Afterストーリー① ファーリス村でのとある出来事


「あのさぁリジル。ナルは最近思うんだよね」


 とある日。

 ファーリス村の広場で日課である剣の素振りをしていたところ、獣人の少女ナルが獣耳を力なく垂らし、恨めしげな目を向けてくる。


「どうしたナル、唐突に」

「ルアお姉ちゃんといい感じなのか知らないけど、いつもべったりでさー。もう少しナルにも構ってくれていいんじゃないかと思うんだよ」

「え……」

「べ、別にいつもリジル様とべったりってわけでは……。私はリジル様にお仕えする侍女ですし……」


 ナルが大きくため息をつきながら言った言葉にルアが赤面しながら反応する。


 ルアの仲間がいる里から帰ってきた後で僕はナルたちと合流し、ファーリス村に滞在していた。

 かつて王都から追放された僕を快く迎え入れてくれた人たちがいるだけに、この村は僕にとっても思い入れが深い。

 ブライ村長からも多大な恩があるからと強く推され、現在は空き家に仲間たちと住まわせてもらっていた。


「まあまあ、リジルさんも色々あってやっと落ち着けたッスから。ナルももう少し我慢しないと」

「うるさいハゲ、黙っとけ」

「酷いッス……」


 ファーリス村の冒険者であるドゥーベがナルにあしらわれるのはもう定番となっている。

 僕はそんなやり取りを見ながらルアと顔を見合わせて笑いあった。


「おうお前ら、全員いるな。ちょうど良かった」

「あ、横暴賢者だ」

「アンバスさん、こんにちは」


 見ると、不敵に笑う賢者アンバスがそこにいた。

 ……これ、何か企んでる時の顔だな。


「どうされたのです? アンバス様」

「いやぁ、ちょっとお前らに頼みたいことがあってな」

「ロクでもなさそー。……ってあだだだだっ!」


 茶々を入れてきたナルに対し、アンバスが側頭部をグリグリと挟み込んでいた。


「実はこのところ村の近くに変なモンスターが出没してるらしい。研究したいから何匹か狩ってきてくれねぇか」

「えー、めんどくさいー」

「そうかそうか、それは残念だな。そのモンスターの肉はめちゃくちゃ美味いらしいからおチビが好きなんじゃねぇかと思ったんだが」

「よぉーし! それじゃあちょっくら狩ってくるよ!」


 アンバスのその言葉に、ナルが獣耳をピコンと立てて反応する。

 分かりやすい……。


「新種のモンスターみてぇだが、リジルなら余裕だろう。あと、嬢ちゃんの【収納魔法】のスキルがあればモンスターがデカくても持ち運びもできるハズだしな」

「分かりました、アンバス様」

「よーし、俺もお供するッスよ!」


 そうして僕たちはアンバスに指定されたモンスターを狩るために出かけることになった。

 半分は、ナルの食欲を満たすために……。


   ***


「あれか……」


 そこは小さな盆地のようになっていて、アンバスに指定されたモンスターが点在していた。

 モンスターは猪のような見た目で、それ自体は珍しくもない、のだが……


「アンバス様から巨大だとは聞いてましたが……」

「デカすぎない?」

「人の背丈の5倍くらいはあるッス……」


 みんなの言う通りだった。

 猪型のモンスターは見たことがあるが、明らかに大きい。

 しかも【索敵】スキルを使って調べてみたところ、100匹以上はいることが分かる。

 目の前に広がっているのはさながら猪の海だった。


「でもおいしいお肉のためだぁー!」


 言って、フェンリル化したナルが駆けていく。

 食欲とは恐ろしい。


 ナルのサポートはドゥーベに任せることにして、僕は別方向に固まっている巨大猪を狩ることにする。


「ではリジル様、お気をつけて」

「ああ、行ってくるよ」


 僕はルアが収納魔法から取り出した武具を受け取り、猪の群れに向かっていく。


「ハァッ――!」


 ――グルァアアア!


 僕は【命中率上昇】と併せて【スキルチェイン】を使用する。

 会心の一撃なった攻撃が周囲に拡散し、巨大猪を討ち倒していった。

 一箇所にまとまっているモンスターならこうして狩っていった方が効率的だ。



 そうして狩り続け、半刻ほど経った頃――


「ああー疲れたぁ。やっぱりリジルには敵わないかぁ」

「そりゃあリジルさんッスからねぇ」


 ナルとドゥーベがくたくたになりながらやって来る。


 僕の周りには倒した巨大猪が所狭しと転がっていた。


   ***


「おいしーい! こんなにおいしいなら毎日お肉でもいいかもね!」

「ちょっとナル、どうしてわざわざ俺の肉を取るッスか!」


 山盛りに積んだ猪の肉を前に、ナルとドゥーベがそんなやり取りを繰り広げている。


 あの後、ルアの【収納魔法】で回収した猪を村に持ち帰った僕たちは、アンバスに何匹かを引き渡した後で食事をすることにした。


「いやぁリジルさんたちには感謝ですなぁ」

「リジルのお兄ちゃん、おいしいお肉をありがとう!」

「この肉、村の特産品にもできるんじゃないか?」


 僕たちだけではとても食べ切れないため、村の人たちにも振る舞ったところ大変に感激された。

 それから宴が開かれることになり、今に至る。


「お疲れさまです、リジル様」

「ああ、ありがとう。でもこれだけの量、ルアがいなかったら運べなかったな。ルアもお疲れ様」

「ふふ、お役に立てたようで嬉しいです」


 ルアが取り分けてくれた肉を食してみると、確かに美味しい。

 濃厚な肉の味わいにルアが調理に使用した香草もよく合っていて、いくらでも食べられると感じるほどだ。


 構ってくれとふてくされていたナルも、これで機嫌を直してくれると嬉しいが……。

 そんなことを考えていたところ、ナルから声がかかる。


「そういえば、王都の酒場でのごはんもおいしかったなー。……ねえリジル、明日は王都に行ってごはん食べようよ!」

「……」


 どうやら今度は王都での食事をご所望のようだ。


 ナルの食欲は尽きるところを知らないようだった。


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