、すっげえ! 見たか今の!」
「ああ、モンスターの中でも特に硬いとされるミノタウロスの装甲をあんなにやすやすと」
「その前の動きもとんでもなく早かったぞ! 目で追うのがやっとだった」
僕が剣を収めると、蜂の巣をつついたような騒ぎが巻き起こった。
これで少しでも役に立てただろうか?
「リジル様、お疲れ様でした」
「うん。ありがとう」
僕は本日二度目となるルアのその言葉を受けて、どう応じていいやらで苦笑する。
「リジルさんの本気、見れて感激です!」
「凄く勉強になりました! 全力で戦うところを見せてくれてありがとうございます!」
「俺もリジルさんみたいに強くなれるよう頑張ります!」
王国兵の人たちからもそんな言葉をもらって、僕の顔は少し引きつったような笑みを浮かべていたと思う。
「いやぁ。良いものを見せてもらったよ、リジル君。重ね重ね感謝する」
そう言いながら歩み寄ってきたのはシリング王だ。
シリング王は僕の両肩をバンバンと叩き、手荒い祝福をしてくれた。
そして、僕の耳元に顔を近づけて囁く。
「どうやら彼らにはあれが全力に見えたらしいね。リジル君が本気を出していないことは黙っておこうか」
「そうしてもらえると助かります……」
シリング王は悪戯っぽい表情を浮かべていて、僕はまたもぎこちない笑いを浮かべることになるのだった。
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