第41話 魔王ルギウスとの戦い
「ククク。今度こそ……、今度こそ負けんぞリジル」
ルギウスがそう言って掲げた手には黒い石が握られていた。
それは今までに見たどの黒い石よりも大きい。
ルギウスが力を込めると、黒い石を中心としておびただしい邪気を孕んだ黒い球体のようなものが現れる。
そして、ルギウスの体の黒く侵食されている部分が更に広がっていった。
人の姿から遠ざかっていく。
そんな風に感じられた。
「やめろルギウス! そんな力をそれ以上使ったら……」
「黙れリジル。今、俺が興味あるのはお前との決着だ。それ以外に、無い!」
ルギウスが叫び、黒い石を自身の胸のあたりに叩きつけると、発せられた黒い影がルギウスの体を包み込んでいく。
瞬間、発光とともに突風のような風がルギウスから放たれた。
「くっ……!」
「ク、クク。これだ……。この力だ……!」
風収まると、そこには黒い影に包まれたルギウスがいた。
――黒い影の、鎧……?
凄まじい邪気を持つ影をルギウスの体に纏っている。
それはさながら、黒い鎧のようだった。
「あれは……、魔王の瘴気……!」
後ろから賢者アンバスの声がかかる。
「魔王の瘴気?」
「ああ。かつて魔王が使っていたのを見たことがある。だが、その時よりも遥かに強力だ」
「魔王の? ということは……」
その声に答えたのは、ルギウスの傍らで不敵な笑みを浮かべている呪術師クロだった。
「ご想像の通りですよ、リジル君。彼こそがワタシの探していた魔王の器となる人物だったのですぅ」
「ルギウスが、魔王の……」
「はぁい。皮肉なものですよねぇ。本来魔王を討ち倒す使命を持つはずの勇者紋を持つ者が、魔王の器だったっていうんですからねぇ! クケケケケ」
「やかましいぞ呪術師よ。さっきも言った通り、今の俺が興味あるのはリジルとの決着のみ。それが終わったら王都への侵攻だろうが、魔族の復活だろうが好きにするが良い」
「クククク。仰せのままに勇者様……、いえ、魔王様」
「いくぞ、リジルよ」
言って、ルギウスは構えを取る。
纏った魔王の瘴気からは強烈な邪気が感じられた。
「気をつけろリジル。魔王の瘴気は凄まじい硬度を持っている」
僕はアンバスの投げかけに頷き、魔石剣エルブリンガーを眼前に構える。
「リジル様、私たちも!」
ルアの叫びに、後ろで見ていた仲間たちが一様に構える。
自分たちも加勢する。
皆がそう言っているような顔つきだった。
「フフ。邪魔はさせん。一対一で勝負だ、リジル」
「くっ!」
ルギウスがそう言って手を前に突き出すと、後ろにいた仲間たちは見えないものに抑えつけられたかのように地面へと抑え込まれた。
――っ! 手をかざしただけで……。
明らかに、今までのルギウスとは違うパワーだった。
僕がやるしか、ない……!
「バーストストライク!」
僕は覚悟を決めてルギウスに向けて疾駆し【命中率上昇】スキルを発動すると、魔石剣エルブリンガーをルギウスの体の中心、黒い石めがけて突き入れる。
デュラハンを倒した時と同じ、【縮地】の速度とバーストストライクのパワーを乗せた一撃だ。
しかし、
――ギィン!
「なっ!」
金属に弾かれたような音が響き渡り、剣がルギウスの体まで届くことはなかった。
「ハッ!」
体勢の崩れた僕に向けてルギウスが黒い影を放つ。
僕は咄嗟に【スキルブレイク】で応戦したものの、押し込まれて片膝をつくことになった。
「ク、クク。いける、いけるぞ……!」
「く……」
「そぉら! 次はこいつだ!」
今度は続けざまに黒い影がルギウスから放たれる。
【スキルブレイク】に【スキルチェイン】を乗せて凌ぐが、やはり一撃一撃が以前とは比べ物にならないほど重い。
「ハァッ!」
僕は間隙を縫ってルギウスに再度攻撃を仕掛けるが、またも弾かれる。
【命中率上昇】スキルの効果で的確に攻撃は当てられるのだが、魔王の瘴気の硬度に阻まれていた。
「フハハハハ! 貴様のスキルのこと、呪術師クロから聞いたぞ。クリティカルの一撃、確かに凄まじい威力だ。だが、その攻撃も急所まで届かなければ意味があるまい!」
「ハァ、ハァ……」
ルギウスの攻撃を立て続けに受けてきたせいか、息が切れ、足にも来ている。
――駄目だ、ここで倒れるわけには……。
「く、リジル様……、回復薬を……」
抑えつけられながらも【収納魔法】を発動させようとするルアに向けて、ルギウスが手を突き出した。
「邪魔はさせんと言ったはずだ」
ルギウスの発動させたものか、黒い影が蔦のように体を締め上げ、ルアが苦悶の表情を浮かべる。
「あ……、ぐ……」
「ルア!」
「以前、大首領祭の前夜にこの女が言っていたな。目の前の人間を救おうとする意思がリジルの強さだと……。ククク、どうだ。それができない気分は?」
「ルアを離せ、ルギウス……!」
「おおそうだ。クロによれば、この女の仲間に生き残りがいるらしいな。フフ、王都を侵攻した後はそいつらを根絶やしにするのも一興かもしれん」
……。
…………そんなこと、絶対にさせるものか。
――この戦いが終わったら、ルアの故郷の仲間を見つけに行こう
僕はルアとそう約束をしたんだ。
絶対に……、絶対に負けるものか。
僕は決意して剣を構える。
「リ、ジル様……」
「フン。そんなにこの女が大切か? いいだろう。お前を倒した後、この女から血祭りにあげてやるぞ、リジル」
ルギウスが両手を広げると、今までよりも大きい黒い影が集まり始める。
魔王の障壁。
あれを突破しなければ、ルギウスに勝つことはできない。
もっと、もっと威力のある攻撃を……。
僕は一つの剣技に思い当たり、剣を鞘に収める。
「クハハハ! なんだ、観念したかリジル!」
今まで一度も成功したことのない技だ。
けど、僕だってこれまで色んな戦闘を繰り返してきた。
今なら……。
いや、今こそ……!
鞘に収めた剣の柄を握り、全神経を集中する。
僕の右手に浮かぶ紋章、欠落紋が一際強く発光するのを感じた。
僕に力があるなら、今こそその力を使いたい……!
「これで最後だ、リジル!」
ルギウスが言うと同時、ルギウスからは巨大な黒い影の塊が放たれた。
僕は魔石剣エルブリンガーを抜刀し、叫ぶ。
「――メテオスラッシュ!!!」
「なにぃ!」
書物の中でしか存在しないと言われる、神速の最上級剣技だ。
ルギウスから放たれた黒い影を斬り伏せ、懐に入る。
一撃、二撃、三撃――。
同一箇所への多重会心攻撃。
僕は持てる力を振り絞り、ルギウスの体に埋め込まれた黒い石めがけて剣を振るう。
もっと。
もっとだ……!
「うぉおおおおお!」
そして最後の一撃が障壁を貫き、魔石剣エルブリンガーの切っ先が黒い石へと届く。
「ば、馬鹿なっ!」
「ハァアアアアア!!」
僕が勢いそのままに突進すると、最後にはルギウスの体に埋め込まれた黒い石を砕く手応えを感じた。
「グ、ハァ!」
そうして、倒れ込んだルギウスの周りからは黒い影が消え去ったのだった。
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